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27話 女神様の料理の腕は壊滅的

 レナさん達がお風呂に入っている間に、再びシリア様の部屋に戻った私達は、早速薬の調合を始めることになりました。

 何故お二人がいない間かとシリア様に尋ねたところ。


『あの阿呆に邪魔されたくないであろう?』


 と率直に返され、私は肯定も否定もできませんでした。


『さて、まずは一角獣(ユニコーン)の角を粉末状にするところからじゃな』


「はい、シリア様」


『……待て、全てでは無いぞ。一角獣の角一本がどれほど貴重だと思っておる? 小指の爪程の大きさだけで十分じゃ』


 シリア様の注意とレシピの内容の通りに作業を進めること約一時間。

 全ての素材を煎じたお薬の素がようやく完成し、あとは魔力を籠めてどのような形で仕上げるかを残すのみとなりました。


「やはりポーションのように、飲料として完成させるべきなのでしょうか」


『そうじゃのぅ……。飲料の方が喉を通りやすく、体に負担を掛けぬじゃろうな』


「分かりました。では、その形で――」


 飲料薬品として仕上げに取り掛かろうとしたところへ、お風呂から帰って来たレナさん達の声が聞こえてきました。


「シルヴィー、ただいまー。お風呂めっちゃ気持ち良かったわー」


「冬はやっぱりお風呂よね~! 私はどの季節でもお風呂大好きだけど♪」


「何々? フローリアも日本人染みてきた?」


「異世界で移住するなら、今のとこはレナちゃんのいた日本が一番ね! 綺麗だし食べ物は美味しいし、何て言うのかしら……雰囲気? がとっても好きよ!」


「そういうのは“風情がある”って言うのよ」


「シリア様。せっかくですし、レナさんに異世界でのお薬について聞いてみてもいいでしょうか」


『そうじゃな。レナの世界の“科学”という力は侮れぬし、参考になるやも知れぬ』


 急いで部屋を出てレナさんの姿を探すと、彼女は食堂の椅子の背もたれにぐったりと背中を預け、脱力しきっているようでした。


「おかえりなさいレナさん、フローリア様。お風呂上りで申し訳ないのですが、ひとつ質問しても良いでしょうか?」


「え、あたしに分かることならいいけど」


「ありがとうございます。レナさんの世界では、風邪や病に対する薬は飲料薬でしたか? それとも、固形状でしたか?」


 私の質問に「あぁ、そういうことね」と理解を得たレナさんは、体を起こして答えてくれました。


「あたしのいた世界っていうか国は医療が凄く発達してて、だいたいの病気は飲み薬だったわ。このくらいの小粒の薬なんだけど、それと水を一緒に飲むのが主流だったかな」


「そんな小さいのですか!?」


 小指の爪の半分くらいの大きさを表現しながらそう答えるレナさんに、私は驚きを隠せませんでした。

 そこまで小さくしてしまうと、効果がかなり薄れてしまうような気がしてしまいますが、そこを何とかしていたのが異世界の技術なのでしょうか。


『ふむ。ならば固形状にする方が良さそうじゃな。それほど小粒であれば、喉に突っかかることもなく接種できるじゃろう』


「そうですね。異世界の技術を再現できるかは分かりませんが、試してみましょう」


「あ、じゃああたしが傍で見てよっか?」


「お願いしてもいいですか?」


「お安い御用よ!」


「私も手伝えることあるかしら?」


『貴様は来るな』


「えぇ~!? そんなこと言わないでよシリア~! 私にだって手伝えることあるわよねシルヴィちゃん!? あるわよね!?」


「え、えぇ? そうですね……」


 お風呂上りでいつもより香りの強いフローリア様に抱き付かれ、私は何か手伝っていただけそうなことは無いかと思考を巡らせます。

 薬の方はほとんど出来上がっていますから、レナさんに形を見てもらうだけで完成ですし、本当に手伝っていただくようなことはありません。テーブルの上で本当に嫌そうな顔をされているシリア様のためにも、何か適当にお願いしておくべきなのですが……。


 ふと視線を壁掛け時計へと移すと、間もなく夕飯を作らないといけない頃になっていました。

 そうですね、夕飯のためにお鍋にお湯を沸かせていただくことと、お皿を出していただくことはお願いできるかもしれません。


「ではフローリア様。薬が出来上がり次第、すぐに夕飯の準備に取り掛かりたいので、大鍋にお湯を沸かせておいてくださいますか?」


「お湯? いいわよ!」


「ありがとうございます。今夜はシチューにするつもりですので、お皿もいくつか出しておいてくださると助かります」


「は~い!」


 役割を貰えて上機嫌なフローリア様が動き出したと同時に、私達もシリア様の部屋の中へと戻ります。

 レナさん監修の下、微弱な魔力を籠めながら薬の作成を進めていると。


 突如、食堂の方から小さな爆発音とフローリア様の悲鳴が聞こえてきました。


「ど、どうしたのですか!?」


 慌てて食堂へと駆け込むと、何故か白濁色の液体を吹き出しているお鍋の隣で、それを全身に浴びてしまっているフローリア様の姿がありました。

 それはやや粘着性を持っているらしく、フローリア様が半泣きで顔を擦っても、顔と手の間で粘り気を見せてなかなか取れずにいるようです。


「えぇ!? お湯を沸かすだけなのに、何が起きたのこれ!?」


「ふぇ~ん……。シルヴィちゃんがシチュー作るって言ってたから、私が作ってあげようって思って時間圧縮で全部混ぜ合わせたら爆発したの……」


『阿保! 貴様に料理なぞ出来ぬのはハナから分かっておったわ! 貴様は黙って湯を沸かせばよかったものを、こんなに食材を無駄にしおって……!!』


「ベタベタする~……。お風呂入ったばかりなのにぃ!」


「とりあえずフローリア、もう一回お風呂入ってきなよ。シルヴィの薬の試作品は出来たし、あたしが掃除しておくから」


「もう料理なんてしない! 私は食べる専門になる!」


 今にも泣きそうな声でそう言い捨て、フローリア様はお風呂へと逃げていきます。残された悲惨なキッチンを見ながら、私は彼女が作ろうとしていたシチューの残骸を指先で掬い、ぺろりと舐めてみると。


「うっ……。なんですかこの味は?」


 牛乳、いえチーズと言った方が近いでしょうか。それをベースに野菜の苦みとそれを隠そうとしたと思われるハチミツの味、そして適当に入れられたため塩気が強すぎるそれに、舌が拒否反応を起こしそうです。


 シリア様とレナさんも試しにひと舐めし、動揺に顔を険しくしかめました。


『……良いかレナ、シルヴィ。二度とあ奴を台所に立たせるでないぞ』


「フローリアが料理できるって話は聞いたこと無かったけど、これは二度とやらせちゃいけないレベルだわ」


「肝に銘じておきます」


 私達は固く頷き合い、やや重い気持ちでそれぞれの仕事に戻っていくことにしました。

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