14話 魔女様は紹介される
どこかへ飛び出していったレオノーラと入れ替わるようにレナさんやアーデルハイトさん達が合流し、駆け抜けていった彼女を不審な表情で見送っていましたが、状況を説明すると脱力するように笑っていました。
そんなレオノーラがミオさん達に連れ戻されたとほぼ同じタイミングで、大扉がゆっくりと開かれ、中から食欲を更に刺激する香りと共に、アナウンスが流れました。
『魔導連合の皆さま、大変お待たせ致しました。お食事の用意が整いましたので、中へお入りください』
「やったぁ~! 行きましょ行きましょ! もうお腹ぺこぺこよ~!」
「ちょっ、押さないでよフローリア!!」
ぐいぐいと背中を押されるレナさんの後ろを私達も続き、大扉をくぐって中へと足を踏み入れると、そこは魔導連合の晩餐会もかくやと言うような会場でした。
全体的に狩猟した魔獣を利用した肉料理が多めですが、その小ぶりな体の中に香草を詰め、姿焼きとして出されている雪兎が特に多く、それを皆さん嬉々としてお皿に載せています。
その他にも、雪鹿と思われる肉を使ったハンバーガーやローストビーフ風などなど、一通り食べ終える頃にはお腹が苦しくなっていそうなほどにレパートリーが豊富です。
皆さんと料理について話ながら各々好きな料理を取り、その品々に舌鼓を打ちながら堪能していると。
「皆、食事の手を止めてこちらを注目してくれ」
アーデルハイトさんの良く通る声がホール内に響き、騒がしかった会場が一斉に静まり返ります。
その様子を確認した彼は、入口の方へと目配せを行いながら言います。
「過去にイースベリカへ遠征に来ている者は知っていると思うが、初参加の者のためにも紹介させてくれ。こちらが、イースベリカ国家騎士団の団長――ラティス団長だ」
彼の紹介に応じるように、コツコツと足音を奏でながら一人の女性が姿を現しました。
ラティス、と名前を呼ばれたその女性は、透き通るような水色の髪をポニーテールにしており、肩元までの長さのそれを揺らしながらアーデルハイトさんの横に立ち並ぶと、凛とした表情を私達全員へと向けます。
「ご紹介に預かりました、ラティス=イレーニアです。今季も遠路はるばるお越しくださったことに、イースベリカを代表してまずはお礼を」
ツートーンンカラーの制服の上からでも、ピンと背筋が伸びていることが分かる彼女は、私達に深く頭を下げました。そして顔を上げ、ラティスさんは言葉を続けます。
「また、近頃頭を抱えていた問題である、例の大熊を狩ってくださったことにも深く感謝しています。可能であれば、直接お礼をと思っているのですが、こちらに【慈愛の魔女】と呼ばれる魔女の方はいらっしゃいますでしょうか」
まさか自分の名前が呼ばれると思わず、びくりと体を強張らせてしまいました。
そんな私へ、魔導連合の皆さんが一斉に視線を送ります。
「……なるほど。あなたが【慈愛の魔女】シルヴィさんでしたか」
視線の先の私を見つけたラティスさんが、踵を鳴らしながら歩み寄ってきます。
な、何でしょうか。特に悪いことはしていないのですが、彼女に真っ直ぐに見据えられるだけで謝りたくなる衝動に駆られます。
内心の動揺をなるべく表に出さないようにしつつ、同じように見返していると。
「そう畏まらないでください。私はただ、お礼が言いたいだけです」
私とテーブル越しに対面した彼女は、凛とした表情を崩すことなく言いました。
私よりも背丈が高いことから軽く見下ろされる形となり、彼女にそのつもりが無いのかもしれませんが、どうしても威圧感のあるように感じてしまうその表情に、私は上目遣いで出方を伺うくらいしかできません。
ラティスさんはそのまま私の顔を凝視し、続けて私の手を取ると、何かを確認するかのように触り始めました。
少しひんやりとしたラティスさんの体温と、ただ手の平を押され続ける感覚に耐えられず、この行為について尋ねてみることにします。
「あ、あの……」
「お構いなく。私なりの礼の仕方です」
構うのは私なのですが……。
とはとても言い出せない状況に困惑していると、彼女は唐突に手を放し、一人納得したかのように頷きます。一体、何をしたかったのでしょうか。
ラティスさんは腰元のポーチから一通の封書を取り出すと、それを私へ差し出してきました。
「こちらを。自室に戻った時に目を通すようにしてください」
「はぁ……」
手渡された封書とラティスさんを交互に見比べる私を他所に、彼女は踵を返してアーデルハイトさんの下へと戻っていってしまいます。
「なんか、如何にも上からって感じの人ね」
「礼を言うにしても、相応の態度と言うものがありませんこと? 失礼な方ですわね」
レナさんとレオノーラが口を揃えて不満を述べる中、シリア様がその後ろ姿をじっと見つめていました。




