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280話 魔女様は裁判に掛けられる

 やがて刻限の一時間となり、私達は玄関ホールへと一度集まることになりました。

 集まった皆さんは自分なりに証拠を探してきているらしく、確証を得ているために沈黙をしているラティスさんのような方もいれば、未だにあれこれと話し合っているレナさんやフローリア様のような方々もいます。

 そんな中、私は自分からいつ言い出すべきなのか、それとも追及されてから話すべきなのかと考えがまとまらず、沈黙しながら始まるのを待つしかありませんでした。


『……うむ、全員揃ったな。では、これより魔女裁判を執り行う! 見届け人となる者がおらぬのがやや気にはなるが、致し方あるまい』


 そう言いながらシリア様が何か魔法を行使しようとした時、それを止める声がありました。


「待ってくださいシリア。確かにこの場には見届け人がいませんが、あなたが神となって以降、魔導連合の技術はある者によって著しく進歩しているのです。この場に居合わせなくとも、見届け人を作ることが可能なくらい、です」


『どういうことじゃ?』


「説明するよりも見せた方が早いでしょう。全員、ウィズナビを手に持ちなさい。お手数ですけれども、レナさんかフローリアさんのどちらかは、そちらの秘書の方へ端末を貸してあげてください」


「ん、じゃああたしのを貸すわ」


「これは何の端末なのでしょうか?」


「今は気にせず、持つだけで構いません。では、始めますよ」


 ラティスさんは自分のウィズナビを素早く操作し、一通り操作を終えた後にご自身の愛剣を出現させると。


「【氷牢の魔女】の名において、ここに“魔女裁判”の開幕を宣言す。罪を逃れんとする卑しき罪人よ、この場で等しく裁かれよ。裁判(ゾーン)(・オブ・)開廷(ジャッジメント)


 それを床に突き刺したと同時に、玄関ホールの景色が一瞬で切り替わり、やや薄暗い空間が展開されました。

 その空間の中で、いつの間にか私達は円を描くように立たされていて、私達の前には立ち机が用意されています。よく見ると中央には小さ目の手帳が収まりそうな窪みがあり、足元には円形の台座が広がっていました。


 薄暗く、他に音も聞こえない空間で始まるのでしょうかと身構えていると、突如背後から低音の地響きを奏でながら何かがせり上がって来るのが分かりました。

 慌てて振り返ると、地面からせり上がって来ていたのは――。


「な、何あれ……。ギロチン台……?」


 レナさんの言う通り、人の首と手が収まりそうな穴が設けられた処刑台の両脇には、甲冑を身に纏った巨大な石像の騎士が、剣で忠誠を示すように構えながら佇んでいます。

 まさか、ここで犯人だと確定した人物は、あの石像が構えている大剣に首を刎ねられてしまうのでしょうか!?


「これは断罪の騎士です。己が罪を隠し、他人に擦り付けようとする穢れた魂を裁く、天の執行人でもあります」


 淡々と告げるラティスさんの言葉を聞きながら、私はこれから自分を待ち受ける展開に、逃げ出しそうになる気持ちを抑えつけるので必死になっていました。

 風味付けとして魔香草なんて使わなければ、あそこで首を落とされることなんて考えなくても良かったのに……!


 心の内の後悔など誰も気に留めることは無く、無情にもラティスさんによって裁判が進められてしまいます。


「全員、手に持っていたウィズナビを中央の窪みにはめ込みなさい」


 彼女の指示に従って窪みにはめ込むと、水色の光がウィズナビから発せられました。それは小さな光の玉となり、ふわりと宙へ浮かび上がったかと思うと、他の皆さんの物とひとつになり、まるで泡が弾けるかのように光の粒子となって消えてしまいます。


 しかし、それは消えた訳ではなかったらしく、薄暗かった空間に無数のマジックウィンドウが表示されていくではありませんか。

 よく見ればその中には、ローザさんやヘルガさんなど、見知った顔も映し出されています。こちらに向かって何か話しかけてきているようにも見えますが、どうやら私達に彼らの声は聞こえないようです。


「さて、準備は整いました。これから始まる裁判の見届け人として、魔導連合に所属する魔女全員が対象となります。これで異論はありませんね?」


『うむ、構わぬ』


「では、始めましょうか……。近年稀に見る、大魔導士二人を被疑者として召喚した魔女裁判を」


 開始を宣言され、私は固唾を飲んで今後の展開に身構えます。

 すると、少し申し訳なさそうにしながらも、レナさんが小さく手を上げながら尋ね始めました。


「あのー、あたし魔女裁判って初めてなんだけど、どう進行したらいいの?」


「あぁ、そう言えばレナさんやシルヴィさん達は初めてでしたね。では簡単に説明しましょうか」


 ラティスさんは少し大きめのマジックウィンドウを表示させると、細い杖のようなものを取り出しながら説明を始めます。


「魔女裁判とは、先程も言いましたが“魔女が人を害したと疑われている状況下で、自らの潔白を証明する”かつ、“自身を貶めようとした何者かを炙り出す”ための裁判です。見事犯人を炙り出せれば、私達魔女が不利益を被ることはありません。しかし、それに失敗した場合は――」


 そこで言葉を切り、十分すぎるほど間を置いたラティスさんは、凍てつくような眼光を全員に向けながら言います。


「その場で魔女は魔女である資格をはく奪され、被害者となった人物の望む願いをひとつ叶えなくてはなりません」


「えっと、それは被害者の人が亡くなっている時はどうなるのかしら?」


「その場合は、被害者の親族が対象となります。魔導連合で禁止されている金の創造から、私利私欲のための隷属、果てはその人物が気に入らない人間の排除など、いかなる願いであっても叶えなくてはなりません」


「隷属って、つまり奴隷にさせられるってこと!?」


『うむ。滅多にないが、いくつかそう言った例はある』


「ち、ちなみにシリア? その願いを断った場合って……」


 不安そうにし始めたレナさんに対し、シリア様の代わりにラティスさんが答えます。


「その場合は、魔導連合の総力を挙げてその魔女を捕らえ、裁きを受けさせます」


『簡単に言えば、処刑じゃな』


「しょ……!?」


 当然のように言い放たれた単語に、レナさんが言葉を詰まらせて(おのの)きました。

 それは隣にいたフローリア様も気になったらしく、続けて質問をし始めます。


「え、シリアー。私魔女じゃないんだけど、私はどうなるのかしら?」


「そう言えば(わたくし)も魔女ではありませんわね。魔女では無いのに魔女裁判に掛けられるのは、些か問題では無くて?」


『たわけ。容疑を掛けられておる者全員が参加せねばならんのが魔女裁判じゃ。して、お主らは今回、“魔女サイド”として参加しておる。自身の机と秘書の机を見比べてみよ』


 シリア様の言葉に、私達全員の視線が秘書の方が立たされている机へ注がれます。

 確かに、彼女の前にある机は青い装飾が施されているようで、それ以外の私達の机には赤い装飾が施されていました。


 つまり、赤で装飾された机に立たされている人は、魔女と同列と見なされ、同じ罰を受けなくてはならないと言うことなのでは無いのでしょうか。


「えぇ~!? 私寝てただけなのに~!!」


「お静かに。無関係を主張するのであれば、裁判が始まってからにしてください」


「うぅ~……レナちゃぁん、私奴隷なんて嫌よ~! 頑張って~!!」


「あたしだって嫌って言うか、あんたも参加するんだってば!」


 泣きつくフローリア様を押しのけながら言うレナさんを見ながら、レオノーラが諦めたように溜め息を吐きました。


「はぁ……。とんだ災難ですけれども、要は私達が殺していないことを証明すれば何も咎められることは無いのでしょう? でしたら、早く始めてしまいませんこと?」


『なんじゃレオノーラ、珍しく物分かりが良いでは無いか』


 少し驚いたようなシリア様に、レオノーラが髪を後ろに払いのけながら自信満々に答えます。


「当然ですわ! 殺していないのですから、処刑に怯える必要などどこにもありませんのよ! そうですわよね、シルヴィ?」


 突然私に話を振られ、思わずびくりと体を大きく震わせてしまいました。


「そ、そうですね。その通りだと思います」


「そうでしょうそうでしょう? でしたら、こんな裁判早く済ませてしまいましょう! 私達が無罪であることを証明してみせますわ!!」


「そうですか。では、早速裁判を始めていきましょう。まずは殺害方法と死体の状況から、議論を行います」


 堂々と胸を張るレオノーラに頷き、ラティスさんが裁判を進行させ始めました。

 私が殺めてしまったと言い出しても、秘書の方以外の全員が巻き沿いで秘書の方の願いを聞かなくてはならない上に、最悪の場合は魔女としての人生が終わってしまいます。

 それを隠していたとしても、いずれは私がやったと露呈してしまうことでしょう。


 本当に、どうしたら……!!

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