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10話 魔女様は再び対峙する

 一通り治療が終わり、あとは皆さんが目を覚ますのを待つだけとなった頃。

 問題となる魔獣の対処をどうすればいいのかと、本格的な話し合いが始まりました。


「そもそも、魔法が効かない相手ってどうしたらいいの?」


「う~ん……。シルヴィちゃんが言ってた、耐性無視の拘束を使ってもらうとか?」


「シルヴィさんの拘束を使うにしても、その準備を終えるまでに時間稼ぎをしないといけないじゃない? 私達で出来るかな?」


「出来なくてもやるしかないでしょ~。ってことで、シルヴィちゃんお願いね?」


「私としては、あまりお二人を危険に晒したくはないのですが……」


「大丈夫だって! 死ななければ治してもらえるんでしょ? 何とかなるなる!」


「死ななくても痛いのは嫌なんだけど!?」


「仕方ないじゃーん、じゃあアンタが一人で倒してきてよ」


「無理言わないで!!」


 そんなやり取りを繰り広げながら、私が拘束魔法を完成させるまでに身を挺して時間を作るという作戦に固まってしまいそうな時でした。


『先ほどから聞いておれば、ほんに無駄な怪我をしたい馬鹿どもじゃな』


「ばっ……!?」


「猫に、馬鹿って言われた……!?」


 呆れ口調で唐突に罵倒したシリア様に、二人が絶句してしまいました。


「シリア様、流石にいきなり馬鹿は酷いのでは……」


『それ以外に形容のしようが無かろう。死なないから負傷しても構わぬなぞ、馬鹿の極みとしか言いようがない』


「え、待って待って。なんでシルヴィさん、その猫をシリア様って呼んでるの?」


「シリア様ってあれよね? 神祖で始原の大魔導士のシリア様のことよね?」


「いくらなんでも、ペットに神祖様の名前つけるのはどうかと思うな……」


「流石に失礼な気がする」


 困惑する彼女達に、私はどう説明したらいいか頭を悩ませます。

 すると、疑問の焦点となっていたご本人が、私の膝の上に座り直して口を開きました。


『如何にも。妾が貴様ら魔女の起源にして頂点となる神祖、シリア=グランディアじゃ』


 シリア様はご自身が本人であることを証明するかのように、私の膝の上を二度叩いて、雪の上に氷の彫像で出来ている超繊細な魔導連合を作り出しました。


 それをじっと見つめていたお二人は、やがてどちらからともなく雪の上で平伏し始めました。


「本当に、申し訳ございませんでした!!」


「どうか、どうか魔女資格のはく奪だけはお許しください!!」


『妾を猫だのペットだの好き勝手言ってくれおったからのぅ……。貴様らの身を、口も利けぬ猫にしてやろうか』


「「お、お許しくださいシリア様!!」」


 ……顔を青ざめさせ、必死にペコペコと頭を下げるお二人が少し可哀そうになってきました。


「シリア様、そろそろ意地悪は止めてあげてください。お二人は知らなかったのですから仕方が無いと思います」


『何じゃ、これからが面白いと言うのに。ほんにお主は優しすぎて敵わん』


 私の制止で、罰については冗談であったと気が付いたお二人は、心底安堵したように胸を撫でおろしていました。

 シリア様ショックで落ち着いていられないお二人に変わり、私が先ほどのシリア様の発言について尋ねてみることにします。


「しかしシリア様、他にもっと良い手段があるということでしょうか?」


『何なら、お主一人で完結できる些細な問題じゃ』


「私だけで、ですか?」


『うむ。こ奴らが近くにいると使えぬ手段ではあるがの』


 魔女のお二人の近くでは使えなくて、私だけであの魔獣を倒せる方法……。

 頭を働かせ、色々な可能性を当てはめ続けた結果、私はひとつの方法に辿り着きました。


「もしかしてシリア様、魔力のオーラによる圧を掛けると言うことでしょうか?」


『惜しいな。じゃが、悪くない答えじゃ』


 シリア様はそう言うと、私の肩に飛び乗って耳打ちしてきました。


『あの魔獣は強力な魔法耐性を持っておるが故に、生半可な魔法では通用せん。そこで、お主の神力をそこに織り交ぜてぶつければ良い』


 再び膝の上に降り立ったシリア様は、『簡単じゃろう?』と付け加えます。


「簡単かどうかは分かりませんが、できなくは無いと思います」


『であれば、まずは実践じゃ。行くぞ』


 先に陣の外へと出ようとするシリア様に、魔女のお二人が声を掛けます。


「ま、待ってくださいシリア様! あたし達はどうしたら!」


「私達に手伝えることは!?」


『無い。むしろ、貴様らが傍にいることで貴様ら自身も巻き込まれてしまうが故、この陣の中でそ奴らを見守っていることが、今の貴様らにできることじゃ』


 直球で戦力外通告を受けてしまったお二人は肩を落とし、私に申し訳なさそうな顔を向けました。

 そんなお二人に、私は付け加えます。


「ちょっと危険な魔法ですので、お二人に危害は加えたくないだけです。アゼルさんや皆さんの事、お願いしますね」


「うん……。気を付けてね」


 彼女達に小さく微笑み、私達は陣の外へと向かいます。

 陣を抜けると、先ほどより少し勢いが増している雪風が私を襲ってきました。


 そして、少し先にある大岩の上には、私達を待っていたかのように座り込んでいる真っ白な大熊がいます。どうやらあれが、私達を苦しめていた犯人のようです。


『さて、始めるぞ。まずは意識を集中させ、お主の中にある神力と魔力を中和させ高めるのじゃ』


「はい」


 シリア様の言葉通りに、抑えていた神力を少しずつ自由にさせ、私の魔力とソラリア様の神力を中和させながら、ゆっくりと魔力を高めていきます。

 すると、私が放つ魔力に気が付いたらしい大熊がむくりと立ち上がり、体を痺れさせるような声量で咆哮を上げました。


『動じるな、どう動いても妾達の方が先手を打てる。魔力が十分に高まったら、自分が小さなボールの内側に閉じ込められているのをイメージするのじゃ』


 真っ暗な意識の中に小さなボールを出現させ、その中に自分を閉じ込めます。それを行った瞬間、高まっていたはずの魔力が私の中に急速に戻っていくのを感じました。限界まで濃縮された魔力が体の隅々まで行き渡り、これを早く放出させないと体が弾けてしまいそうな気がしてしまいます。


 そうこうしている内に、遠くにいたはずの大熊の足音が近くから聞こえてきました。

 それから間もなく大熊の魔力が揺らぎ、私に攻撃を仕掛けようとしている気配さえ感じられます。


『よし、今じゃ! そのボールを勢いよく突き破って外へ飛び出せ!!』


 シリア様の号令に従い、意識の中でボールを両腕で突き上げて上下に割りながら飛び出します。

 それと同時に、私の体の中に押し留められていた力が爆発し、私を中心としたとてつもない衝撃波が生じました。


 実体のないそれは周囲の木々を暴風が来たかのように揺らし、私の足元にあった雪が風と共に舞い上がります。そして、眼前に迫っていた大熊は姿を無理やり出現させられた上に、至近距離でそれを受けた結果、右腕を振り上げた状態で一切微動だにしなくなっていました。


 初めて行使した魔力圧にやや驚きを隠せないでいると、足元にいたシリア様が高く跳び、微動だにしない大熊のお腹を鋭く蹴りました。

 すると、魔力を伴っていないか弱い猫キックにも関わらず、大熊はぐらりと後ろへ倒れていき、地響きを奏でながら仰向けに倒れました。


『うむ、上出来じゃな。あとはそのイメージを一瞬で出来るようになれば文句無しじゃ!』


 少し嬉しそうにそう評価を下すシリア様に、私はとりあえず及第点をいただけたことに安堵し、微笑み返すのでした。

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