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268話 魔王様はスノーボードが得意

 中央広場へと戻ると、街並みを観察しながら熱心にメモを取っているミオさんと、その横で貸し出されているウィズナビを使って記念写真を撮っているミナさんとレオノーラを見つけました。


 戻ってきた私達を見つけた彼女達は、各々やっていたことを中断して私の方へと歩み寄ってきます。


「すみません、遅くなりました」


「この程度、待った内に入りませんわ。それで、結界の方は整いまして?」


「えぇ、おかげさまで」


「でしたら、早速観光と参りましょう……と言いたいところですけれども」


「けれども?」


 微妙に歯切れの悪いレオノーラに首を傾げると、彼女を代弁するようにミナさんが言います。


「イースベリカはあまり、魔王様好みの観光地じゃなかったみたいなんですよね。魔王様はもっとこう、明るくて笑顔が溢れる場所がお好みなので」


「しかしながら、魔王様から見てもこの国の建築物や歴史は興味深いようで、遊ぶことは叶わなくても見聞を広げることはできるとお考えのようです」


「そこまで言わなくて結構ですわ!!」


 拗ねるように言うレオノーラに、シリア様が疑問を口にしました。


『じゃが、この国は万年冬を堪能できるという、ある種の観光地なのじゃろう? 何故遊ぶ場のひとつもない?』


(わたくし)にもよく分かりませんが、何でも例の熊に一因あったそうですわよ。あの熊が出没するようになってから、商人ですら綱渡りな状況で品を降ろしていたので、観光客なんてとてもでは無かったそうですわ」


『ふむ……。確かにかの熊は、ここ一年以上暴れておったと聞いておるし、観光客狙いの商いをしておった者にとっては、店を畳むか赤字で経営を続けるかの苦しい選択だったのじゃろうな』


「一応、騎士団からも補助金などは出ていたそうですが、それでも賄いきれるものでは無いとのことで、多くの店が廃業に追い込まれていたそうです」


「なるほど……。そう考えると、あの大熊を倒せたのは本当にこの国のメリットだったのですね」


『妾からすれば、何故ラティスの奴が動かんかったのかが不思議でならんがのぅ』


「騎士団長様は他の業務に忙殺されていたとのお話を伺っております。諸外国との関係を良好にしようと駆けまわったり、この国が位置する場所に淀んでいる地脈を整えようと奮闘されていたそうです」


『ほぅ、あの気分屋がそのような事を?』


「あくまでも、騎士の方々よりお聞きした内容のみとなりますので、確証はございません」


『いや、構わぬ。となると、あまり息抜きは期待できそうにないのぅ』


「うふふ! ご安心くださいませ? 私、面白い物を見つけておりましてよ!」


 突然鼻高々にそう言ったレオノーラに、私達全員の視線が集まります。

 彼女は指を立ててウィンクをすると、付いてくるように言って移動を開始しました。





「さぁ、着きましたわ!」


 レオノーラに連れてこられた場所は、降り積もった雪で出来た巨大な坂や、凍った湖があたり一面に広がる謎の場所でした。

 結構傾斜のある坂には、何故か所々に削り残しと思われる出っ張りのような坂があります。

 他にも、積りに積もった雪を何か強力な魔法で吹き飛ばそうとした結果、逆半円上に削り取られている通路のようなものもあり、見るからに作業が終わっていない場所に見えます。


 国外に出ると言い始めた時は不安を感じてしまいましたが、イースベリカからそこまで離れているという訳でも無く、歩いて十分ちょっとと言った場所にそれは作られていたのでした。


「ここは何でしょう……? 見たところ、何かを作りかけのように見えますが」


 シリア様なら魔力の痕跡を追って、何がしたかったのか分かるかと思いましたが、シリア様は小さく首を振って見当がつかないと意思表示を返してきます。


 もしかすると、魔族領では知名度のあるオブジェクトか何かなのでしょうか。

 そう期待を込めてミオさん達を見るも。


「失礼ながら魔王様、こちらは?」


「なーんか、適当に魔法を撃ちまくれる練習場? みたいな雰囲気ですね」


 彼女達にも分かっていないらしく、レオノーラに問いかけていました。

 この中で唯一理解していると思われるレオノーラは、「良くぞ聞いてくださいましたわ」と意味深に笑い、背後に壁があったら勢いよく叩いてそうな大きな動きを見せながら言います。


「これはかつての大戦時、人間領から頂戴した文献に記載のあった競技場ですのよ!」


「これが競技に使われるのですか?」


 こんな足場の悪そうな状況下で行われる競技なんて、聞いたことがありません。

 私の疑問は全員同じものであったようで、レオノーラが何を言っているのかが分からないと言った顔を皆さん浮かべています。


 そんな中、レオノーラは両腕を組み、腕の上で指先を小さく振ると。


「ふふふ、まぁ説明するよりも見た方が早いですわね。まずはあの坂の上へと移動しますわよ」


「えっ、あの、レオノーラ?」


「魔力、拝借いたしますわね?」


「嫌です! 自力で登って行ってください!」


 私の懇願も虚しく、私から魔力を抜き出して転移魔法を実行されました。

 脱力感に苛まれながらも、瞬く間に坂の頂上へと移動した私達は、その高さと坂の長さに改めて驚かされます。


『して、これはどういう競技なのじゃ? よもや走って下るだけでは無かろうな?』


「そんなつまらない競技な訳ありませんわ。発想がチープな猫ですわね」


『ならばさっさと言わんか!!』


「ふふ! 教えて欲しいのなら、相応の態度があるのではなくて?」


 嫌味のように挑発するレオノーラに、シリア様の怒りがまた沸点に達しそうになっています。

 私は慌てて、二人の間に割り込むことにしました。


「れ、レオノーラ! これはどうやって競うものなのですか!?」


 私の質問に気を良くした彼女は、得意げに笑いながらある物を取り出します。


「これを使うのですわ!」


 レオノーラが取り出したのは、私の背丈とほぼ同じくらいの長さを持つ、一枚の細身の板でした。

 それを足元に配置し、足を置いてくださいと言わんばかりの位置にいつの間にか履き替えていた靴を乗せ、私にウィンクを飛ばしてきます。


「見ていてくださいまし!」


 彼女はその場をぴょんと跳ね、雪で出来た坂を勢いよく下って行きました!

 かなりのスピード感だと思いますが、それを物ともせず左右に滑りながら雪を舞い上げていく姿は、何とも言えないカッコ良さがあります。


「いけません、魔王様!!」


「まぁまぁ、とりあえず見てようよ」


 ミオさんが鬼気迫った声を発し、飛び出そうとしたのをミナさんが引き留めます。

 レオノーラの行く先には、先ほども見えていた微妙な出っ張りの坂が待ち受けていました。


 しかし、レオノーラはそれを避けようとせず、むしろ進んでその坂へと下って行き――。


「ご覧あそばせシルヴィー!! そーれっ!!」


 坂の斜面を利用し、天高く跳躍していきました!

 それだけでは止まらず、彼女は板に手を掛けてしゃがみ込み、空中で縦に横にとくるくる回り、華麗に着地を決めてどんどん滑っていきます。


 かなり小さくなっていく後ろ姿に、シリア様とミナさんが声を揃えて感想を零しました。


「魔王様、カッコイイなぁ……」


『ほぅ、魅せるではないか』


 感嘆する二人に私達が頷き、そのままレオノーラが滑り終えるのを見届けると、突然ミオさんが耳元に手を当てて小声で話し始め、姿を消しました。

 しばらくすると、ミオさんは少し息が上がって頬も上気しているレオノーラを連れて戻り、転移を頼んだであろう本人は声を弾ませて私に言います。


「こうやって遊ぶものですのよ! 道中の滑りの完成度、ジャンプでの完成度を競うものですわ!」


「お見事です魔王様! とてもカッコよかったですよ!」


「はい。素晴らしい技術でございました」


 手を叩きながら賞賛するミオさん達に続いて、私も同じようにしながらレオノーラを褒めます。


「初めて見る競技でしたが、とても気持ちが良さそうでした! カッコ良かったですよ、レオノーラ!」


『うむ、お主にも取り柄があるのじゃな。妾から見てもかなりの完成度に見えたぞ』


 全員から褒められた彼女は、照れくさそうにしながらも胸を張って自慢します。


「当然ですわ! 魔族を統べる王たるもの、これくらいのことは出来て当たり前ですのよ!!」


 今回ばかりはシリア様も嫌味抜きで褒めているので、それに気を良くしたレオノーラがもう一度滑ろうとした時でした。


「おーい! そこの人達! 今すぐ降りてきてくださーい!」


 と、私達を呼び止める声が飛んできました。

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