12話 魔女様は入国する
未だに目を覚まさない方々の運搬にとシリア様に大型の台車を作っていただき、レオノーラの部下であるミオさんとミナさんに引いていただきながら城門前の仮説拠点へと戻ると、大歓声と共に迎え入れられました。
「シルヴィ達が帰って来たわよー!」
「おかえりシルヴィちゃ~ん!」
「よくやった【慈愛の魔女】!!」
「【慈愛の魔女】ちゃんありがとー!!」
「「【慈愛の魔女】ばんざーい!!」」
「え、えぇ?」
困惑する私達に、アーデルハイトさんが駆け寄ってきます。
彼は台車の上で眠っている方々の様子を確認しながら、状況を説明してくださいました。
「お前が例の魔獣を倒した際に放った魔力の影響で、森で暴れていた奴らが揃って倒れたらしくてな。おかげで今年は負傷者もほぼいなければ、例年に比べて遥かに上回る狩猟数となった」
「そう、でしたか。他の方の出番を奪うような真似をしてすみません」
「気にするな。逆に、お前がいてくれたおかげで早く狩りを終わらせることもできたし、イースベリカの食糧難の問題もかなり改善することだろう。……おい! 手が空いている者はこいつらを先に宿舎へと運んでいけ!」
アーデルハイトさんの指示で、数人の方々が台車の上から体を担ぎ上げ、一足先に城門の中へと向かって行きます。私と一緒に行動していた魔女のお二人も、私達に手を振りながらその後を付いていきました。
その様子を見て、私はアーデルハイトさんに聞いてみることにしました。
「もう入国の許可が下りたのですか?」
「あぁ。と言っても、お前の功績が大きいがな」
「私の?」
彼は頷き、親指で背中の向こう側を示しながら言います。
「あそこで転がっている例の大熊を仕留めたと報告したら、諸手を挙げて喜ばれてな。諸外国との付き合いについて検討するよりも先に、いつも通り魔導連合と交流を深めるべきだと判断してもらえたんだ」
「何でも、あの大熊がこの国の食糧難の原因の大部分だったらしいわよ。いきなり商人が襲われて積み荷がダメになるし、騎士も怪我が絶えなくてボロボロだったんですって」
話に入ってきたレナさんの解説で、あっさりと入国許可が下りた理由がようやく理解できました。
レナさんは「そうそう!」と思い出したように続けます。
「今回の狩り、あたし達は九十六点よ! 暫定一位らしいわ!」
「きゅ!?」
とんでもない得点に、思わず変な声出てしまいました。
そんな私をレオノーラが笑いながら、まるで物語に出てくる悪役の御令嬢もかくやという口調で挑発します。
「あらあら、こちらの大魔女様は国の問題を解決させてしまう戦果を挙げておりましてよ? 騎士でも倒せなくはない害獣を、量をこなしただけで張り合えるとお思いでして?」
「それはノーカウントよ!! そんなのカウントしたら誰も勝てないに決まってるじゃない!!」
「あぁ、嫌ですわ! 高らかに手柄を報告するも、圧倒的な差を前に覆そうと暴論を始めるなんて! これだからお子様はいけませんわねぇ?」
「あたしは子どもじゃないわよー!!」
「こらこらレナちゃん、すぐ手を出そうとするのはダメよ? 仮にも相手は魔王ちゃんなんだから」
顔を真っ赤にして今にも殴りかかりそうなレナさんを、フローリア様が羽交い絞めにしながら宥めます。
その様子が更にレオノーラにとって滑稽だったらしく、わざとレナさんの顔の側まで自分の顔を寄せ、嫌らしく笑って見せるため、レナさんの怒りが収まる様子がありません。
『全く、貴様らは出かけ先で大人しくすると言うことができんのか。この阿呆共め』
やれやれと言わんばかりにそう零したシリア様は、私の肩に飛び乗ってアーデルハイトさんへ尋ねます。
『して、トゥナよ。この場で妾達が手を貸せることはあるか? 無いならば邪魔じゃろうし、先に国内へ向かうとするが』
「シリア先生のお手をお借りするなんてとんでもありません! あとはあれらの搬入と拠点の撤収作業だけですので、【慈愛の魔女】一行と共にイースベリカ北東にある宿舎へとお向かいください!」
『あい分かった。ほれ、いつまでも煽り合っとらんで中に入るぞ』
「私は煽ってなどいませんわ。事実を述べていたまでですのよシリア!」
「ムキー!!」
最早レナさんが奇声を発するレベルにまで怒り狂っています。
レオノーラとレナさんはなるべく一緒にさせないようにしましょう……。
「と、とりあえずあとはアーデルハイトさん達にお願いして、私達は入国させていただきましょうか」
「あぁ、待ってくださいませシルヴィ! 私も行きますわ!」
先に歩き出した私の後をパタパタと追いかけてくるレオノーラの少し後ろから、「逃げるなぁ!!」とレナさんが吠えていますが、これ以上気にしないようにしましょう。
レナさんをフローリア様にお願いして先に城門前に辿り着いた私達は、門番の方に呼び止められました。
「魔導連合所属の方々ですね。何か身分を証明できるものをご提示ください」
身分の証明……。もしかしてパーソナルカードが必要なのでしょうか。
亜空間収納の中から取り出そうと探し始めた私に、後から追いかけてきたヘルガさんが教えてくれました。
「あぁ悪ぃ、言いそびれてた! この国に魔女として入国させてもらうときは、ウィズナビを提示すれば大丈夫だぜ」
「そうでしたか。ありがとうございますヘルガさん」
「いやいや、俺達の落ち度だからな。あ、レオノーラちゃん達は俺達の賓客だからこれを持っててくれ」
「あら? これは何ですの?」
ヘルガさんから手渡された、黄色い水晶板のようなそれに首を傾げるレオノーラに彼は答えます。
「ウィズナビの貸し出し版、って認識でいい。機能はだいたい同じだから、あとでシルヴィちゃんにでも使い方を聞いてくれ」
「まぁ! 遂に私にもあの便利な魔道具をいただけますのね!? これで毎日シルヴィと夜通しやり取りができますわ!!」
「いや、帰る時は返してくれな!?」
ツッコミを入れるヘルガさんに、レオノーラは「いくら積めば提供してくださいますの?」と無理難題を言い始めます。
私は内心、あのペンダントがあるのですからいつでも連絡はできるような……と思ってしまいましたが、下手に言うと変な展開になりそうなので黙っておくことにします。
そっと門番さんにウィズナビを提示すると、彼は慣れた手つきで私のプロフィール画面を確認し、返してくださいました。
「はい、確認できました。ようこそ、常冬の騎士国イースベリカへ。歓迎いたします、【慈愛の魔女】様」
「ありがとうございます。数日の間、よろしくお願いいたします」
「えぇ。魔導連合の皆さまへ提供している宿舎は、この先の大通りを抜けて、中央広場から北東へとお進みください。道の途中には、騎士の者が案内のために待機しておりますので、もし分からなくなってしまった際にはお気軽にお声掛けください」
「はい。親切にありがとうございます」
彼に軽く会釈をし、私達はイースベリカの中へと足を踏み入れます。
そして、門の先に広がっていた景色に、私は息を飲みました。
『ほーぅ……。これはまた、何とも圧巻じゃな!』
「まぁ!! まるで国の中全てが、ひとつの城であるようですわね!」
レオノーラの言葉の通り、国内に建てられている建物は全て色が統一されていて、灰色からややくすみのある白のレンガ造りになっていました。そのいずれも、屋根の上にこんもりと雪が積もっているのですが、足元の道は不自然に雪が溶けています。これがシリア様の仰っていた、魔石を埋め込んだ効果なのでしょうか。
そして更に奥へと視線を移すと、遠くにそびえ立つ小さいながらも存在感を放つ城が、この国の象徴とも言えそうです。グランディア王国のそれよりはかなり地味で、レオノーラの城よりは遥かに小さい物ですが、とても歴史がありそうな佇まいをしています。
「失礼ながらレオノーラ様。これ以上入口を塞ぐのは、他の皆さまにご迷惑が掛かるかと」
「そうですよ~。ほら、国内の方にも観光客かと好奇の視線を送られてますし、早く移動しましょう」
呆気に取られていた私達にミオさん達の言葉がかけられ、我に返った私達は、少し急ぎ足で移動を開始することにしました。




