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308.5話 影舞台の記録・2

今日は新章開幕という事で、いつも通り2話投稿します!

21:22頃に本編とこれまでのキャラ紹介を投稿しますので、よろしければご覧ください!

 グランディア王国内、某所。

 人々も寝静まる真夜中に、密会を交わす男女がいた。


「……そうですか。では、各地にいる魔術師に撤退指示を出しなさい。これ以上被害が出ても困ります」


「はっ」


 新たな命令を受領し、深く頭を下げる魔術師の男性に、その主たる女性――プラーナ=ルクスリアは部屋を去るようにと仕草で指示を出す。

 彼は何も言わずに立ち上がり、足音も無く部屋を立ち去って行った。


 残されたプラーナは面倒くさそうに書類を手に取り、瞳を開けないまま目を通す。


「厄介なことになりましたね……。まさか、始原の魔女までもが我々を敵視し始めるようになるとは」


 頭を抱えながら悩みを漏らすと、彼女の影の中から一人の少女が姿を現した。

 その少女の服装は、かなりゴシック色の強い黒のワンピースではあるが、要所要所に身を護るための軽鎧がつけられていることから、身軽な女騎士のようにも見える。


「敵さんもいよいよ本気だねー。あっという間に二割近く削られちゃったんじゃない?」


「如何に魔術刻印があるとは言え、強大な力を持つ始原の魔女や魔王相手にはあまり効果がありません。仕方がないでしょう」


「このままだと、計画を進めるどころか全滅させられちゃいそうだねー」


 少女の言葉に意を介せず、彼女は小さく茶を啜った。

 そんなプラーナの反応が面白くなかったのか、少女はテーブルに身を乗り出しながら頬杖を突き、足を軽くばたつかせる。


「無視しないでよー」


「……はぁ。貴女のために色々と画策しているのです。今までならば、魔女相手であろうと渡り合うことが出来ましたが、流石に神や始原の魔女が相手である以上、多少の損失は覚悟しなければなりません」


「そうは言うけど、ちょーっとやられすぎなんじゃないの?」


「仕方ありません。我々魔術師はこれまでに神との交流は無く、その対策も無いのですから」


「はぁーあ。こうして、罪の無い魔術師は再び魔女に殺されてしまうのでした。まーる」


 煽るような口調に、プラーナが遂に眉を小さくしかめた。


「罪の無い魔術師を手に掛ける神の言葉とは思えませんね、ソラリア様」


「あれは私に背信したから当然の罰なの」


 ソラリアと呼ばれた少女は頬を膨らませ、ソファの背に腰掛けながら、先日一人の魔術師の魂を刈り取った凶刃を取り出した。

 蝋燭の明かりに鈍い煌めきを灯す切っ先を指の腹で撫でつつ、横目でプラーナを見ながら悪びれずに言葉を返す。


「それに、統率が取れていないのはそっちが悪いんじゃないかなー。違う?」


「人間という生き物は、全てが全て統率できる種族ではありません。以前にも同じ話をしたかと思いますが」


「あー、はいはーい。お説教はいらないでーす」


 大鎌を消し、そのままぽすんとソファに体を落とすソラリアに、プラーナは溜息を吐いて見せた。

 神の座を追放された【夢幻の女神】ソラリア。そんな彼女も、事故とは言え“神の器”であるシルヴィ=グランディアに力を奪われては、ただの生意気な少女にしか見えず、せっかく力の根源となる魔力を集めても、勝手気ままにそれを使ってしまうソラリアにプラーナは常々頭を悩ませていた。


 魔女に居場所を奪われ、日の光の下で生きていけない魔術師の立場を覆すための“新世界計画”。

 本来であれば、十六年前にグランディア王家に生を受けたシルヴィがある程度成長してから行う予定であったが、シルヴィが二歳の誕生日を迎えようとしていた際にソラリアが単独で行動した結果、王家の宮廷魔法使いや当代の国王に激しく抵抗され、現在のような杜撰な歴史の改変となってしまっていた。


 二度目の実行には万全を期すためにと、ソラリアを常に監視下に置いて力を蓄えさせてはいるが、それまでに自分の堪忍袋の緒が切れてしまわないかが目下の悩みどころである。


(すべての事が成り次第、ソラリア様――いえ、ソラリアを“神の器”である彼女に封じ込め、器ごと破壊すれば私達の計画の妨げになる物はいなくなる。それまでの辛抱です)


 形式上はソラリアを信仰しているプラーナは、内心でそう不満を零さずにはいられなかった。


 しかしソラリア自身も、魔女に代わって世界に居場所を作ろうとする魔術師による“新世界”の創造に力を貸してはいるが、彼女の本命がその奥にあることはプラーナでさえ知らないのだった。


(人間なんてどうでもいい。どうせ“新世界”になったら、天界の神々(あいつら)ごと地上で無様に泣き叫んで死ぬだけなんだから)


 ソラリアは行儀悪く膝を組み、大して興味も無い経済学の本を開きながらほくそ笑む。

 彼女にとっても、魔術師という存在は自分の復讐を果たすための駒にしか過ぎない。用が済んだら捨てればいい、ただそれだけの価値しか見出していなかった。


 二人は協力関係にありながらも、最終的にはお互いを裏切る腹積もりなのであった。


「それで? 結局あの魔女達はどうするの? 何なら、私が行ってあげようか」


「貴女が出向けば、せっかく貯めている魔力が再び浪費されてしまいます。何度も言いますが、神体の維持というのには莫大な魔力が――」


「あーあーあー、聞こえない聞こえなーい」


 本を顔に乗せ、両手で耳を塞ぎながら話を妨害するという、さながら子ども染みた行為にプラーナは再び溜め息を吐いた。


 この生意気な女神にこれ以上資金を奪われないためにも、早々に次の手を打たなければならないと決意し直し、プラーナはすっかり冷めてしまった茶に口を付けた。

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