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7話 魔導連合は再会を喜ぶ

 その後もフードの男性の後に続いて雪原を進み、街にだいぶ近づいてきたと思った頃でした。


「あ、シルヴィちゃんだ! やっほやっほー!」


「お久しぶりです、ローザさん!」


 ひとつの建物の前で集合している魔女の集団の中に、ローザさん達【薔薇組】がいることを見つけました。

 ルイさんとジュリアさんは私達に控えめに手を振ってくださり、ローザさんが一人こちらへと向かってきます。


「生シルヴィちゃん久しぶりだねぇー! 元気にしてた? なんか人間領でトラブったって聞いたけど大丈夫だったの?」


「大丈夫です。それが原因で魔族との橋渡しを行うことになりましたが、穏便に済ませられたかと」


「そっかー! あ、ほらこっちこっち! もう皆集まってるよ!」


 ローザさんに手を引かれ、他の皆さんが……と振り返ると、私達の様子を微笑ましく見ながら手を振って送り出していました。お気遣いありがとうございます、と内心でお礼を言いながら小さく頭を下げ、ローザさんと共に魔女の集団の中へと入って行くと、ちょうどヘルガさんが点呼を取っているようでした。


「【春風の魔女】は欠席、【雷光の魔導士】はいるかー? お、いたいた。じゃあ次は……」


「副総長ー! シルヴィちゃん達来たよー!」


「おー! 来たかシルヴィちゃん! おはようさん!」


 真冬かつ極寒の地と言うこともあり、普段の純白と金色であしらわれた騎士団のような服装は、しっかりと防寒対策の成された厚手の物になっています。


「おはようございます、ヘルガさん。お久しぶりです」


「はは! 確かにこうして会うのは久しぶりだな! 人間領の件、ホントにご苦労さんだ」


「いえ、私一人ではとてもとても……」


「何言ってんだ! トゥナから聞いたぜ? バジリスクのトドメはシルヴィちゃんの拘束だったって! それにあの拘束、未だにガッチガチに効果が発揮してるから俺の仕事が減って楽させてもらってるよ」


「そうでしたか。ですが、後処理をお任せすることになってしまいすみません」


「いいんだよそんなのは。こういう時に動けないんじゃ、何のための魔導連合なんだって話だしな! んで、例の魔族のお客さんも来てるのか?」


「はい。一緒に来ています」


 後ろを振り返って皆さんの姿を探し、一番背が高いフローリア様の頭上にある稲穂のような髪を指で示します。人垣の隙間からは、レナさんが小柄な魔女の方と楽し気に話している様子が見受けられます。その魔女の方の隣にはパンダのような使い魔がいることから、もしかしたらマイヤさんかもしれません。


 その少し後方に、ヘルガさんが気にしているレオノーラ達の姿がありました。

 如何に防寒着を着こんでいるとは言え、じっとしているのはやはり寒いらしく、両腕を組んで僅かに身を震わせているようです。


「ははは! あのレオノーラちゃんでも、イースベリカの寒さには敵わないってか!」


「魔族領でも冬は来るようですが、ここまで雪が降り積もることは無いそうでして」


「そりゃあそうだろ。ここみたいな豪雪が世界中で起こってたら、人も冬眠しないといけなくなるぜ」


「シルヴィちゃんの森は? まだ雪は降ってない?」


「今のところはまだですね。ですが、息も白くなっているのでその内降りだすのではないでしょうか」


「ほほー。じゃあシルヴィちゃんとこは比較的暖かいんだねー。うちの方は一昨日から降り始めちゃってさ、外に出るのが嫌だからって姉さん達が私にお使いを押し付けてくるの! 私だって寒いのに!」


 ローザさんが頬を膨らませながら怒る姿に二人で笑い、ふと気になったことをヘルガさんに聞いてみます。


「ヘルガさん、アーデルハイトさんはまだいらっしゃってないのでしょうか?」


「んや? アイツならとっくに来てるぞ。今は騎士団長様と会合中だ」


「街の中に入れないのも、その会合が終わってないから許可が下りてないってこと。早く終わらないかなー」


 なるほど。魔導連合と関りを持っている数少ない国とは言え、当日にもこうして許可が必要なのですね。

 大きな城壁の前で彫像のように微動だにしない門兵さんを見ながら、私は続けて尋ねます。


「騎士団長と言いますと、この国を統治しているのは王様ではないのですか?」


「そうだよー。ここは代々、騎士が国を護って民を先導する騎士団国家。冠雪地帯イースベリカって名前が有名だけど、またの名を“イースベリカ騎士国”とも言うんだよ」


「騎士国……」


 レオノーラが統治する魔族領と、私が生まれた人間領しか知らなかったため、王様が不在という国に興味が湧いてきました。

 果たしてどんな人々や文化が待っているのでしょうか……と心を躍らせていると、城門が開かれ、見覚えのある男性が出てきました。


「おーい、トゥナ! どうだった?」


 ヘルガさんの問いかけにアーデルハイトさんは何も答えず、小さく首を振りました。

 もしかして、入国を断られてしまったのでしょうか……。


 その私の懸念は、半分は正解で半分不正解でした。


「例のグランディア王国の件を伝えたところ、少し考える時間が欲しいとのことだ。日没までには答えを出すから、申し訳ないが先に例年通り狩りをしてほしいと」


「まぁ魔術師と裏でつるんだ結果、大規模な被害が出たって話、即座に飲み込める訳はないよな。仕方ねぇだろ」


「いや、判断が下せないのはもう一個の方だ」


「……あぁ、そっちか。そっちは尚更、はいそうですかとはならねぇって」


「あぁ、こればかりは仕方がない。だが、我々が持っている証拠をいくつか提示したことで、こちらに対しては理解を示してくれている」


「お! なら、あとは行動で示すだけだな」


「そうだな。号令は任せるぞヘルガ」


 アーデルハイトさんからそう頼まれたヘルガさんは、「任せとけって!」と気合を入れながら魔女の皆さんの方へと向き直り、これから始まる狩りについての説明を始めました。


 どのように行われるのか分かっていないため、しっかり聞いておこうとヘルガさんに注目していた私の肩をアーデルハイトさんが叩き、こちらへ来るように手招きされます。


 人垣から離れ、周囲に人がいないことを確認した彼は、私を真っ直ぐ見据えながら言いました。


「グランディア王家の件もそうだが、この国にも多少なりとも史実改ざんの形跡があった。そしてお前やシリア様に会うまで、私達もその事実に気づけなかったほど、この世界は何者かによって改ざんされてしまっているらしい」


 アーデルハイトさんはそこで言葉を切り、少しだけ表情を柔らかくさせました。


「だが、少なくとも私達はお前の味方のつもりだ。それだけは伝えておこうと思ってな」


「アーデルハイトさん……」


「魔導連合としては、お前達を支持する。しかし、諸外国やこの世界がお前を拒むこともあるだろう。だからこそ、お前は迂闊に“グランディア王家の出自”であることは言うな。ただの魔女のシルヴィだと言い張れ。いいな?」


「分かりました。ありがとうございます」


 私の返答に彼は頷き、「話は以上だ」と私の肩をもう一度叩くと、ヘルガさんの下へと戻っていきます。

 その後ろ姿を追い、私も戻ることにしました。

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