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299話 魔女様のクリスマス・前編

 各種プレゼントの用意も終わり、いよいよクリスマス当日を迎えてしまいました。

 この日までに皆さんの素行がどれほど良かったかと言いますと。


「見て見てフローリアさん! 頑張ったスタンプいっぱいになったよ!」


「あらぁ! 私だって負けてないわよ~? じゃじゃ~ん!」


「わぁ! フローリアさん、あとちょっとでいっぱいだ!」


「うふふ! これでサンタさん来てくれること間違いなしね!」


「うん! サンタさん、ホントに来てくれるかなぁ……」


 日頃の努力が可視化できるように、“お手伝いをしてくれたらスタンプを押す”という形でスタンプカードを作ってみたところ、二人とも競い合うかのように沢山手伝いをしてくれたおかげで、ここ一週間の私はとても楽をさせていただくことが出来ました。

 ちなみに、レナさんにも同じようなカードを渡していて、二人の会話には入らないようですが、彼女のカードも既にいっぱいになっています。


 そんな当日の夕食は、レナさんから異世界の文化を聞いて、私が腕に寄りを掛けて作った渾身のパーティメニューとなっています。


「皆さん、ご飯ができましたので運んでくださいますか?」


「「は~い!」」


「ホント元気ねぇあんた達」


『くふふ! 聞き訳が良いのは良い事じゃ』


「まぁね~」


 彼女の世界ではクリスマスは一際特別感のある華やかなメニューが並ぶらしく、それに倣って様々な工夫を凝らしてみました。

 プレーンクッキーの上にクリスマスツリーに見立てたポテトサラダを始めとした前菜に、鳥を一羽贅沢に丸焼きにしたローストチキンや、サクサクの衣をつけたフライドチキンなどの鶏肉主体のメインディッシュ、そしてごろごろと大粒のミートボールを加えたミートパスタと、ほうれん草とサーモンのキッシュです。


「わぁ~!! 今日はパーティだねお姉ちゃん!」


「ん~! どれも美味しそう! 見た目も華やかで凄いわ!」


 どれも時間がかかる物が多く、一人で作り切るにはかなり苦戦しましたが、こうして喜んでもらえるなら頑張った甲斐があったというものです。


『主よ、今日は随分と豪勢だな』


「今日はクリスマスという日のようで、皆さんでパーティを楽しむ日らしいですよ」


『ほぅ……。人間の文化は何かにつけてパーティをしたがるな』


『日々の勤労、学業、育児などから解放され、食で命に潤いをということじゃよ』


『我には理解しがたい習性です』


『くふふ! ほれ、お主の分もたんと用意してあるぞ』


 メイナードに鶏肉を出すのはどうかとも考えましたが、彼曰く『弱肉強食だ』と言っていましたので、皆さんと同じものを出すことにしています。


『さて! 異世界の文化ではあるが、とくと楽しむとしようぞ! いただくのじゃ!』


「「いただきます!」」


 お肉がいっぱいだと喜ぶエミリ、料理の味に大満足で頬を押さえているフローリア様、賑やかな食卓に釣られて笑顔になっているレナさん。

 そんな皆さんの様子を笑いながら、メイナードにクリスマスとは何かと説明するシリア様と、それを聞きながら食事を進めるメイナード。


 本当に、私の人生は今年一年で見違えるほど明るくなりました。

 今まではこうした行事なんかは一切縁が無く、年末もいつも通り食事を用意しては、沈黙に包まれたまま新年を迎えていました。自分の誕生日で、ようやく少し贅沢に料理を作るか考えていた程度です。

 それが、こんなに多くの人と食卓を囲むようになり、自分だけでは無い誰かのために料理をする楽しみを味わえるようになったのはとても幸せな事だと思います。


 そんなことを考えつつ、シリア様の冗談でメイナードが困っている様子を笑っていた私に、レナさんが話しかけてきました。


「でもさ、年末になると色々と一年を振り返っちゃうわよね~。シルヴィとか、もう別人レベルで激動の一年だったんじゃない?」


「そうですね。シリア様と塔を出た四月に始まり、その翌月にはレナさんに襲われましたから」


「言い方ぁ! もぅ……。で、それから六月頃に魔導連合に招待されて、技練祭に参加したのよね」


「あの時のシルヴィちゃんとレナちゃん、最っ高にカッコ良かったわ~!」


「ありがとうございます、フローリア様」


『恰好は付いたが、妾としてはお主が無茶をしておったせいで肝を冷やしておったぞ。ほんに自己犠牲を厭わぬその精神、何とかならんか』


「まぁまぁ。あの時はああでもしなかったら切り抜けられなかったんだから仕方ないじゃない。そう考えると、エルフォニアってやっぱやばい魔女よね」


「あの時の彼女は、全力とは言いつつも加減をしてくださっていたような気がします。直感ですが、エルフォニアさんは私の神力のような隠し玉を持っていたのでは無いのでしょうか」


「えぇ!? あいつあれより強くなるってこと!? 流石に無いでしょ!」


『くふふ! 果たしてどうかのぅ……。おぉ、エルフォニアと言えばあ奴、海で随分とはしゃいでおったでは無いか』


「海! エルフォニアさんとペルラちゃん、あとスピカさんといっぱい遊んでもらったよ!」


「私が魔王城に攫われて、色々あってレオノーラが招待してくれたんですよね」


「攫われたきっかけって、シルヴィが初めて怒った時だったわよね。あれはめっちゃびっくりしたわ……未だに忘れられないもん」


「そ、そんなにですか?」


「そうよ~! シルヴィちゃん、あんなに怒ってたのあれっきりでしょ? いつもニコニコしてて優しい人が怒った時って、凄く印象に残るのよ~」


「すみません……」


『別にお主が謝ることではなかろ。あれは妾とメイナードの悪ふざけが過ぎただけじゃ』


『なんだ主、まだ根に持っているのか』


「あんたねぇ、自分でやっておきながらその言い方は無いでしょうよ」


「お姉ちゃん、もう一人でどこか行かないでね?」


「大丈夫ですよエミリ。もうやりませんから」


 当時を思い出して不安そうな顔を浮かべていたエミリを撫で、今年の振り返りを続けます。


「魔族領、海と続いたら、次はやはりあれでしょうか」


『お主がハメられた人間領の件か。あれもまぁ、中々印象深いのぅ』


「あの時から、ちょいちょい魔術師があたし達に絡んでくるようになったのよね。思い返してもムカツクわあいつ……」


「結局、魔術師の子達は何が目的なのかしらね~。魔女に恨みがあるって割には、なんだかシルヴィちゃんが毎回巻き込まれてないかしら?」


「言われてみれば確かにそうかもしれません。イースベリカの件も、レオノーラが狙いでしたが私もその場に居合わせていましたし」


「偶然じゃない? ていうか、世界中のどこにでも潜んでるからどこ行っても巻き込まれる可能性が高いんじゃないかしら」


『その可能性もあるが、まぁ用心するに越したことは無い。妾達は現状、人間と魔族の架け橋となっておる訳じゃからな』


「そうね~。今私達がいなくなったら、和平も難しくなっちゃうかもしれないし。だからこそ、シルヴィちゃんとレナちゃんには強くなってもらわないとねっ!」


「あんたも戦うのよ」


「えぇ~!? 痛いの嫌よ~!」


「あたしだって嫌だっての!」


『小娘はワガママだな』


「うっさいわよ! 冬は本格的なごく潰しのくせに!」


『我は主の翼だ。主が出かけないのであれば、我も外に出る必要はない』


「くっ……! こいつ、ホント口が減らないわね!」


「あ、メイナードくんがお姉ちゃんの翼なら、わたしは乗り物になってあげる! わたし、すっごく早いよお姉ちゃん!」


「エミリ……っ!!」


『やめんか阿呆! 貴様までフローリアのようになられては敵わん!!』


「そうよシルヴィちゃん! 抱き付くときは、こう! こうして腕を回して、ぎゅっとやるの!」


「むぐっ!? あ、あたしで実演しなくていいからぁ!!」


 賑やかな食事はまだまだ続き、私達の家は遅くまで明かりが灯っていました。

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