292話 義妹はアイドルを目指す
今回で雪国編が完結となります!
明日は新章開幕という事で、いつも通り幕間のお話を投稿してから本編投稿となりますので、ぜひお楽しみにお待ちください!
荷物をまとめ終え、親しい魔女の方々に別れの挨拶をして回っていると、同じく挨拶回りを終えたらしいレナさん達が私とシリア様の方へと駆け寄ってきました。
「シルヴィ達はもう終わった?」
「はい。あとはラティスさんとリョウスケさんくらいです」
「あー、騎士団長さんはダメらしいわ。この後会議があるらしくて、それの準備で忙しいんだって」
『あ奴には世話になったが故に一言くらい礼を言うべきではあるが、仕方あるまい。ならば、あ奴のおもちゃは?』
「相葉さんも出席するんだって。さっきウィズナビで連絡してみたけど、忙しいのか声が途切れ途切れだったわ」
「なるほど……。では、ウィズナビでメッセージだけでも送っておくことにしましょう」
「そうね。それが良いと思うわ」
レナさんと一緒に、ラティスさんとリョウスケさん宛にメッセージを送り、帰りの手配をしていただくためにアーデルハイトさんの下へ向かいます。
中央ホールにある猫の石像前には、私達以外にも帰り支度を済ませた魔女の皆さんが待機列を作っていて、手土産の袋を両腕に提げている方もいれば、よく分からない彫刻品を抱えている人もいます。
「こうして見ると、ホント亜空間収納って便利よねー。あ、シルヴィこれもお願いしていい?」
「はい、預かりますね」
レナさんが買ってきたお土産を受け取って格納すると、いつものようにレナさんの頭にずしりと胸を乗せたフローリア様が笑いました。
「レナちゃんは魔力が少ないから使えないもんね~」
「仕方ないじゃない、あたしは一般人だったんだから! そんなこと言うフローリアこそ、神様のくせに自分のは使わないじゃん!」
「だって疲れるじゃない」
「その発言はサイテーよ! シルヴィ、フローリアの捨てちゃっていいわよ!!」
「やぁん! 捨てないでシルヴィちゃぁん!」
「捨てませんよ。それに、魔力の量に比例する魔法ですから、私が適任なのも分かっていますし」
塔を出る時にシリア様から教えていただいたこの魔法ですが、実は相当な上級魔法に該当するらしく、使用中の消耗もそれなりにあることから、魔導連合に所属する魔女でも半数以上は扱うことが出来ない魔法とのことでした。
実際は魔力を消費したのは初回だけで、塔を出る時にシリア様の荷物を預かった頃から、例の空間固定の魔法が働いていたという事実を知ったのはつい最近の出来事です。
「はぁー、あたしもそれ使えたら便利なのになぁ」
『くふふ! レナがあと四人おればギリギリ使えるやも知れんな』
「つまり一生無理じゃん!」
「大丈夫よレナちゃん! いざって時は、私のを貸してあげるからね!」
「滅多に貸してくれないから不便なんじゃない!」
「やれやれ。お前らはいつも騒がしいな」
『むぉ? おぉ、トゥナか』
騒がしくなり始めていた私達へ、アーデルハイトさんが苦笑しながら歩み寄ってきました。
彼は手元の書類を見ながら私達の人数を確認し、小さく首を傾げます。
「おい【慈愛の魔女】。まお――レオノーラさん達はどうした?」
「まだイースベリカでやり残したことがあるとかで、先に帰っているように言われました」
「そうか……。まぁラティス様もいるし、何かあっても対応してもらえるとは思うが、一応こちらで確認は入れておこう。では、送るのはここにいるので全員だな?」
「はい」
「分かった。気を付けて帰れよ」
「一週間、お世話になりました。ありがとうございました、アーデルハイトさん」
ペコリと頭を下げる私に、彼はふっと笑います。
「次に会う時は、お前が何もしでかさないことを祈ってるよ。お前絡みで肝を冷やすのはもう勘弁してくれ」
「あはは……。すみません」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか! またな、シルヴィちゃん。元気でな!」
突然、アーデルハイトさんの肩に手を回しながらそう言うヘルガさんに、アーデルハイトさんのこめかみに青筋が立ちました。これはまた、喧嘩が始まる予感がします。
「ヘルガ、お前という奴は何故いつもいつも!」
「ぐぇぇっ!! やめっ、首締まる! ギブギブ、ギブー!!」
『……ほれ、阿保は置いて早う帰るぞ』
「ま、待ってくださいシリア様! それでは、お先に失礼しますヘルガさん!」
「死なないでね副総長さん、またね!」
「お、おぅ……」
苦しそうにしながらも親指を立てて見せる彼に別れを告げ、フードの男性が待つ城門へと向かいます。
出国手続きを終え、彼の後に続いて亜空間をしばらく歩くと、あっという間に我が家の前に辿り着きました。
「それでは、私はこれにて失礼いたします」
「ありがとうございました」
フードの方は深々と頭を下げ、亜空間の中へと姿を消していきます。
その後ろ姿を見送り、家に入るとひんやりとした空気が肌を撫でました。
「うぅ~、さむさむ! エアコンエアコンっ」
「あっ、待ちなさいフローリア!」
フローリア様達がバタバタと二階へ上がっていく姿に笑いながら、私は指輪を通してメイナードに呼びかけます。
「メイナード、ただいま帰りました」
『主か。今行く』
一度外へ出て召喚陣を敷くと、陣の中からメイナードが勢いよく飛び出してきました。
彼は宙でくるりと舞い、私の前に降り立ちます。
「留守の間、何かありましたか?」
『何もない。寒いのは体に堪えるが、暇過ぎるのも考え物だ』
「ふふ。早速エミリを迎えに行きたいので、翼を貸してください」
『いいだろう』
メイナードの背に乗り、冷たい空気を裂きながらペルラさん達の酒場へと向かうと、中から賑やかな声が聞こえてきています。今日はお客さんが多いのでしょうか。
そっと扉を開けて中へ入ると、どうやら彼女達はダンスパフォーマンスの練習をしているようでした。可愛らしい歌声と共にステージを跳ねまわる姿は、いつまでも眺めていたくなるほど愛らしいです。
そんな彼女達の中で、一人だけ種族が違うのに同じように踊っているエミリを見つけた私は、一瞬で思考が止まってしまいました。
ひらひらとフリルの多い衣装に、歌に合わせて弾けんばかりの笑顔を見せるエミリは、まさしく天使と言っても過言では無いでしょう。
あまりの愛おしさに声を上げてしまいそうな口元を押さえ、俯きながら耐えていると、私に気が付いたエミリがこちらへ駆け寄ってくる気配を感じました。
「お姉ちゃんだ! おかえりお姉ちゃん!!」
「わわっ! ふふ。ただいま戻りました、エミリ」
私に抱き付きながら尻尾をぶんぶんと振るエミリを撫でていると、ふと脳裏にリョウスケさんの姿がよぎりました。
もしかして、彼がレナさんや私を前にして時々様子がおかしかったのは、今の私と同じ状況だったのでは無いのでしょうか……?
絶対に気のせいですと頭の中から追い出し、エミリに続いて駆け寄ってきたペルラさん達にお礼を言います。
「一週間、エミリを見てくださってありがとうございました」
「気にしないで! エミリちゃんね、私達と一緒に踊れるようになったんだよ!」
「そうなの! それでねお姉ちゃん、診療所が暇な時に遊びに行ってもいい? わたしもアイドルやりたいの!」
「この時期は診療所もお客さんは少ないので、ペルラさん達のお邪魔にならない程度であれば大丈夫ですよ」
「わぁ! やったぁ!」
「シルヴィちゃんありがとー!!」
ペルラさんとエミリは手を重ね、ぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表現しています。
可愛らしいその姿に和んでしまいますが、まずはお土産を配ることにしましょう。
「ペルラさん。イースベリカからお土産を持ってきたので、皆さんで一緒に食べましょう。酒場の一角をお借りして良いでしょうか?」
「お土産!? いいよ、ちょっと掃除するから待ってね!」
それから間もなく、レナさん達が合流した後にイースベリカでのお話を楽しみながら、いただいたアイスシャーベットを使ってフラッペを堪能します。
暖炉の暖かさに包まれながら楽しむフラッペは、一際美味しく感じられるのでした。
【作者からのお願い】
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