2話 魔女様は怯えられる
カースド・イーグルと呼ばれる天空最強の魔物を従えてしまったシルヴィ。
そのまま村へ向かおうとしますが、メイナード以外にも自分もイレギュラーな存在だと
忘れていたシルヴィは、改めて自分のことも認識し直すことになり……?
もう間もなくで村に到着というくらいで、どうも村の様子がざわついていることに気が付きました。
何やらバタバタと忙しなく動いていて、中には武装をしている人も見受けられます。
「き、来たぞ!! うわあああああああ!!」
「撃て! 撃てええええ!!」
「えぇ!? な、何なのですか一体!?」
狙われていたのは私でした。咄嗟に防護結界を展開し、放たれた矢を防いでいきます。
『主よ、あの村の者は我を狙っているようだ。皆殺しにするか?』
「だ、ダメです! あの村が目的地で、あの村の人は私の知り合いです!」
『そうなのか? ならば主よ、先行して事情を話してくるといい。このままでは我は降りられん』
「分かりまし――って、ひゃああああああああああああ!?」
いきなり振り落とすなんてあんまりです、メイナード!!
と、とりあえず着地の準備をしないと! 矢に当たりたくないので防護結界はそのままで、足元に風魔法で風域を生成! 着地の衝撃をこれで打ち消せば……!
「なんか降ってきたぞ!! って魔女様かあれ!?」
「どいてくださあああああああい!!」
村の方々が着地地点から離れてくれたおかげで、周囲に激しめの風圧が巻き起こりましたが誰一人怪我をすることが無く、無事に着地できました。
高所からの落下で恐怖に震える足を無理やり抑えつけ、顔と声を取り繕って説明します。
「すみません皆さん、あれは私の使い魔なのです」
「つ、使い魔!? いやいや、魔女様あれ、カースド・イーグルっすよね!? 見たら死ぬって言われてるあれですよね!?」
そこまで恐れられていたのですかメイナード……。
「カースド・イーグルには違いありませんが、彼は私と契約して今は使い魔です。なので皆さんに危害は加えさせません」
「魔女様が言うんだから本当なんでしょうけど、ちょっと信じられねぇって言うか、現実味が無さすぎるって言うか、なぁ……?」
「あ、あぁ……。あのカースド・イーグルが人に従うってことあるんだな……」
戸惑いながらも、武器を下ろしてくださっています。これならメイナードを降ろしても攻撃されることはないでしょう。
私は上空で旋回しているメイナードに手を振り、届くかは分かりませんが呼びかけてみます。
「メイナードー! もう降りてきて大丈夫ですよー!」
『そんな大声を張らなくとも、主の指輪を介して会話は可能だぞ』
なぜそれを先に教えてくれないのですか。と文句を言いたくなりましたが、後で纏めて言うことにします。
メイナードは私の後ろに降り立ち、周囲に燐光を煌めかせながら羽をしまいました。
「驚かせてすみませんでした。彼は私の使い魔のメイナードです」
『……ふん』
お前らに名乗る必要などない。とでも言いたげな顔です。もう少し友好的にしてほしいところですが、今は仕方ありません。
メイナードの背中を撫でながら紹介すると、驚きと困惑が入り混じった反応が返ってきました。
「ほ、本当にカースド・イーグルが、魔女様に従っている……」
「魔女様には散々驚かされてきたが、これが一番驚かされたぜ……」
「は、ははは……。生きた心地がしませんでしたよ魔女様……」
どうやら、天空の覇者の二つ名は伊達ではないようです。彼のことを知っている人は、村の方のように怯え切ってしまうのでしょう。
とんでもないものを召喚してしまったかもしれません、と今更になって思っていると、メイナードの嘴で背中を軽く押されました。
『主よ、我の存在を見せびらかしに来たのではないのだろう?』
「あ、そうでした。えっと、今日は人間の街から来るという配達の方にお会いしたくて来たのですが、もう帰られましたか?」
「あぁ、配達ならもう少しで来るとは思いますが……あ、ちょうど来ましたね。あれです魔女様」
上空を指し示され、その指の先を追うと、大きな翼を持った人のような何かが大荷物を抱えながらこちらへ向かってきていました。
近づくにつれ、そのシルエットが鮮明になります。その人は腕がメイナードのような白い翼になっていて、足の先も大きな鉤爪になっています。まるで鳥と人が合わさったかのような見た目です。
その人の視界には私達は見えていないようで、村の方に明るい声を掛けながらふわりと着地し、荷物を彼らの前に置きました。
「いやー、遅くなってごめんね! 途中でとんでもない魔力を感じて隠れちゃってて! あ、これ今回の頼まれてた荷物ね!」
「いつも助かるよ。俺達も素材を持ってくるから、その間にあんたに会いたいって人と話して待っててくれ。こちらが我らが【慈愛の魔女】シルヴィ様だ。んで魔女様、こっちはハーピィ族のディアナです」
いつの間にか慈愛の魔女、なんて二つ名がつけられていたのですね。少し気恥ずかしさも感じますが、魔女らしさが増した気がして悪い気はしません。
「初めまして、配達のディアナさん。私は少し先で診療所を営んでいる、魔女のシルヴィです。こちらは使い魔のメイナード」
「あ、これはどうもご丁寧に……って魔女!? なんで!? え、待って待って。っていうか隣のそれってカースド・イーグルじゃないの!? あば、あばばばばばば……」
私達を交互に指さし、緑色の綺麗な髪を乱しながら完全に取り乱すディアナさん。落ち着いてください、と言おうと歩み寄ったらさらに怯えられ、目を回しながら倒れてしまいました。
「…………」
『今のは我は悪くないだろう』
私は改めて、魔女とカースド・イーグルの存在は普通ではないということを認識しました。




