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273話 魔女様は商館を探索する

 魔導連合がお借りしている宿舎と比べると、些か貧相と言わざるを得ない商館で数日過ごすことになってしまった私達は、まずは設備などの確認から行うことにしました。


 レオノーラ達は部屋以外をうろついてしまうと、商人の方に見つかってしまい騒ぎになる可能性が高いため、彼女達の分まで私が見て回る運びとなっています。

 本当だったらレナさん達にも手伝っていただきたかったのですが――。


「あ! 見て見てレナちゃん、こんなところにゆっくり眠れそうなベッドがあるわよ!」


「客室なんだから当たり前でしょ」


「あ! こんなところに抱き心地のいいレナ枕があるわ!」


「わぁ!? 急に抱き付かないでよ! このっ、ふんぬぬぬ~!!」


「んふふ! もう離さないわよ~! 私はまだまだ寝足りないんだから!」


 というやり取りが部屋の外から聞こえてきてしまったため、とても声を掛けられなさそうだと判断し、私とシリア様だけで探索を行うことになっています。


『しかしまぁ、やはり商館と言うだけはあるな。それなりに広い』


「そうですね……。ここも客室のようです」


『うむ。となれば、次は一階じゃな』


 私達が寝泊まりする部屋がある二階部分は、中央に先ほど商談を行った広い部屋があり、それを囲むようにぐるりと個室が数部屋ありました。どうやらお風呂やトイレは一階にあるらしく、二階は居住スペースと判断してしまって良さそうです。


 赤い絨毯が敷かれている廊下を進み、同じく階段の上にも敷かれているそれを踏みしめながら降りると、ちょうど軽食を手にしている眼鏡を掛けた女性と鉢合わせになりました。


「あ、すみません!」


「いえいえ、ぶつかってはいませんからお気になさらず」


 少しハスキーな声質を持つその女性をよく見たら、先ほどの商談で商人の方の後ろに控えていた秘書の方でした。

 彼女も私に気が付いたらしく、あまり言葉を交わしてはいけないと思ったのか、軽く会釈をして階段を上がっていきます。


『何とも、生真面目極まれりという雰囲気の女じゃな』


「魔女という素性が割れていることもあって、警戒されているのかもしれません」


『妾達が敵対しておるのは、それこそ魔術師共のみじゃから気にせんでもいいのじゃが……』


「魔女と関りがある国だからこそ、その魔女に何かあったら問題だと思われているのでしょう」


『うーむ……。確かに、言うなれば妾達は商談先の卸し商人とも言い変えられるか。全く、面倒な関係性じゃのぅ』


 シリア様の言葉に小さく笑い、探索を再開させます。

 階段そ壁沿いにある部屋に入ってみると、そこは脱衣所のようでした。奥にはペルラさん達の家にあるようなシャワールームがいくつか備わっていて、水滴が無いことから、まだ使用されていないのが見て取れます。


 その部屋を後にし、対面側にあるドアを開いて中へと足を踏み入れると、こちらは簡素なキッチンと食糧庫が用意されていました。流し台の横には、先程の秘書の方が洗ったものと思われるお皿やフライパンが立てかけられています。


『どうやら、お主の腕を振るう必要があるようじゃな。幸い、調味料もそれなりに揃ってはおるようじゃ』


「そうですね。今の内に備蓄されている食材などを確認して、夕食に備えるとしましょう」


 シリア様と共に食糧庫を見て回った結果、根野菜と干し肉などが多いことから、やはりイースベリカでは長期保存の効く食材が主流であるように見受けられます。基本的な食材はある程度揃っていますし、あとでラティスさんに確認を取ってからシチューでも作ってしまいましょう。


 キッチンエリアを一通り見て回り、念のため外を確認しておくべきとのシリア様の言葉に従って、玄関の扉に手を掛けます。

 しかし――。


「あ、あれ? 全然押せません」


『相当雪が積もっておるようじゃの。この建物が埋もれぬか不安になって来たぞ』


 扉はギシギシと音を立てるだけで、押し開くタイプのドアが雪で塞がれてしまっていました。

 窓から外を覗き込むと、既に窓の縁あたりまで雪が積もっているのが分かります。それでも止む気配の無い吹雪を前に、私達はこれが止むまでここから出ることが出来ないのだと痛感させられてしまいます。


「最悪、レオノーラの転移を使えば脱出は出来ますし、あまり悲観的にならないでいいのが救いですね」


『じゃがあ奴、我が家に転移してきた時に“そろそろ使用限度が近い”とか言っておったじゃろ。それを知ってながら、あの競技場でもほいほい使う阿呆じゃぞ? もう使えんのでは無いかの』


 言われてみれば確かに、レオノーラ個人で転移は使えないらしいですし、家に来た時と坂から降りた時でかなりの人数を抱えて魔道具を使っていたことになります。

 と言うことは、最後の手段すら絶たれているという状況なのでは無いのでしょうか。


『まぁ、そんな不安そうな顔をせんでも良い。何かあればウィズナビでトゥナを呼びつければ問題無かろう』


「あまり迷惑をおかけしたくはありませんが、吹雪が止んでも出られなかったらお願いしましょう」


『うむ。さて、これでこの建物は一通り見て回ったかの?』


「そうですね。一旦、レオノーラ達に情報を共有しましょう」


 簡単に建物の間取り図を書き終え、私達はそれをレオノーラ達に見せに行くことにしました。

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