0話 幸せな王女は夢を見る・8
今回から新章開幕です!
今日はいつも通り、1時間後にもう1話投稿しますのでお楽しみに!
「シルヴィ様、間食のご用意ができました」
「ありがとうございます。いただきます」
「失礼いたします」
読書を中断して給仕の方を招き入れると、彼女が押すワゴンの上には、この時期では少し珍しいおやつが乗せられていました。
「フラッペ、ですか」
「はい。先日、冠雪地域イースベリカの使者が陛下への手土産にと、冷凍果実と甘味の付いた冷菓を献上されました。それを用いて、フラッペとしてみました」
机の上に置かれるそれは、可愛らしいピンク色のフラッペでした。時期的にもお父様への贈り物として持参された冷凍果実は、恐らくは苺なのでしょう。
ふわりと乗せられた生クリームの上には、同じく苺で作られたであろうソースがかけられていて、見た目からとても美味しそうであることが窺えます。
「それでは、私はこれで失礼いたします。廊下で控えておりますので、お食事が済みましたらお声掛けくださいませ」
「いつもありがとうございます」
「とんでもございません」
給仕の方は私に深々と一礼し、静かに部屋を出て行きます。
一人残された部屋の中で、フラッペを眺めながら溜め息が出てしまいました。
私は王女であり、給仕の皆さんとは身分が違うので食事を共にすることができない事は、頭の中では当然理解はしています。
ですが私個人としては、やはり美味しいものを食べている時は誰かと気持ちを分かち合いたいですし、お話に華を咲かせながら楽しみたいと思ってしまいます。
王族として生を受け、何一つ不便も無い生活を送らせていただいている身でありながら、こんな事を考えてしまうのは贅沢と言うものですね。
世の中には間食どころか、日々の食事すらまともに食べることが出来ない方もいらっしゃいますし、毎日食に困らない人生を与えてくださった〇〇〇〇様にも感謝しつつ、いただくとしましょう。
スプーンでフラッペを小さく掬い取り、口に運んだ瞬間、とても幸せな味が口の中いっぱいに広がりました。苺の酸味と生クリームの甘さ、そしてシャリシャリとした氷の粒がとても楽しめる逸品です。
暖かな部屋の中でいただくフラッペ……なんと贅沢な物でしょうか。春が目の前だというのにも関わらず、雪解けを迎えることが無いというイースベリカの方々の苦労には申し訳なくは思いますが、冷凍果実を送ってくださったことには感謝の気持ちをお返しして差し上げたいです。
そんなことを考えながらスプーンを進ませていると、夢の中でもこうしてフラッペを楽しんでいたことがあったのを、ふと思い出しました。
……あぁ、道理で寂しさを感じてしまったはずです。
夢の中での私は、家族と和気あいあいとしながら、いろんな味のフラッペを食べさせあっていたのですから。
暖かな部屋の外に吹雪く景色を見ながら、同じようにいただいていたフラッペはとても美味しそうでした。
私は夢の中で体験した、魔導連合と呼ばれる魔女の組織が主催している冬季遠征を思い出しつつ、フラッペを食べ進めることにしました。




