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25話 ハイエルフの長は驚愕する

 シリア様の酒造用の器具をいくつか貸していただき、神力が入ってはいけないからと、微弱な魔力付与の調整の練習をしばらく繰り返していたところへ、玄関の扉が開かれて誰かが入ってきた音が聞こえてきました。


『む、もう帰ったか?』


「まだ一時間も経っていないような気がしますが……。見てきますね」


『いや、妾も行こう』


 シリア様と共に一階へ降りていくと、真っ白なケープコートに身を包んだスピカさんがいました。


「やぁ魔女殿。シリア殿もご一緒だったか」


「こんにちは、スピカさん」


『なんじゃ、妾がいては困るのか?』


「いやいや、そう言う意味では無いんだ。気を悪くしてしまったのならすまない」


 スピカさんはシリア様にそう謝りつつ、腰元に付いていた茶色のポーチの中から何かを取り出しました。


「先ほどレナ殿達と偶然会ってな。なんでも、魔女殿が薬剤の調合を始めるから素材を集めに行く……とか言っていたから、もし良かったらこれを使って欲しいと思って来たんだ」


「これは……何でしょうか」


 一見、普通の楓の葉っぱのようにも見えますが、何か特別な葉っぱなのでしょうか。

 シリア様共々首を傾げている私達へ、スピカさんが説明をくださいます。


「これはエルフの一族に伝わる薬草のひとつ、“リージエ”だ。そのまま齧ると微量の治癒力促進効果があるのだが、煎じて飲むと効果が飛躍的に向上するという変わり種でな。魔女殿がどのように調薬するかは分からないが、きっと上手く使えるだろうと思って持ってきたんだ」


「なるほど、これが薬草と呼ばれるものなのですね」


「ははは、まぁ一般的にはそう分類されることもあるな。だが、これはまず人間や魔族の市場では並ぶことの無い、希少価値の高い薬草だ」


「そんな薬草をいただいてしまって良いのですか?」


「私達は森での暮らしも長く、自然界から生命力を分けていただいているから、森にいる限り病気とは無縁なんだ。だが、魔女殿や妹殿のような、私達とは体のつくりが異なる種族にとっては、この森の小さなトゲが病を引き起こすことがある。だからこそ、魔女殿達に使ってもらいたい」


 私の手を取り、リージエの葉を握らせるようにするスピカさんの優しさに、心が温まります。

 それはシリア様も同様であったらしく、私の肩に飛び乗りお礼を述べました。


『では、有難く頂くとするかの。じゃが、妾達とて希少な物をタダで貰う訳にはいかぬ。森の冬に慣れておるお主らには無用の長物やも知れぬが、これを持って行くがよい』


 シリア様は私の肩を二度叩き、スピカさんの眼前に手の平サイズの石をいくつか出現させました。スピカさんの手の中に落ちたそれを観察すると、ほんのりと赤く発光しているくすんだ宝石の原石のようです。


「温かいな。シリア殿、これは何だ?」


『魔導石じゃ。中には妾の炎魔法を封じ込めておる』


「魔導石だと!? 生まれてこの方、見たことが無いぞ!?」


「シリア様、魔導石というのはそれほどまでに希少なのですか?」


『うむ。ほれ、この前あらゆる物に魔法を封じられれば、世界の均衡が崩れかねんと話をしたじゃろう。それの兼ね合いで、以前お主が森の結界のために魔力を流し込んだ要石や、要石とは言えずとも高い純度を誇る原石が魔導石と呼ばれておるのじゃが、年に数度出土するかしないかと言うほどには希少じゃ』


 その説明を受け、スピカさんの両手の中に現れているそれの数を見てぎょっとしてしまいます。それほどまでに希少な原石が、ざっと十個ほどはあるのでは無いでしょうか。


『ちなみに、お主の杖先に着けられておる魔導石は、それらの中でも最高純度じゃ。世に三つ、いや二つとあればいい方じゃな』


「扱いに気を付けます……!」


『くふふ! まぁ、精霊魔法を扱えるお主であれば、火力の調整もできよう。寒さが厳しいと感じた時は、他の者を呼んで暖を取るが良い』


「あ、あぁ……感謝するシリア殿」


『おぉ、そうじゃスピカよ。もしお主が持ってきた葉と対価が釣り合わぬと気にしておるならば、月に数度で良い、この葉を分けて貰えんかの? さすれば、薬の備蓄や販売も叶うでな』


「承知した。リージエの葉自体そこまで多く原生してはいないが、可能な限り私達の方でも栽培してみるよ」


『うむ、助かる』


「では魔女殿、調薬頑張ってくれ。もし欲しい薬草とかがあれば、私達の方で持っていれば喜んで協力するぞ」


「ありがとうございます、スピカさん」


 スピカさんを見送り、再び二人きりとなった私達は二階へと戻ります。

 そして、気にしないようにしてはいたものの、やはりどうしても気になってしまった好奇心を抑えられない私は、シリア様の部屋に向かう途中で尋ねてしまいました。


「シリア様、ふとした疑問なのですが」


『なんじゃ?』


「魔石と魔導石は、何か大きな違いがあるのでしょうか。それこそ、純度の違いとかでしょうか」


『良い質問じゃな』


 シリア様は部屋の扉を開け、中に入りながら答えてくださいます。


『魔石とは、魔女や魔法使いが錬成する魔力の籠った石の事じゃ。これは火を起こすだけ、風を生み出すだけと言うようなシンプルかつ低火力な魔法しか籠められぬが故に、作った魔女が値段を自由に決められる』


「では、魔導石は?」


『魔導石は、石の純度によって籠められる魔法や魔力がまるで異なる。そして、一度魔法を籠めたら上書きが出来ぬ魔石とは違い、己の行使できる魔法であれば何度でも上書きができる。無論、魔力の貯蔵庫としても使える。故に、一般人からも魔女からも絶大に需要が高いのが魔導石なのじゃ』


「なるほど……。ちなみになのですが、やはり魔導石の方が何倍も高かったりするのでしょうか」


 作業台の上に飛び乗ったシリア様は頷きます。


『無論じゃ。魔石は安い物は銀貨五枚から金貨数枚が基本となるが、魔導石はサイズに関わらず、最低でも白金貨十枚からが相場となる』


「と、言うことは」


 先程スピカさんに渡された魔導石は、大まかに数えても十個以上はありました。

 それが単価で白金貨十枚以上となると……。


『あれを全て売れば、生涯金に困ることは無くなるのぅ! くふふ!』


 シリア様の金銭感覚は、人とはややズレているのでは無いかと思ってしまいました。

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