297話 異世界人はスノードームが欲しい
『ラティスさん、こんにちは。少しお聞きしたいことがあるのですが、お時間のある時にご返信貰えますでしょうか』
すると、ラティスさんから即座に返信がありました。
『今なら手が空いています。どうかしましたか?』
『イースベリカに、“スノードーム”というものは置いてありますか?』
『スノードーム……聞いたことがありません。どこで聞いたのですか?』
『レナさんに今欲しい物を聞いてみたのですが、スノードームと答えが返ってきまして。もしかしたら、スノーボードの仲間かと思った次第です』
『なるほど。残念ながら、スノーボードとは関係は無いと思います』
「やっぱりそうですよね……」
『じゃろうな。となれば、レナの世界に関連する物だと思うが』
「あ、ちょうど続きがあるみたいです」
『少し待っていてください。レナさんと言うことは異世界の可能性が高いので、リョウスケを呼んできます』
『すみません、ありがとうございます』
ラティスさんにお礼のメッセージを送り、私はふと疑問を感じました。
「そう言えばラティスさん、リョウスケさんを呼んで来ると言っていますが、近くにいらっしゃったのでしょうか」
『あ奴の事じゃから、言葉通りの意味じゃろう。リョウスケに対して転移を使い、自分の下へ連れてきておるのでは無いか?』
「そんな無茶苦茶な……」
流石に無いと信じたい私でしたが、直後にウィズナビに連絡が掛かってきたのを見て、嫌な予感しかしませんでした。
「はい、シルヴィです」
『こんにちはシルヴィさん。ラティスです、元気にしていますか?』
「はい。あれからこちらの森でも雪が降ってきていますが、私を含め皆さん元気にしていますよ」
『そうですか、それは何よりです。それで、スノードームの事ですが、リョウスケを呼びよせましたので代わりに説明させますね』
あぁ、やはり無理矢理転移させられていたのですね……。
リョウスケさんに内心謝りながら彼の交代を待ってみますが、何か揉めているらしく中々代わっていただけません。
『ラティス様ぁ! 強制転移はやめてくださいってホント! マジ心臓に悪いですって!』
『いい加減慣れてください。それより、シルヴィさんが待っています。早く代わりなさい』
『ひぇ!? し、シルヴィちゃん!? なんで!? え、ホントに俺に用なんですか!?』
『あなたにしか分からないから、あなたを呼んだのです。そこまで説明しなければ分かりませんか?』
『いや普通は分かんないですけどね!? ぁいっだ!! すいません、すいません! 分からないのは俺です!!』
何でしょう。やや鈍い音が聞こえてきてしまい、リョウスケさんの身を案じてしまいます。
隣ではシリア様が溜め息を吐いていますし、どうにもラティスさんからリョウスケさんへの扱いの雑さが伺えてしまいます。
『待ってくださいラティス様! いやちょっとマジで急な事過ぎて、俺全然冷静になれないんですけど! え、なんでシルヴィちゃんが!?』
『冷静になりたいのなら、氷漬けにしてあげましょうか?』
『あー大丈夫です! 何かめっちゃ冷静になれた気がしました! 喜んで代わらせていただきますはい!!』
ドタバタと駆けてくる音に続いて、彼の咳払いが数度続き、ようやくリョウスケさんが交代してくれました。
『こ、こんにちは……。リョウスケです、何か、ご用でしょうか……』
「こんにちはリョウスケさん。少しお聞きしたいことがありまして、今大丈夫でしたでしょうか?」
『今はぁ、あまり良くはなかった――あぁ嘘です嘘です! めっちゃくちゃタイミング最高でした! 大丈夫、モーマンタイです』
「そ、そうですか。ええと、知っていれば教えていただきたいのですが、“スノードーム”というものはご存じでしょうか?」
『へっ? スノードーム? 何でシルヴィちゃんがそんなのを知ってるんだ?』
「ということは、やはり異世界の物なんですね」
『まぁ、そうっすねぇ……。俺達のいた世界ではお土産として結構メジャーなんですけど、こっちでは確かに見ないな』
『あなたが日頃から、技術局に引きこもっているからでは無いのですか?』
『いやいやいや、俺のせいじゃないですよラティス様、たぶん。こっちだとまだ作られてないんじゃないですかね?』
『そうですか。なら、あなたが作れば問題ありませんね』
『今日は一段と無茶言いますね!? あ、嘘です待ってくだ痛ああああああっ!?』
ウィズナビ越しに聞こえてくる悲鳴に、思わず顔をしかめてしまいました。
彼らのやり取りはともかく、スノードームについてはリョウスケさんを頼らないとどうにもならなさそうです。
「すみませんリョウスケさん。その、スノードームの仕組みを教えてくださいませんか?」
『いててて……。あ、えっと、じゃあラティス様に協力いただければですけど、試しに作って送りますよ。それを見本にしてもらう方が、たぶん早いです』
『また私が手を貸さなくてはならないのですか?』
『作れって言ったのラティス様――あいででででででで!! 待って、腕はそっちに曲がらなあああああああ!!』
『ラティスよ、一々手を上げるな。話が進まぬ』
『失礼ですねシリア。まるで私がすぐ暴力を振るう人であるかのような言い草はやめてください』
ラティスさんの返しに、気まずい沈黙が訪れました。
その空気を無理矢理流そうと、リョウスケさんが明るく務めながら纏めます。
『とり、とりあえず! 後で作ってみますんで、作れたらお送りします。それでいいですか?』
「はい、ありがとうございますリョウスケさん」
『ふへっ……。全然気にしないでください!』
『リョウスケ?』
『あー! ラティス様が忙しそうですのでこれで切りますね! それでは!!』
半ば一方的に通話が切られ、部屋に静寂が戻ってきました。
「とりあえずは、リョウスケさんを待つ形で大丈夫でしょうか」
『うむ。あ奴が死ななければよいが……』
「リョウスケさん、苦労人ですね……」
私達はリョウスケさんの身を案じながら、レナさん達の部屋を後にすることにしました。




