4話 魔女様はポーションを作る
メイナードからポーションの作り方を学んだシルヴィが作り出したポーション。
それがきっかけで知名度を上げてしまうことになり……。
次回は、ついに他の魔女が登場します!
渡された入れ物を両手で包み込み、村の方を治療するみたいに魔力を少しずつ込めていくと、いつも治療の時のようにほんのりと輝きながら、徐々に水が緑色に変色していきます。しばらくしてこれ以上魔力が溶かせないことを感じたので、魔力の流し込みを止めて改めて見ると、先ほどの見本の物とは大きく異なってしまいましたが、鮮やかな色味のポーションが出来上がりました。
蓋を外して匂いを確かめると、うっすらと乾燥した茶葉のような匂いは感じられますが、どこか落ち着くような香りにも思えます。味も少し気になったので、手のひらに少しだけ垂らして舐めてみると、ほんのりと渋みはあるものの普通に飲めそうな出来上がりでした。
「どうですかメイナード?」
『人間が使う道具が我に効くはずがないだろう。そいつに聞くがいい』
「ではディアナさん、少し飲んでみて頂けますか?」
「ま、魔女様のポーションをですか!? その、自分で提案しておいて何なんですけど、ちょっと怖いといいますか、いやいや疑ってる訳ではありませんよ!? でもほら、なんかこう、分かります?」
分かりません。原材料はディアナさん持参の水と私の魔力だけなので、毒はないと思いますが……。
『つべこべ言わずに飲め。主を困らせる気か? 我が八つ裂きにしてやるぞ?』
「す、すみません飲みますぅぅぅ!!」
私からポーションを受け取ると、ディアナさんは数回深呼吸をした後、ぐいっと喉に流し込みました。
そしてカッと目を大きく見開き――。
「あ、すっごい落ち着く味ですねこれ~。なんだろう、おばあちゃんの家でのんびりしてるような気分になれます~」
どう受け取ればいいか分かりづらい感想をいただきました。おばあちゃんの家で寛ぐというイメージが湧きませんが、悪い味ではなかったということなのでしょうか。
「どうですか? 味と香りはさておき、効能としてお役に立てそうでしょうか」
「う~ん……。何とも言えないです。だってほら、ワタシ今怪我してないので。なんとなくぽかぽかするなぁくらいしか感じられなくて」
えへへと笑いかけるディアナさんに、メイナードが舌打ちをしながらまた脅し始めました。
『怪我が必要なら我が手伝ってやろうか。怪我では済まないかもしれんがな』
「う、嘘です冗談ですすみません!! でも怪我してる訳ではないので、効果が分からないのは本当なんですぅ~!!」
「メイナード。あまり怖がらせないであげてください」
『ふん、ふざけたハーピィ族だ。ならばお前、それを持ち帰り必要とする者に飲ませろ。それで分かるんだろう?』
「は、はい。たぶん分かるかと……」
『主、こいつに同じのを何本か持たせてやれ。どうせ一本だと、確証が得られないだのふざけたことを抜かし始めるぞ』
「そ、そんなことは言いま――ひいぃぃぃ!! 言いません、言いませんよぅ!!」
「メイナード」
『分かっている』
「ではディアナさん。同じものを数本ご用意しますので、試供品として街の方にお渡ししていただけますか? そして今度村へ来る際に、私の診療所まで反応について連絡を頂けると嬉しいのですが」
「もちろんです! 三日以内には、必ず連絡に行きますので!」
ディアナさんから同じ容器に入った水をお借りし、同じ要領でポーションを複製してお渡しします。
そして、これ以上遅くなると完全に日が暮れて飛ぶのが危なくなるということから、ディアナさんを外までお見送りしてお茶会はお開きとなりました。
メイナードの背に乗り家に帰ると、玄関先でエミリの頭上で不機嫌そうに尻尾を揺らしているシリア様がいらっしゃいました。
『シルヴィ!! お主出かけるのであれば妾に一言くらい残してええぇぇぇ!? なんじゃそ奴は!? 何故お主、カースド・イーグルなぞ従えておる!?』
「え、えっと、召喚術で応じて頂けたので、そのまま使い魔に……」
『阿呆! カースド・イーグルなぞ従えられる魔女がどこにおる!? 目の前におったわ! っていやいやそうではない、何なのじゃもう訳が分からぬ!!』
珍しく取り乱しているシリア様に狼狽えていると、メイナードが一人納得したように呟きました。
『ほぅ? なるほど、そういうことか。どうりで人間にしては異様な魔力なはずだ。主よ、お前は先祖返りだったのだな』
「メイナードは先祖返りのことを知っているのですか?」
『別に人間に限った話ではない。我らでも時折、先祖の力を色濃く引き継いだ個体が生まれることもある。大体は力に溺れ破滅していたがな』
やはり先祖返りというのは強大な力を持つものなのですね。私もそうならないよう、気を付けなければなりません。
でも、それよりも前にメイナードに伝えておくことがあるのでした。
「メイナード、お願いがあるのですが。私が先祖返りだと言うことは誰にも言わないようにしてください。あとで詳しく話しますが、私達はあまり話せない秘密があります」
『人間の秘密など大したことではないが、どれも面倒なものばかりだからな。いいだろう』
「ふふ、ありがとうございます。それで、その、シリア様……勝手な真似をしてすみません」
『いや、もう良い……。なんかもう妾は疲れた。こんなの規格外が過ぎるじゃろう……。帰るぞエミリよ』
「み、耳を引っ張らないでっ、シリアちゃーん……!」
エミリの耳を引っ張り帰宅を促すシリア様を追って、私達も家に入ります。とりあえず、詳しくはあとで話しておくとしましょう……。
それから三日。そろそろディアナさんが街での反応を持ち帰ってきてくれる頃だと思います。
『くははは! ほんに良い性格をしておるのぅメイナードよ!』
『くっくっく。シリア様ほどではありません』
色々ありましたが、シリア様が私の先祖返りであり神様であることを知ったメイナードは、シリア様に敬意を払うようになり、シリア様は彼の性格を気に入ったようで今ではすっかり話友達兼飲み友達になっています。
エミリもまだ恐々といった感じですが、メイナードと触れ合うようになっていました。これに関しては「エミリは家族だから仲良くしてあげてほしい」というお願いを良く聞いてくれていると思います。ありがたい限りです。
微笑ましく見ながら食器の片づけをしていると、一階のドアが強めに叩かれる音が響いて来ました。朝早くから急患でしょうか?
「私が行ってきます。エミリ、お皿をお願いできますか?」
「うん!」
帽子とローブを羽織り、玄関のドアを開くと、そこには急いできましたと言わんばかりに疲弊しているディアナさんの姿がありました。
「ディアナさん? おはようございます。かなり急いでいらっしゃったようですが……」
「ま、魔女様、おはようございます……! そして、助けてください! 毎日追い掛け回されて大変なんですぅ!!」
「え、えっと、落ち着いてください。どういうことでしょうか……?」
そのまま詳しく伺うと、どうやら私が作ったポーションは味や香りだけではなく、効能としても抜群に良かったらしく、冒険者と呼ばれる狩猟民族のような人達に大好評だったそうです。
傷はみるみる塞がるのに臭くない、むしろ安心する味ということで一気に噂が広まり、持ってきたディアナさんは一日中追い掛け回されているのだとか。なんだか申し訳なさを感じてしまいます。
「と、とりあえず事情は分かりました。あれで良さそうならば作ってみます」
「本当ですかぁ!? ありがとうございます魔女様ぁ~!! あ、そうです! 魔女様が作ったという話はしたのですが、ぜひとも街に卸してほしいということでお礼も兼ねてお金をもらってきています!」
そういうとディアナさんは、足元に置いてあった小ぶりの革袋を持ち上げて渡してきました。その中を見てみると、金色に輝く硬貨がずっしりと詰まっています。これが街の人が使うお金なのですね。
「こんなに沢山……。では、私がポーションを作成する代わりと言ってはあれですが、今後お代として受け取るこのお金で、街からの配達をお願いしてもいいでしょうか?」
「お任せください! このディアナ、魔女様のために何でも買ってきますよ!」
「ありがとうございます。ではディアナさん、これからよろしくお願いします。街の方にもよろしくお伝えください」
私との話し合いを終え、ディアナさんは元気よく飛び去って行きました。
そう言えばポーションの容器の話をするのをすっかり忘れていました。あとで村の方に相談してみる必要がありそうです。
これからさらに忙しくなりそうですが、なんだか楽しくなってきました。
「さて、今日も楽しく頑張りましょう!」
玄関先の看板を裏返し、診療開始の面にします。
魔女の診療所兼ポーションの問屋さんとして、早速動き出すとしましょう。
『シールヴィー! 酒の材料はどこにやったー?』
「あ、はーい! 今お持ちしますー!」
仕事も大事ですけれど、家のことも忘れずに進めないといけませんね。
 




