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2話 ご先祖様は猫になる

『……。……よ、……おるのじゃ』


「んぅ……?」


 誰かに声を掛けられた気がして、私は目を覚ましました。

 ですがこの塔には私以外誰もいるはずもないので、私は気のせいだろうと再び眠ることにします。


『これ、二度寝などするでない。既に日は高いのじゃぞ?』


「え……幻聴じゃない……?」


『幻な訳があるか、たわけ。ほれ起きよ』


 その声は少し呆れ気味でした。

 私は薄っすらと目を開くと、あまりにも予想もしない光景に一気に目が覚めました。私の目の前には真っ白な毛並みに、私と同じ深紅色の瞳を持った猫が私を覗き込んでいるではありませんか。


「な、なんで猫がここに!? え、喋ってる!?」


『ようやく起きたか。随分とお寝坊さんじゃのぅ』


 飛び起きた私へ、その猫はおかしそうに笑いながら同じように体を起こします。

 もう訳が分かりませんでした。この塔には私以外に誰もいませんでしたし、週に一度だけ生活用品の配達に来る魔導人形以外は誰も入ってくることが出来ないのに、朝起きたらベッドに喋る猫がいたとか、最早私がどうかしたとしか思えません。


 そこで私は、一つの結論を導き出しました。


「あぁ、そういうことですか。これが明晰夢というものなのですね」


 きっと昨晩寝る前に夢想した夢が、今もこうして続いているのでしょう。我ながら友達役に猫を選ぶとは、少し悲しくなるものがありますが。

 ですが、夢だと分かると落ち着くこともできて、これからどう楽しもうかと期待の方が上回ります。


「ふふ、夢ならば目いっぱい楽しむことにしましょう。何から始めましょう? まずは楽しく食事会でも……」


『何をぶつぶつと言っておる。変な娘じゃな』


 その猫は、私を見ながら首を傾げてそう言いました。私からしたら、変な喋り方をしている猫のほうが違和感しかないのですが……。

 いえ、最近読んだ本の中にもこんな話口調の人物もいましたし、きっとそれが影響しているのでしょう。


『よもや、まだ寝ぼけているのではあるまいな』


 そう言いながら猫は私の顔へ飛び掛かってきました。驚きで何もできないまま押し倒される形になると、私の頬を器用に前足で挟み込んできます。


「むぎゅぅ!?」


『ほれ、まだ分からぬか。妾は夢や幻ではない、実体じゃ』


や、やんえ(な、なんで)……? わひゃしの(私の)ゆえじゃ(夢じゃ)……?」


『何度も言わせるでないぞ? 妾はお主が作り出した幻ではなく、こうして実体のある元人間じゃ』


「元……?」


 自称元人間だと語る猫は頷くと、ようやく私から前足を放してくれました。普通に挟まれた感覚もありましたし、ちゃんと実体があるということは本当に幻じゃないのでしょうか……?


『うむ、妾はシリア。シリア=グランディアと言う。お主らグランディア王家の、二千年前の先祖にあたる者じゃ』


「ご、ご先祖様……? というよりも、シリア=グランディアと言いますと、神に迎え入れられたという大魔導士の神祖様のことですか?」


『そうじゃ。妾は現世では“女神シリア”とも言われることもあるが、お主からしたら神祖の方が馴染みのある呼び方じゃろうよ』


 そう誇らしげに胸を張る猫――もとい、神祖シリア様。私はもう、全く理解が追い付きませんでした。


「え、えっと……神祖様がなぜこの塔へ? それに神祖様はとっくに亡くなっているはずでは? そもそも、何故猫の姿なのでしょうか? あと……」


『ええい、待たんか! いっぺんに尋ねるでないわ!』


 シリア様はひとつ咳払いをすると、順を追って説明してくださいました。


『まず、妾が既に世を去っているのはお主の認識通りじゃ。二千年も前に生きていた人間が未だ生きている方が問題じゃろう。して、今の姿を猫にしておるのはちと訳があっての。現世で動き回るにはこれしか手段が無いのじゃよ』


 そこでシリア様は一度言葉を切りました。すると小さな猫の体が揺らぎ、徐々に半透明な人の形をかたどっていきました。それはとても見慣れた姿というよりも、鏡で毎日見る私そのものでした。


「わ、私……?」


『ふぅ……。だいぶお主に寄せられてはいるが、お主ではない。ほれ、お主とは瞳の色が異なるじゃろう?』


 シリア様の仰る通り、左右で色の異なる私の瞳の色ではありませんでした。両目とも深紅色で統一されています。


『話を戻すぞ。猫の姿を取っているのは、あくまでも現世で実体を保つ手段が無いからに過ぎぬ。人の形を取ろうとすると、このように非実体となってしまうのでな。まぁそれはさておきじゃ』


 小さくて可愛らしい前足で私を指しながら、シリア様が告げます。


『シルヴィよ、お主は“忌み子”として間引かれ幽閉されていると日々嘆いておったが、それがそもそもの間違いじゃ』


「どういう、ことでしょうか」


『お主の姿は忌み子ではない。妾の“先祖返り”による姿なのじゃよ』

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― 新着の感想 ―
[良い点] ご先祖様系妾口調ぬこ。うん好き(即決) 先祖返りしたそのご先祖様と話しているというのもまたまた奇妙なシチュエーション(笑) 面白いですね。そして真実が暴かれそうな予感がしますよ。
[良い点] 読ませていただきました! まだまだ日常パートにはたどり着いていませんが……。かつて大魔導士だった猫の先祖様と、王女のシルヴィが、これからどんな世界を目にするのか。私、気になります!という…
[良い点] 表紙絵はいつも拝見させていただいておりましたが、あの猫がそんな高位の存在だったとは。 現実と夢、二つの世界がどう動いていくのか、中々に展開の気になる物語です。 [一言] Twitterから…
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