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21話 魔女様は事後報告をする

 ネイヴァール家で一泊し、久しぶりに感じられる自宅に帰って来た私達は、自宅と言う安心感に言葉通りの意味で体を伸ばしていました。


「はぁ~! 外出もいいけど、やっぱり自宅だわ~!」


「わ~い! お姉ちゃんの匂いのベッド~!」


「エミリ、ベッドに横になるなら着替えてくださいね」


「はぁい!」


 いそいそと服を脱いで、下着姿でベッドに飛び込むエミリを微笑ましく見ていると、隣の部屋では早速いつもの光景が繰り広げられていました。私はレナさん達の部屋の扉をそっと閉めて、夕飯の準備をしようと台所へ向かいます。


 すると、大窓からメイナードが飛び込んできました。


『帰ったか、主よ』


「はい。ただいま戻りました」


『あぁ。だが、もう我をあのハーピィ族の代わりとして使ってくれるな。我は主の翼ではあるが、配達員ではない』


「それはすみませんでした」


『ふん』


 やや不機嫌そうな彼に謝りながら、ミーシアさんからいただいた燻製肉を差し出します。メイナードはそれの匂いを確かめると私の手から奪い取り、咀嚼しながら少し目を細めました。


『……なかなか美味いな』


「それは良かったです。ネイヴァール領は畜産が盛んなようで、伸び伸びと育った牛を使った燻製だそうですよ」


『ほぅ』


 感心しながらももっと寄越せと突いてくるメイナードに燻製肉を渡しつつ、私が不在の間、森とフェティルアへポーションを配達してくれていた彼を労います。

 瓶は全てシリア様に創造していただき、ネイヴァール家でお世話になりながら、合間時間でポーション作りに勤しむ日々でしたが、流石に超長距離過ぎることからディアナさんではなくメイナードにお願いすることになっていたのです。


 持ち帰ったお土産の八割が彼の胃袋に収まると、メイナードは満足げに息を吐きながら尋ねてきました。


『それで、王家には主の望む答えはあったのか?』


「いえ……。余計に謎が増えただけでした」


『だろうな』


「当面は魔族と人間の仲を取り持ちつつ、【夢幻の女神】ソラリアという女神様について情報収集をしていく予定です」


『初めて聞く名だな』


 メイナードに王家で見聞きした情報を共有すると、彼は納得した様子を見せました。


『我には神様絡みの事は分からぬ。だが、主が我の翼を必要とするのであれば、自由に使うがいい』


「ありがとうございます、メイナード」


『……そう言えば主よ。先日、ここに魔王様が来ていたぞ』


「レオノーラがですか?」


『あぁ。事情をお伝えしたところ、帰り次第連絡が欲しいと言伝(ことづて)を預かっていた』


「そうでしたか。では、少し連絡してきますね」


 レオノーラが来ていた理由は分かりませんが、私からも異文化交流の件でレオノーラにお願いしたいことがありますし、ちょうど良いかもしれません。

 ベランダに出てレオノーラから貰ったペンダントを取り出し、魔力を籠めてレオノーラを呼びだします。すると、間もなくレオノーラの声が聞こえてきました。


『あぁシルヴィ! 心配していましたわ! 体に異常はありませんの!?』


「え、えぇ。特にありませんが……」


『このペンダントを通して貴女の魔力がおかしくなったのを感じたので、貴女の家を訪ねたら王家に向かっていたとメイナードに聞いておりましたの。何があったか教えてくださいますこと?』


「分かりました」


 レオノーラにも街での出来事や王家で見聞きした情報を共有すると、彼女が難しそうに悩む声が聞こえてきました。


『神の力を取り入れた人間なんて、聞いたことがありませんわ。それに、王家の血筋であるはずのシルヴィとシリアの存在が消されているだなんて、何が起きておりますの?』


「現状では何も分かりません。なのでこれから、シリア様や魔導連合と情報を集めていこうかと思っています」


『それが良いですわね。一応、魔族側(こっち)でも何か情報が無いか探ってみますわ』


「ありがとうございます、レオノーラ」


『うふふ! お礼なんていりませんわ! ……それでシルヴィ、人間との異文化交流というのは本当ですの?』


「えぇ。レオノーラから王家へ再三送られていた和平について、魔王が攻撃的ではないことと、人間側が勘違いをし続けていることを国王陛下へ直接言及してきました。その結果、まだいつ頃になるかなどの詳細は決まっていませんが、魔族と人間で異文化交流を試みるべきだと結論になりました」


 私の説明に、レオノーラは感嘆の声を零します。


『あぁ……。疑ってはいませんでしたが、まさか本当に成し遂げてくださるとは……。本当に、何と言葉で表現したらいいか分からなくなりますわ』


「成し遂げる、とは?」


『いえ、気になさらないでくださいまし。ともあれ、その提案は魔族側としてもとても喜ばしいものです。ぜひ協力させてくださいまし』


「ありがとうございます。では、王家の方から連絡が届いたら追って連絡しますね」


『えぇ! お待ちしておりますわ!』


 レオノーラとの連絡を終え、すっかり日が落ちるのが早くなった空を見上げます。

 やはりレオノーラは長い間、人間と仲良くなりたくて色々試していたのでしょう。それがこうした形で実現するかもしれないという事実に、ひとまず喜んでもらえたようでホッとしました。


 そうです、今回の件もアーデルハイトさんに共有しておいた方が良いかもしれません。

 私は続けてウィズナビを取り出し、アーデルハイトさんに仔細を説明することにしました。話し合いの結果、今後も綿密な連絡をするようにと指示を受けたところで通話が終わり、これで他にやることは無さそうですと一息吐いていると。


「お姉ちゃ~ん、お腹空いたぁ」


「お姉ちゃ~ん、私もお腹空いちゃったぁ」


「ふふ。今作りますね」


 エミリの口真似をしているフローリア様と、自分の真似をされて笑っているエミリに微笑み、夕飯作りに取り組むのでした。

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