28話 義妹は復帰する
レナさんに見ていただいた結果、完成した風邪薬は小さな楕円状の薬となりました。
一応、シリア様に成分が崩れていないかなどをチェックしてもらい、お墨付きをいただいた上で早速エミリに飲ませてみることにします。
「エミリ、これを飲んでみて貰えますか?」
「うん……?」
未だ熱が下がらず、ぼんやりとした顔で差し出された薬を見ているエミリに、水と一緒に飲ませます。
よく分からないまま飲み込んだエミリでしたが、すぐには効果が表れると言うことは無いようで、私を見ながら首を傾げています。
「お姉ちゃん、今の何?」
「今のは、皆さんが集めてきてくださった素材を使った風邪薬です。効果はあるはずですが、何か体に変化とかはありますか?」
「ううん。まだ体が熱くて、頭がガンガンする……」
「そうですか……。たぶんこれから良くなっていくはずですから、安心して寝ていてください」
「分かった」
「あ、食欲はありますか?」
「うん、ちょっとお腹空いた」
「分かりました。では、お腹に優しいご飯を持ってきますね。食べ終わったら、汗を拭いて着替えましょう」
「ごめんね、お姉ちゃん」
「謝ることはありません。家族の誰かが大変な時は、皆で支え合うものですよ」
「えへへ……」
頭を撫でながらそう答える私に、エミリは嬉しそうに顔を綻ばせ、尻尾をパタパタとさせていました。
そんな可愛いエミリのために、私は夕飯のシチューを作る傍らでエミリのためのご飯を作り始めます。
エミリはお肉が大好きなので、柔らかくしたお肉……鳥のささみを使って料理をしましょう。
シチュー用とエミリ用で鶏肉を食べやすい大きさに切り分け、片方を焼きながらもう一方を蒸し焼きにします。
お肉に火が通ったことを確認し、続けて同じくひと口大に切り分けたニンジンを始めとする野菜を入れていきます。エミリの方には、ブロッコリーやタマネギなど、栄養価の高い野菜を中心に入れてお肉と一緒に茹でます。
あとはシチューの素を作って入れれば完成ですし、エミリの方もケチャップをたっぷりと煮詰めれば出来上がりますから、野菜が茹で上がるまでに、他の副菜を作ってしまいましょう。
寒い季節ですし、グラタンが美味しいかもしれませんと思い、倉庫に食材を取りに行き、シリア様にイタズラを受けたことを忘れなかった私は、ナスをしっかりと手にして戻ります。
フライパンにたっぷりの野菜とキノコをしっかりと炒め合わせ、ホワイトソースを作ってそれらをオーブンの中に入れて待つだけです。
そうして出来上がった料理をお皿に盛り付け、レナさんにお願いしながらテーブルに並べていると、二度目のお風呂から戻って来たフローリア様が可愛らしいお腹の虫の声を響かせました。
「んん~! とっても美味しそうな匂い! やっぱりご飯はシルヴィちゃんが作らないとダメね!」
「ありがとうございますフローリア様。もう出来上がりますので、席でお待ちください」
「はぁい♪」
やがてパンの切り分けも終わり、今晩の食事の準備が整ったことを確認した私は、先にエミリにご飯を食べさせに行くことにしました。
「エミリ、ご飯が出来ましたよ」
「わ~い!」
「今日はささみのケチャップ煮です。かなり柔らかくしてありますので、たぶん食べられると思います」
息を吹きかけ、冷ましてあげてから食べさせてあげると、エミリはしばらくぶりのご飯に顔を蕩けさせます。
「おいひ~!」
「ふふ、それは良かったです。おかわりもあるので、食べられそうであれば言ってくださいね」
「うん!」
エミリはモリモリと食べ進め、少しだけ空いていたはずのお腹は急激に空腹を訴えたようです。その後、彼女は二回のおかわりを食べ終えると、満足そうに息を吐きました。
「お腹いっぱい~」
「では、汗を拭いて着替えてしまいましょう」
エミリの服を脱がし、濡れタオルで体をしっかりと拭いてから着替えさせ、再びベッドへと寝かしつけます。
「お姉ちゃん、明日は元気になれるかな?」
「シリア様のご友人の方が作っていたお薬を模倣しましたので、たぶん大丈夫だと思います。食欲もありましたし、きっと良くなりますよ」
「明日は、お姉ちゃんと寝たいな……」
うとうとし始めたエミリを優しく撫で、私は頷きます。
「私もエミリと寝たいので、良くなることを神様にお祈りしておきますね」
「うん……」
やがて、エミリは規則正しい寝息を立て始めました。
愛おしい妹から離れ、私も遅めの食事とお風呂を済ませ、シリア様を抱いて眠りにつくことにしました。
次の日。
客室で眠っていた私の耳に、扉を叩く音が聞こえてきました。
体を起こし、寝ぼけ眼で返事をすると。
「お姉ちゃん、おはよう!」
「エミリ?」
部屋の扉を開けたエミリが、パタパタと私の下へと駆け寄ってきたのです。
寝癖は残り、パジャマ姿ではあるものの、今日のエミリはとてもハツラツとしているように見えます。
「エミリ、体の方はどうですか?」
「元気いっぱいだよ! えっとね、じっとしてられないくらい元気!」
元気になったことが嬉しいのか、彼女の尻尾は千切れんばかりに激しく左右に動き続けています。
私はそんなエミリが可愛らしくて、頭を撫でながら微笑みます。
「お薬がしっかりと効いたようで良かったです。では、着替えて朝ご飯の準備を手伝ってくれますか?」
「うん!」
『ふぁ……。なんじゃ、朝から騒々しい』
私達の会話のやり取りで目を覚ましたシリア様が、大あくびをしながら体を伸ばし、エミリを見て少し驚いたような表情を見せました。
『ほぅ、薬はしっかりと効いておったようじゃな。大事ないか、エミリよ』
「うん! シリアちゃんのお友達のお薬のおかげだって、お姉ちゃんが言ってたの。シリアちゃん、お薬を調べてくれてありがとう!」
『くふふ、良い良い。お主が弱っておると、シルヴィまで元気がなくなるからの』
「し、シリア様!」
慌てる私にシリア様はいつものようにくふふと笑い、ベッドから軽い身のこなしで飛び降ります。
『ほれ、エミリの着替えを手伝うのじゃろ? 早う行くぞ』
「シリアちゃん待ってー!」
「えぇ!? 待ってくださいシリア様! 私はそんなに落ち込んでいましたか!?」
私の抗議を無視して私達の部屋へと戻るシリア様と、その後に続いて走っていくエミリの後を追いながらも、私はようやくいつもの日常が帰って来たと一人で小さく笑うのでした。
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