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22話 義妹は風邪をひく

 メイナードですら外の寒さに耐えられず、散歩に出かけたくないと口にしたことに驚いたある日のこと。

 シリア様に作っていただいたエアコンが程よい暖かさを作り出している部屋の中で、小さく可愛らしいくしゃみが聞こえてきました。


 振り向くと、椅子に座ってメイナードと指先で遊んでいたエミリが鼻をすすっていました。


「大丈夫ですかエミリ?」


「ずずっ……うん。大丈夫」


 大丈夫、と言う割には鼻水が止まらないらしく、ティッシュで鼻をかんでは少し気だるそうな表情をしています。


「少し失礼しますね」


「ん……」


 エミリの額に自分の額を当て、私の体温との差を計ります。

 私自身の体温が低いという訳では無いと思いますが、エミリの額から伝わってくる熱はかなり温かい気がします。


 額を離して彼女の顔をじっと見ると、やはりどこかぼんやりとしているように見えました。


「エミリ、ここ最近何か寒くなるような遊びはしていましたか?」


「う~ん……。あ、昨日メイナードくんと遊んだ時に、山の方に行ったの」


「山の方と言いますと、以前フローリア様のダイエットで走っていった湖とかですか?」


「うん。そこで大きくなって遊んでたんだけど、ちょっとだけ湖の中に入っちゃった」


 ちらりとメイナードへと視線を向けると、彼は私に詳細を話してくれました。


『確かにエミリは湖に落ちたが、余程冷たかったのかすぐに上がってきて体を震わせていた。我の方で水払いはしてやったが、冬の湖の冷たさは応えるだろう』


「何故それを昨日の内に教えてくれないのですか? もう……」


「メイナードくんは悪くないよお姉ちゃん、わたしが失敗しちゃったの」


「エミリ……。分かりました、エミリも寒かったならすぐにお風呂に入って良かったのですから、次からはもっと素直に言ってくださいね」


「ごめんなさい」


 しゅんと項垂れるエミリを優しく撫で、私は氷枕を作りにその場を離れます。


「メイナード、先にエミリを部屋に連れて行ってください。氷枕を作ったらすぐに行きます」


『分かった。行くぞエミリ』


「うん……くしゅん!」


 可愛らしいくしゃみをしながらエミリがふらふらと立ち上がり、少しおぼつかない足取りで部屋へと向かって行きました。





 氷枕を持って二人の後を追うと、着替えも済んでいないエミリがベッドの中に入っているのを見つけました。


「メイナード! 着替えくらいさせてください!」


『別に外に出た訳では無いのだから構わんだろう』


「そういう問題ではありません! エミリ、寝る前はちゃんと着替えてからでないとダメですよ!」


「う~……」


 気怠そうに起き上がるエミリには心苦しいですが、手早く着替えを済ませてから再び布団を掛けてあげます。顔だけひょっこりと出しているエミリの額に氷枕を置くと、エミリは一瞬びっくりしたような反応を見せましたが、徐々に気持ちよさそうな顔へと変わっていきました。


「もしお腹が空いているなら、後で消化のいい物を作ってあげますね」


「お腹はあまり空いてない……」


「分かりました。では、今夜は一人きりになりますが、しっかり寝るのですよ」


「お姉ちゃん、一緒に寝てくれないの?」


「風邪は感染(うつ)ってしまいますので、あまり傍にいてはいけないのです。今日はなるべく食堂にいるようにしますので、何かあったらすぐ呼びに来てくださいね」


「うん……」


「おやすみなさいエミリ。さぁ、メイナードも出ますよ」


『あぁ』


「おやすみ、お姉ちゃん」


 寂しそうなエミリの声に、とてつもなく後ろ髪を引かれる思いですが、ぐっと我慢して部屋を後にします。すると、ちょうど外出から帰って来たらしいフローリア様とぶつかりそうになりました。


「す、すみませんフローリア様!」


「大丈夫よ~。それよりも、どうしたのエミリちゃん? 風邪?」


 扉の隙間から見えるエミリを見て尋ねるフローリア様に頷くと、フローリア様は心配そうな表情をしながら言葉を続けます。


「お外は凄く寒くなって来たし、体調を崩してもおかしくないわよね~。村の人達も狩りの頻度を落として冬に備えてるみたいだし、ある意味動物の仲間でもあるエミリちゃんとしても厳しい季節なのかもしれないわね」


「そうですね……。とりあえず今夜は温かくしながらゆっくり休ませて、明日治ってなかったらまた考えようかと思います」


「そうね。エミリちゃ~ん、いっぱい寝るのよ~!」


「はぁい」


 弱々しいながらも返事を返すエミリに、私達は優しく微笑んで扉をそっと閉じました。

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