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275話 女神様はフラグを建てていた

 悪天候が翌日も続き、体感としては朝だとは思うのですが、まだ暗さを感じる部屋の中で、私は目を覚ましました。


 耳元からやすらかな寝息が聞こえ、そっと顔を動かすと、まだぐっすりと眠っているレオノーラの姿があります。寝る前はお互いに抱き合う形で眠っていたはずでしたが、寝返りなどで私が仰向けの形となり、彼女に腕を抱かれる形となっていたようです。


 軽く頭を持ち上げてシリア様を探すと、私のお腹の上で丸くなって眠っているのを見つけました。シリア様も私に次いで早起きをされる方ではあるのですが、まだ眠られていると言うことは、起きるには少し早いのかもしれません。


 枕にぽすんと頭を置き直し、ミオさん達を探してみると、レオノーラとは反対側で眠っていたはずの彼女達の姿は無く、綺麗に整えられているベッドだけが残っていました。

 そう言えば昨夜、私が作ったシチューを食べながらこんな会話をしたのを覚えています。


「美味しいです! いやぁ、料理の腕には自信はありましたけど、これは自信なくなっちゃいますね~」


「魔王様が、シルヴィ様の手料理を切望していた理由がよく分かります。場所が変わろうとも味や質が変わらないお手前、見事でございます」


「そんなことありませんよ。趣味程度でしか作っていないので」


「えぇ!? 趣味でこれなんですか!? ミナ達は仕事で作らされてるのに!」


「ちょっとミナ、その言い方は作るのが嫌だとでも言いたいのですの?」


「そ、そんなことは無いですよ~? ねぇ、ミオ?」


「何故私へ振るのですか? 少なくとも私としては、料理を苦だと感じた事はありません。仕事の内ですから」


『お主もお主ではっきり言っておるではないか』


「はぁー、まぁいいですわ。仕事とはいえ、きっちり栄養バランスなども考えて作ってくれておりますもの。あ、そうですわ! どうせなら、明日の朝食は二人で用意してくださいませんこと?」


「魔王様、今回の遠征の目的にそちらは含まれていないはずでしたが、追加の仕事と言うことでしょうか」


「えぇ。魔王である(わたくし)の友人をもてなすのも、部下の仕事では無くて?」


「うへぇ……魔王様って時々無茶言いますよね」


「そこ、聞こえてますわよ」


「わわわ! 何でもないですよ魔王様! では、明日の朝食づくりはお任せください!」


「承りました。何かご希望のメニュー等はございますでしょうか」


「そうですわね……。やはり朝ですし、軽めのものが好ましいですわ。さっぱりとしたスープに、トーストで構いません」


「了解です!」


 きっと、彼女達はレオノーラからの命令に従って、料理をしに行ったに違いありません。

 ですが、仕事で料理をすると言うのはどういう感じなのでしょうか。好きでも無いのにやらされる強制感は、あまり良くないような気はしますが……。


 そんな事を考えながら瞳を閉じようとした時、ふとあることに気が付きました。


 もしかしてミオさん達、魔族の姿のままキッチンに立っているのでは無いのでしょうか?


 もしそうであるとすれば、見つかってしまったら大騒ぎになってしまいます。

 今からでも下に降りて、キッチンの様子を確認しに行った方が良いかもしれません。そう思った直後でした。


「きゃあああああああああああ!!!」


 やや低めながらも、女性のものだとはっきり分かるくぐもった絶叫に、私は飛び起きました。

 やはり見つかってしまったのでしょうか!? 私がもっと早くに目を覚ましていれば……!!


 私が飛び起きた反動でベッドの上を跳ね、『ぐぇっ』と変な声を出していたシリア様が、大変不機嫌そうな声を上げます。


『……シルヴィ、起きる時はもっと静かに起きれぬのか。朝から放り投げられるなぞ、あまり気分のいい物では無いぞ』


「すみませんシリア様! ですが今はそれどころでは無いのです!」


『どういう事じゃ。それと、先の悲鳴のようなものは何じゃ?』


 レオノーラに抱きしめられていた腕を外すと、彼女は「んん……」と小さく声を漏らしましたが、起きる気配はありませんでした。

 私は急いでベッドから降り、手早く髪を纏めてキッチンへと駆けだします。


 ドタバタと階段を駆け下り、キッチンの扉を勢いよく開けると――。


「おはようございます、シルヴィ様。起こしてしまいましたか?」


「ふわぁ……。おはようございます~」


 朝食づくりに励んでいるお二人の姿がありました。ですが、その他には誰もいないらしく、私は首を傾げてしまいます。


「おはようございます……。あの、ここに誰か来ませんでしたか?」


「誰か、と申しますと?」


「例えば、商人の秘書の女性だったり……」


 声から察するに、あれはレナさん達やラティスさんのものでは無いはずです。となると、残るは秘書の女性のものとなるはずですが。

 私の問いかけに、ミオさん達は顔を見合わせます。


「いえ、ここには誰も来ていません」


「うんうん。一応、魔力探知も使いながら気を張っていましたが、キッチン近くに誰か来た様子は無かったですね~。シルヴィ様が最初の一人です」


「あれ? ではさっきの悲鳴は一体……」


「あぁ~、そう言えばさっき、上の階から誰かの悲鳴が上がってましたっけ。ミナ達の関係者じゃないっぽかったんで気にしてませんでしたが」


「恐らくは、シルヴィ様がお探しの人間の女性でしょう。ここにはおりませんので、上のお部屋をお探しになられては?」


「そうですね、ありがとうございます。お騒がせしました」


 二人に別れを告げ、急いで二階へと戻ります。すると、廊下には眠たそうに目を擦っている凄まじい寝癖のフローリア様と、その手を引くレナさんの姿がありました。その少し先にはシリア様もご一緒のようです。


「あ、シルヴィ! さっきの悲鳴聞いた!?」


「はい。私はてっきり、ミオさん達が見つかってしまったのかとキッチンへ急ぎましたが、どうやらそれが原因では無かったようです」


「え、じゃあ完全に部屋の中からってこと?」


「恐らくはそうなります。ミオさんが言うには、キッチンの近くには誰も来ていなかったそうですので」


『そんなことはどうでも良い、まずは悲鳴の主を探すぞ!』


「眠いぃ~……」


「ほらシャキっとする!」


 シリア様の先導で商人の方の部屋へと向かい、代表して私が部屋の扉をノックしてみます。


「おはようございます。先ほど凄い悲鳴が聞こえましたが、どうかなさいましたか?」


 すると、ドアが勢いよく開かれ、中から飛び出してきた血相を変えている女性に体を掴まれました。


「貴女! 貴女のせいですね!? よくも会長を!!」


「な、何のことですか!?」


「とぼけないで! このっ……!!」


 今にも殴りかかって来そうだったその手を、レナさんが押さえつけます。


「やめなさいよ! 何なのよあんた!!」


「離して! これだから魔女は信用してはいけないと言っていたのに!!」


「だから何の話よ! 魔女だから何だってのよ!?」


 完全に取り乱し、レナさんに標的が向いた女性から離れ、今の内にと部屋の中を観察しようとし――。


「ひぃ……!?」


 ベッドの上で、吐血しながらぐったりと倒れ伏している商人の方を見つけてしまいました。

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