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289話 異世界人は運動神経が抜群

 あれから、魂が口から出て行きそうなリョウスケさんが回収され、流石にラティスさんも苦言を呈されたりとしていましたが、再び競技が進行し、気が付けばレナさんの出番となっていました。


「シリア様。レナさんがこういった遊びをしているところを見たことが無いのですが、大丈夫なのでしょうか」


『む? レナなら心配いらんじゃろうて。あ奴の運動神経には目を見張る物がある』


「レナちゃんね、会社ってところで雪が積もってる地域に何回か旅行に行ったりしてたんだって! それで滑り方を覚えたらしいわよ~」


 あんな傾斜の激しい坂を、何回か滑るだけで体得できるものなのでしょうか。シリア様ではありませんが、レナさんの運動神経には毎度驚かされてしまいます。

 そう言えば、レナさんは異世界ではオーエルという職業に就いていたそうですが、具体的にどのようなことをやっていたのかまでは、聞く機会が無かったのを思い出しました。

 忘れない内に、レナさんに聞いておこうと頭の中でメモを更新していると、司会の方が一際大きな声で私達の注目を惹きつけました。


『続いては、期待の超新星【森組】から――【桜花の魔女】レナの登場だぁぁぁぁぁ!!』


 彼の言葉に会場が沸き上がり、それに続くように坂の上にレナさんが姿を見せました。

 彼女はいつの間にか着替えていたらしく、桜柄が散りばめられている真っ白な専用の服に身を包んでいます。


「シールヴィー! フローリアー! しっかり見ててよねー!!」


「きゃー!! レナちゃん可愛いー!! 見てる見てるぅー!!」


 大きく手を振りながら呼びかけてくるレナさんに手を振り返すと、彼女はスタッフの方の指示に従いながら準備を進めていきます。


『さぁ、夏季技練祭では大いに沸かせてきたレナちゃんですが、今回はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか! 今、スタートです!!』


 司会の方の合図と共に、レナさんがぴょんと小さく跳ねて坂を勢いよく滑り始めます。

 すると、かなりの速さで滑る彼女の背後から、雪では無い小さな何かが追従しているのが分かりました。あれはもしかして、レナさんが戦闘に用いている桜ではないでしょうか。


『おぉっと!? 早速魅せてきましたレナちゃん! 魔力で作り上げた桜吹雪を巻き上げながら、グイグイと速度を上げていく! そんな彼女の眼前に迫るは、最初の見せ場となるキッカーだぁ!!』


 舞い上がる桜と雪で幻想的な光景を演出しながら、レナさんは更に加速してジャンプ台へと向かって行き――。


「せやああああああああああ!!」


『勢いよく小さな体が跳んだ! 回るたびに桜が渦となり、非常に圧巻です! そして着地を……決めた! 綺麗に二回転、フロントサイド七二〇だぁぁぁ!!』


「「うおおおおおおお!!」」


 空中で二回転を決めたレナさんは綺麗に着地し、両手を挙げながら次のジャンプ台へと向かって行きます。レナさんは続けて同じように跳び、今度はスノーボードの中央付近を右手で掴みながらくるりと半回転して見せました。


『シンプルかつ奥深いと言われているトゥウィークだぁ! レナちゃん、華麗に決めて見せました!!』


 司会の方の解説に出てくる単語は分からないのですが、賞賛されていることは理解できます。

 私も会場の皆さんに合わせて拍手を送っていると、ズームインされているレナさんが映し出されているマジックウィンドウ内で、ほんのごく僅かではあるのですが、レナさんの桜の色が黒く染まっているものがいくつか舞っているのを見つけました。


「フローリア様、あれ見えますか?」


「ん~? どれどれ?」


 フローリア様に指で示しながら、何故か黒く染まってしまっている桜について尋ねてみると。


「あぁ! あれは大丈夫よ。レナちゃん、この前の魔術師との戦いでちょっと危ない魔法使っちゃってね? その後遺症って訳じゃないんだけど、あの子の魔力の一部が変質しちゃったみたいなのよね~」


「魔力が変質って、本当に大丈夫なのですか?」


「大丈夫大丈夫! 最近は私が付きっきりで一緒にトレーニングしてるし、あれを利用できるように頑張ってるから心配しないで平気よ!」


 いつものようにふわりと笑うフローリア様ですが、何故か今日だけは嘘が混じっているように感じてしまいます。

 私を心配させまいと誤魔化してくださっているのでしょうか、と思っていたところへ、シリア様が補足するように口を挟んできました。


『レナの魔力は確かに変質しておるが、むしろ強化されておる。言うなれば、お主の神力と同じようなものじゃ。上手く扱うも力に飲まれるもあ奴次第じゃが、今は気にせんでも良い』


「そうですか……」


 私の時はレナさんに心配してもらっていた分、私も気にかけてあげた方がいいのではと思いますが、シリア様とフローリア様が気にしないようにと仰るのであれば、それに従うしかありません。

 どこか納得できていない心を見透かすように、フローリア様が私の頬を突きながら笑います。


「うふふ! 大丈夫よシルヴィちゃん。レナちゃん、今は自分と向き合ってる時期なの。それが乗り越えられたら、きっとシルヴィちゃんに自慢してくると思うわ」


『やや荒療治ではあるが、言葉通りの意味じゃ。レナが乗り越えられるかどうかは、レナにしか分からん。妾達は介入せず、あ奴の成長を見守ろうぞ』


「分かりました。レナさんならきっと大丈夫だと思いますし、私も信じることにします」


「良い子ね~! あ、見て見てシルヴィちゃん! レナちゃんがまた跳んだわ! きゃあ~! レナちゃんかっこいい~!!」


 ウィンドウに映るレナさんを見てはしゃぐフローリア様に私は微笑み、レナさんが直面している課題もこのジャンプのように乗り越えられるよう、祈りながら見守ることにしました。

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