5話 魔女様は襲われる
遂にシルヴィ以外の魔女が登場です!
彼女はどうやら、何か目的を持って行動しているみたいですが・・・?
続きは明日の20時過ぎに更新です!
「回復ポーション三十本です。これで今回の分は足りますか?」
「はい! いつもありがとうございます~! では、これが前回の分のお代と、こっちが頼まれてた商品です!」
ディアナさんと品物の交換をして、代金も受け取ります。最近では私の特製ポーションの人気が高騰しすぎているせいで、一本当たりの値段もかなり高く設定されているらしく、いただく代金も多くなっています。
私のポーションの値段は、今まで一般的だったポーションのほぼ二倍で銀貨五枚。街での相場が分からなかったため聞いたところ、こんな感じの回答をいただきました。
「銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨と種類があるんですけど、ひとつ下の貨幣が十枚でひとつ上の貨幣と同等の価値になりますね! 銀貨十枚で金貨一枚みたいな感じだと思ってもらえれば!」
ちなみに、銀貨六枚もあれば普通の宿で宿泊ができるそうです。
さすがに高すぎでは……と思いもしましたが、命に関わるポーションという存在は元々安くはないらしく、致命傷でも程度持ち直せるポーションの中でも、効能が段違いだった私のオリジナルポーションは需要が高まる一方なので問題がないとのことでした。
私としては本当に必要な人の手に渡ってほしいので、あまり高くしすぎないでほしいとお願いしているのですが、冒険者という職業は命の危険が伴う分それなりに収入も多いようで、これでも安い方だそうです。
「あ、そうだ魔女様! この前街に別の魔女がいらしてたんですよ!」
「魔女ですか? 私もいますし、そう珍しくもないのでは……」
「魔女が至る所にいる世界とかどんな世界ですかね……。そもそも、魔女というのはあまりお見掛けすることが無いんですよ~。まさしく神出鬼没って感じなんで、初めて魔女様に会った時も本当にびっくりしたんですから!」
言われてみれば、私と初めて会った時のディアナさんは相当取り乱していましたね。自分が魔女を名乗っているのであまりぴんと来ませんでしたが、普通の人間はそもそも生きている内に魔女と会うことはあまりないそうです。
「では、その魔女の方が見えて街は大変だったのでは?」
「いやー、それがですね。森の魔女様がお見えだ! と勘違いした街の方が盛大におもてなししちゃいまして。当の魔女の方も混乱しっぱなしでしたね」
そう言えば、街の方には私のことは“森の魔女”としか伝えられていないのでした。容姿までは伝わっていないと思いますし、街の方々に勘違いされてしまったのでしょう。
私がその様子を思い浮かべてくすくす笑っていると、ディアナさんも釣られて笑い出し、その後の話を続けてくださいました。
「それで、その魔女の方から本来もてなされるはずの魔女はどこだーって個人的に聞かれまして」
「はい」
「魔女様の診療所の場所を教えちゃいまして」
「はい……。え?」
それはつまり、その方がここに来ると言うことではありませんか? まさか、本当の魔女とは何たるかを教えるために私の所在を……?
「何故勝手に教えてしまうのですか!?」
「ご、ごめんなさいぃ! ワタシも喋ってから、あっ! て思った頃には既に手遅れで……」
「ディアナさん! 私、街の方には私のことは詳しく教えないでくださいってお願いしましたよね!?」
「い、いやほら! その魔女の方って街の方じゃないって言いますか、何て言いますか! えーっとごめんなさい! 次の配達があるので、それでは~!!」
「あ、ディアナさん! 待ってください、まだお話は終わってませんー!!」
完全に逃げられてしまいました。もうその姿は小さくなっているので、今から追いかけるにも遅いと思います。
どうしましょうか。魔女が近くに来ているということをシリア様に知らせるべきでしょうか? ですが、ディアナさんから伺った限りでは友好的な印象でしたし、あまり警戒する必要はない……ようにも思えます。
ならば、せめてお菓子の用意でもしてお話してみるのが良さそうですね。私はシリア様以外の魔女を知らないので、魔女としてのお話や常識についても興味があります。
そう考えながら家の中に戻ろうとした時でした。
突如強めの風が少し離れたところへ向けて抜け、同時に桜の花びらが渦巻きながら、その中央に柱を作り出しました。
「な、何ですかあれは……?」
あまりにも突然の出来事に困惑しながらその様子を見ていると、風の勢いが徐々に収まり、ひらひらと花びらを舞わせながら一人の女の子が姿を現しました。
その子はエミリとそこまで変わらなさそうな年頃のようにも見えますが、塔から見ていた学生の方達のような黒と赤を基調とした制服と、その上から羽織っている裏地がピンク色の黒いローブが違和感を感じさせられます。
そう、まるで私と同じ魔女のような――。
「っ!?」
ぼんやりと考えていると、その子は茶色のお下げの髪を揺らしながら、私に向かって急接近してきました。結構離れていたはずですが一気に距離を詰められ、反応が遅れてしまいます。
それを見逃してもらえるはずもなく、勢いを乗せた回し蹴りが私の側頭部を狙います。ですが、間一髪で展開した防護結界がそれを防ぎ、鈍い音が周囲に響き渡りました。
「ふぅん……。見た目ほどのんびりした反応速度ではないのね」
「な、何なのですかあなたは!?」
小柄な容姿からは想像できないほど、重い連撃が私に襲い掛かります。どれも防ぎ損ねたら怪我では済まないような威力なのに加え、捌きながらも徐々に押されているのが焦りを生みます。
「どうしたの? 何も反撃しないなんて魔女らしくないじゃない!!」
「私にはっ、あなたを攻撃する理由がありません……から!」
「殺されるかもしれないのに? 随分と余裕なのねあんた!」
「余裕なんてありませんが、それよりも私は、あなたが攻撃してくる理由が知りたいです!」
「理由? そんなの決まってるじゃない」
にぃっと明るい茶色の瞳が細められ、更に連撃の速度が増します。それと同時に彼女の動きの後に桜の花弁が舞い散り始めました。
単純な連撃の中にフェイントも織り交ぜられ、結界が間に合わず屈んだ頭上を鋭い蹴りが空を薙ぎ、髪が数本宙を舞います。桜の花弁で視界も徐々に悪くなってきていますし、集中して防御しないと本当に死んでしまうかもしれません。
「ご挨拶よ、ご挨拶! 魔女同士こうして会ったんだから、挨拶するのが礼儀ってもので……しょ!!」
「っくぅ! そんな挨拶、聞いたことがありません!!」
「っとと」
強めに弾き返され、よろけた体勢を後ろに飛び下がりながら整えるその子は、準備運動は済んだとでも言わんばかりにその場で数度ジャンプし、何かの構えを取りました。
「それじゃ、温まってきたしとっておきのご挨拶と行こうかしらね!!」
まだ何か来る、と思った直後。彼女は大きく跳躍し、高高度から私に向けて蹴りの体勢を取りながら突撃してきました。周囲に桜の花弁が舞い踊り、幻想的なその光景に一瞬見惚れてしまいましたが、今はそれどころではありません。
逃げられるものではないと判断し、防護結界を何重にも重ね、さらに硬度強化の魔法を付与します。そして真っ向から彼女の蹴りを受け止め、結界と彼女の間で激しい爆風と花びらが舞い上がりました。ですが、彼女の勢いは殺せていません。
「止められるものなら止めてみなさい!! やああああああああああっ!!」
「ぐっ、うぅぅ……!!」
更に魔力が込められ、結界にヒビが入り始めました。私はより硬度を増すように、多面積で受け止めていた結界を一点に集中させましたが、彼女の勢いは凄まじく、その上から結界が一枚ずつ割られていきます。
このままでは本当に全部割られてしまうかもしれません――。そう危機感を覚えた瞬間、体の奥底から今まで感じたことのないような魔力の流れが溢れ出し、私が展開していた薄紫色の結界の色を黄金に塗り替えていき始めました。
それに併せ、私が感じていた衝撃が途端に軽くなっていくのが分かります。これなら受け止め切れます……!!
「嘘でしょ!? あたしのとっておきよ!?」
「今です!!」
「えっ、きゃあああああああああ!?」
衝撃を完全に受け止め切り、驚愕の表情を浮かべる彼女を思い切り弾き返しました。弾く、という行為は攻撃には該当しないのですが、それでも多少なりともダメージを与えてしまったようで、体に鈍い痛みが【制約】の代償として跳ね返ってきます。
痛みを堪えながら跳ね返した先を見ると、襲ってきた魔女の子は地面に力なく倒れていました。完全に脱力しているようで、どうやら気を失ってしまっているように見えます。
いきなり襲ってきたとはいえ、私が弾き返して気を失わせてしまったのは事実です。治療しなくてはと思いゆっくりと近寄ると、どこからか柔らかな女性の声が聞こえてきました。
 




