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15話 魔女様は試される

 挨拶もそこそこにラティスさんは食堂エリアを去り、「少し変わった方だがいい人だから気にするな」と励まされた私は、食後にあてがわれた部屋へと向かうことにしました。


 広すぎず、狭すぎないこじんまりとした部屋は、寝るためのベッドを始め、本当に簡易な宿屋のような造りになっていました。

 コートを亜空間収納へしまい、ベッドに腰掛けて封書を開けようとした私を、シリア様が静止させます。


『待てシルヴィ。それを開ける前に、普段のローブと杖を用意せよ』


「え? 分かりました」


 言われるがままに取り出すと、それを身に着けるように言われました。

 何故室内でこんな格好を、と首を傾げる私に、シリア様が言います。


『妾の思い違いであれば良いが、備えておいて損は無い。念のため、拘束魔法を放てるように杖に魔力を籠めておけ』


「シリア様、私はこれから鍛錬をするのでしょうか」


『鍛錬で済めば良いがの』


 シリア様の言葉の意味が理解できず、とりあえず杖に魔力を籠め終わったことを確認し、再度確認をします。


「終わりました。では、開けても良いでしょうか」


『うむ』


 承諾を得てからゆっくりと封を切ると、中から出てきたのは、少しひんやりとした水色の無地の紙でした。

 裏に何か書かれているのでしょうか……と捲った瞬間、私とシリア様の体を同じ色の光が包み込みました!


「な、何ですか!?」


『やはりか! 杖を手放すでないぞ!!』


 徐々に眩くなっていく光に、顔を覆いながら杖を握りしめること数秒。

 光が収まり、ゆっくりと瞳を開けると――。


「ようこそ、我が城へ。歓迎しますよ、【慈愛の魔女】」


 辺り一面、氷で出来たかのような部屋の景色と、その奥で玉座に腰を掛けているラティスさんの姿がありました。

 ひんやりとした空気に肌寒さを感じつつも、ベッドの代わりに腰掛けていたらしい氷の椅子から立ち上がって尋ねます。


「ラティスさん? あの、これは一体……」


「言ったはずです。私なりの礼である、と」


 彼女も立ち上がり、おもむろに右腕を払うと、彼女が腰掛けていた玉座と私が座っていた椅子がたちどころに姿を消しました。

 ラティスさんのその動きを見て、私は直感でこの人はただの騎士では無いと悟りました。彼女からうっすらとですが発せられる魔力からして、恐らくは魔女です。それも、エルフォニアさんやアーデルハイトさんよりもずっと強く、今までに対峙したことが無いくらいの実力者に違いありません。


 そして、先ほどシリア様があの手紙について気にしていたことから、もしかしたらシリア様のお知り合いの方だと判断するのが妥当でしょう。


「シリアさ――シリア様!?」


 判断を仰ごうと足元を見ると、シリア様はいつの間にか氷漬けの姿に変えられてしまっていました!

 一体いつの間に、とラティスさんを警戒しつつしゃがみ込んで様子を見ると、彼女は何でも無いように言います。


「邪魔が入られては困りますので、先手を打たせてもらいました。それにしても、かつての偉大な大魔導士がこの程度も防げないとは……随分とか弱い存在になりましたね、シリア。猫の身で甘やかされて、魔の追求よりも魚を好むようにでもなりましたか?」


 ラティスさんはコツコツと靴音を響かせながら言葉を続けます。


「そして、その弟子である【慈愛の魔女】シルヴィ。あなたからは、不思議な感覚がいくつも感じられます。懐かしいシリアの力に、眩すぎる神のような力、そして私でさえも凌ぐ絶大な魔力。そのペンダントで誤魔化しているようですが、私には無意味です」


 彼女は部屋の中央で立ち止まると、氷で作られた精巧な大剣を床から出現させ、それを私に突き付けてきました。


「あなたが本当に、あの魔獣に対抗し得る力を有していたのかどうか……この身で確かめようと思います。その膨大な魔力の全てを用いて、我が身に示しなさい。さもなくばここで散りなさい、世界の危険因子となり得る人の子よ」


 そう告げる彼女は、私に切っ先を合わせて微動だにしなくなりました。

 どうやら、シリア様が仰っていた“鍛錬では済まないかもしれない事態”が生じてしまったようです。


 私には、ラティスさんが何故私の力を試したいのかが全く分かりません。

 ですが、ここで彼女が満足できるような結果を示さない限り、生かして帰しては貰えそうにありません。


 私は立ち上がり、杖を構えて対峙します。


「私が勝ったら、シリア様の解放と事情の説明を求めます」


「構いません。元よりそのつもりです……では」


 彼女は剣を上段に構え、深く腰を落とし。


「あなたが持てる全てを、我が身にぶつけなさい。殺すつもりで来なければ、命を落としますよ?」


 弓矢など比較にならないほど、早く鋭く踏み込んできました。

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