13話 魔王様は弄られる
道中に待機していただけている騎士の方々に道を教えていただきながら北東へと進み、辿り着いた宿舎を前に私はまたしても驚かされてしまいました。
『これはまた……。トゥナの奴め、この国にどれだけ恩を売っておるのじゃ』
シリア様の呆れた発言が示すように、私達のためにとあてがわれていた宿舎はとてつもない大きさを誇っています。
外見はこれまで見てきた街並みの石造りと変わりは無いのですが、ドーム状に作られたそれは、下手したらあのお城と横の面積が変わらないのではと思ってしまうほどです。
「この国はどちらかと言えば、私達側の生活様式ですわね。建物に関しては飾らず、生活を護ることを重要視しているようですわ」
「はい。魔族領の中でも、イースベリカ側に位置するティエルナと、似たような建築様式であると思われます」
「あそこ結構寒いですけど、こっちの方がうん倍も寒いですね~。やっぱり寒い地域はこの造りになるんですかねぇ?」
「雪の重みに耐え、かつ保温を求めようとすると、必然的にこうなるのかもしれませんわね」
中を進み、建物について観察するレオノーラ達の後ろに続きながら、私は教えていただいた集合場所はどこら辺かと周囲を見渡します。
すると、私より先に目印となるものを見つけたシリア様が、前足でそれを示しました。
『毛づくろいをする猫の石像……あれじゃな。間違いない』
「ふふ。魔導連合の方々は、本当に猫がお好きですね」
台座の上で顔の毛づくろいをしている可愛らしいそれを見ながら言うと、シリア様が当然だと言わんばかりに鼻を鳴らしました。
『創立者である妾が大の猫好きじゃからな。致し方あるまいて』
「そういえば、シリア様のそのお姿は猫以外にする予定は無かったのですか?」
『やろうと思えば人型を取ることもできたが、神体の顕現というのは如何せん魔力の消耗が大きくてな。魔力消費が比較的抑えられる小動物と選択を迫られた末に、どうせなら好みの猫にするかと思っただけじゃ』
「なるほど。ですが今は、私がシリア様の魔力のリソースとなっていますし、あまり消耗については考えなくても良いのでは」
『お主の負担になっても良いのであれば、人型にしてやっても良いぞ? アラドヴァルとまではいかぬ物の、相当な疲れが日々襲い来る上で鍛錬を行わせるがの!』
くふふと笑うシリア様に、提案しなければ良かったかもしれませんと後悔しつつ苦笑で誤魔化していると、目的地である大広間に辿り着きました。
ふと上を見上げると、ここから建物の全貌を見渡せるような、吹き抜けの作りになっているようです。既に上に登っていた魔女の方々が、下にいる誰かに手を振っていたり、ちょうど部屋の中から出てくる姿が良く見えます。
周囲にもさりげなく植物が添えられて彩り豊かであったり、目でも楽しめる内装に少し心が弾み始めた私の鼻頭を、香ばしい料理の匂いが掠めました。
匂いのした方へ顔を向けると、一際大きな扉の前で既に魔女の皆さんによる行列が出来上がっていました。どうやら、あの大きな扉の向こうで料理を作っているようです。
それを意識してしまった私のお腹が小さく鳴き声をあげ、恥ずかしさから顔を赤らめていると、一番気づかれたくない人に背後を取られていました。
「あらあら、今の可愛らしい虫の鳴き声はどこからですの? ミオ、答えなさい?」
「はい、レオノーラ様。今のはシルヴィ様の下から発せられたものと推測いたします」
「あ、あの、あまり言わないでください……」
「うふふ! 恥じらう姿もとても愛らしいですわ! ですが恥じらう必要などありませんのよ? ほら、ミナをご覧なさい」
抱き付きながら頬ずりをしてくるレオノーラの指先では、私のそれよりも何倍もの音を奏で、照れるように後ろ頭を掻いているミナさんがいました。
「あはは~。いやぁ、運動した後ですし、こんなに美味しそうな匂いを嗅がされたら我慢は無理ですよねぇ」
「お恥ずかしながら、ミナほどでは無いにせよ、私も少々食欲が刺激されております。更に申し上げれば、通路の時点で感知し、空腹を訴えていたレオノーラ様も例外ではありませんので、気にすることはございません」
「なっ!? 何を言いだしますのミオ!? 余計なことは言わなくて結構ですわ!!」
ちらりとレオノーラに視線を送ると、彼女も顔を赤らめて抗議していました。
どうやらレオノーラは、自分が先にお腹が鳴っていたのを隠し、私を弄って遊んでいたようです。
「レオノーラ様なんて、シルヴィ様のよりもっと鳴ってましたしねぇ。くるるるるるぅって」
「はい。シルヴィ様の可愛らしいそれよりも、余程ご立派なものでございました」
お二人の追撃に、口をパクパクとさせながら指先を震わせるレオノーラに、私は笑って言いました。
「大丈夫ですよレオノーラ。恥ずかしがることはありません」
『くはははっ! 弄るつもりが逆手に取られたのぅ!!』
「くぅ……! こんなつもりじゃありませんでしたのにー!!」
心底悔しそうなレオノーラは、恥ずかしさを誤魔化すかのように、その場から逃げ出していくのでした。




