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2話 魔王様は提案する

 レオノーラの希望を聞き、早速ヘルガさんへ伺ってみることにします。


「取り込み中の所すみません、ヘルガさん。少しいいでしょうか」


『んお、なんだ?』


「あの、人間と魔族の異文化交流の件は知ってますか?」


『あー、エルフォニアからの報告でしか聞いてないけど、シルヴィちゃんが人間の王に啖呵切ったってことは聞いてるぞ? 可愛い顔してなかなかぶっこむなぁって思ってたけど』


「それは私ではなくシリア様でして……。ではなく、異文化交流の際に魔女が魔族側の監視役として同伴しなければならないらしいのです」


『そうなのか? おいトゥナ、今の話聞いてたか?』


『聞こえる訳無いだろう! 馬鹿にしてるのか!?』


『危ねぇ!! だから魔法止めろっつってんの!! 』


 本当に、彼らは仲がいいのか悪いのか判断ができません。

 事あるごとに喧嘩しているように見えますし、もしかしたら嫌いあっているけど仕事の都合上、仕方なく側にいるのかもしれません。


 そんな私の考えを否定するように、レオノーラが笑います。


『ふふっ。魔導連合の総長様は、意外と子供らしいところがありますのね。仲がよろしくて微笑ましいですわ』


「そう、なのでしょうか……」


『えぇ。喧嘩するほど仲がいい、という言葉がありますもの。それに、本心から嫌いなのであれば口すら利きませんわ』


 なるほど。そういう関係性もあるのですね。

 言われてみれば、シリア様とフローリア様の関係性に似ている気がしなくもありません。


 いつか私にも、そんな関係性のお友達が出来たらいいですねと一人で笑っていたところへ、アーデルハイトさんへ説明を終えたらしいヘルガさんが聞いて来ました。


『それで? 俺達は何を準備したらいいんだ?』


「えっと、同伴にあたる準備もそうなのですが、魔女と魔族もそこまで仲がいい訳では無いと言いますか、あまり関りが無かったと認識していまして」


『そうだなぁ、確かに魔族と関りを持ってる魔女は本当にごく一部だな。それこそシルヴィちゃん達とかじゃねぇかな』


「はい。そこで、見ず知らずの種族の同伴を行うくらいでしたら、まずは親睦を深めてからの方がお互いのためでは無いでしょうか? ということで、人間領へ派遣予定の魔族を冬季遠征に連れて行っていただけないでしょうか、と魔王であるレオノーラより提案を受けています」


『魔王直々かよ!? おいどうするトゥナ!?』


『だから話が読めないと言っているだろう! 私に判断を仰ぎたいなら拡散状態にしろ!!』


『あぁ、悪い悪い! 遠征に魔族を連れてってくれって魔王から頼まれてるってよ!』


『遠征に? ふむ……。ウィズナビを貸せ、私が話す』


『おう』


 ヘルガさんからウィズナビを受け取ったらしいアーデルハイトさんは、咳払いを一つしてから確認してきます。


『今の話は本当か、【慈愛の魔女】?』


「はい。つい先ほどレオノーラから提案を受けたばかりです」


『……待て、ということはそこに魔王がいるのか!?』


「この場にはいません」


『えぇ、いませんわ』


『いやいるだろう!? 何だその雑な嘘のつき方は!』


『うふふ! 嫌ですわ総長様、(わたくし)は本当にいませんのよ? 声が聞こえるのはあくまでも、シルヴィと魔道具を介して話をしているだけですの』


『そ、そうでしたか。失礼いたしました』


『もぅ! そう畏まらないでくださいませ? 私にもヘルガ様やシルヴィと同じように接してくださいまし?』


『い、いえ。それは畏れ多いと言いますか……』


『それに、派遣される予定の魔族には私も含まれておりますの。今の内から態度を崩しておかなければ、人間領で不審がられますのよ?』


「え!? レオノーラが人間領へ行くのですか!?」


『もちろんですわ! 王自ら前に立たねば、家臣は付いて来ませんのよ?』


『魔王自らか……これは大事になるぞ』


『ご安心くださいませ! 流石に魔王であることは隠していきますわ!』


『それは当然していただかねばなりませんが……。はぁ、では魔王の言う通り、我々も接し方を変えねばならないな』


 折れたアーデルハイトさんに、レオノーラは嬉しそうに笑いました。


『えぇ! ぜひお友達と接するように、気を使わないでくださいまし! それと、魔王ではなくレオノーラとお呼びくださいませ。どうしても呼び捨てが難しいのならば、さんを付けても構いませんわ』


『あぁ、分かった。レオノーラさん』


『おいおい、マジかよ……。魔王ってこんなフランクな人だったのか』


『あら? 威厳が必要な時は相応には致しますが、普段から力む必要などありませんのよ? ですので、貴方もフランクに接してくださいませ、ヘルガさん?』


『ははっ! それじゃあ、俺もそうさせてもらうかな。あ、俺はさんはいらないぜレオノーラちゃん』


『まぁ! ヘルガはトゥナさんに比べて柔軟ですのね! とても好感が持てますわ!』


『やったぜトゥナ、魔王の好感度アップだ!』


『うるさい! どうしていつも、お前はそう……』


 頭でも抱えてそうな様子が思い浮かべられる程、深く溜息を吐くアーデルハイトさんに、私達三人が笑ってしまいます。

 程よく雰囲気も解れたところで、レオノーラが尋ねました。


『ではトゥナさん、遠征に同行させていただいてもよろしくて?』


『あぁ、構わない。そちらの人数だけ教えて貰えるか? そうしたら、後日迎えを寄越そう』


『ありがとうございますわ! こちらからは、まずは私を含め三名と言ったところですわね。あまり大勢で向かっても威圧させてしまいかねませんし』


『三名か、承知した。では来週の月の日に迎えを送らせよう』


『あぁ、個別に迎えは不要ですわ! 手間も掛かりますし、シルヴィ達と合流致しますので一緒に案内してくださいませ?』


『そうか、なら【慈愛の魔女】と共に案内するよう伝えておこう』


『という訳でシルヴィ、当日は貴女の家に部下を引き連れてお邪魔いたしますわ』


「分かりました。朝食は食べてきますか? うちで食べますか?」


 私の質問に、レオノーラは声を弾ませながら答えます。


『まぁ!? シルヴィの手料理をいただけますの!? でしたら、五人分追加で用意していただけると!』


「ふふ、分かりました。では朝食の用意をしておきますね」


『シルヴィの手料理も食べられて、魔女の皆さまとイースベリカで遊べるだなんて……! 今からとても楽しみで仕方がありませんわ!』


『おいおいレオノーラちゃん、遊びに行くんじゃないんだからあまりはしゃがないでくれな?』


『えぇ、えぇ! あくまでも冠雪地帯で冬眠できず、食料を求めて暴れている魔獣の討伐が目的なのでしょう? もちろん理解しておりましてよ!』


『うぉ、滅茶苦茶察しが良いなこの人!?』


『当然ですわ! 私も市勢の視察を週に何度か行っておりますもの。それくらい読み取れますわ!』


『ははは! 流石は魔王様だ、全部お見通しだぜトゥナ』


『ふっ……では来週の月の日に。荷物はそこまでいらないから、身軽に動けるかつ、しっかりとした耐寒を怠らないようにしてくれ』


『お待ちしておりますわ!』


「はい、では来週はよろしくお願いします」


『おう! そんじゃなシルヴィちゃん! レオノーラちゃんも!』


 ヘルガさんの挨拶で通話が切れ、部屋が少し静かになりました。

 そんな中、レオノーラが待ちきれないと言わんばかりに声を弾ませています。


『うふふ! シルヴィ知ってまして? イースベリカにはイースベリカならではの、とびきりの料理や文化があるそうですのよ!』


「そうなのですか? 私も名前しか聞いたことが無いので、少し楽しみになってきました」


『そうでしょうそうでしょう! あ、そうですわ! こうしてはいられません、今の内に冬服を新調させなければ! ではシルヴィ、失礼いたしますわ!』


「はい、また月の日に」


『えぇ!』


 楽しそうなレオノーラとの通話を終え、私はふぅ、と息を吐きました。

 冠雪地帯イースベリカでの、一週間に及ぶ冬季遠征。

 去年の冬は塔の中から眺めるしかできなかった雪と触れ合えると言うことから、私も心なしか気持ちが弾んでしまいます。


 レオノーラではありませんが、私もシリア様にお願いして極寒の地域でも動ける服を用意していただきましょうかと思っていると。


『主よ、だらしない顔になっているぞ』


「わひゃぁ!? い、いたのですかメイナード!?」


『最初から聞いていた』


「なら何故、いると言ってくれないのですか!」


『我がどこにいようと構わんだろう』


 緩んでいた表情を見られ、文句を言っても飄々と受け流され続けてしまうのでした。

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