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18話 ご先祖様は問い詰める

 夜会も盛り上がり、上品ながらも参加者の方々のテンションが高まってきた頃でした。

 これまで王妃様と語らいながらお酒や食事を楽しんでいた陛下が、再び拡声器を手に立ち上がりました。


「あー、皆の者。少し良いかな」


 陛下からの言葉に、ダンスホール内が一瞬で静寂を取り戻します。それを確認した陛下は、王妃様と頷き合ってから言葉を続けました。


「宴もたけなわと言うことで、我が国を救った英雄へ褒章の授与と行きたいと思う。おい、例の物を」


 陛下から指示を受けた側近の男性は一礼し、どこからか取り出した一枚の封書を陛下に手渡します。


「先日、“森の魔女”シルヴィ殿一行がフェティルアを救ってくれたことに対し、王家と貴族代表との間で協議した結果――。シルヴィ殿に“魔導伯”の爵位の付与と共に、不祥事を抱え姿を消した前レヒティン領主の後釜として、レヒティン領を治めていただこうと結論が出た」


 その言葉にざわめきが生まれ、賛同の意を拍手で示す方もいらっしゃれば、陛下の決定に異を唱える方もいらっしゃいました。

 特に、急に領地を与えるから治めるようにと名指しで指名された私の周囲は、混乱を極めています。


「ど、どうするのこれ!? シルヴィが領主様になるってこと!?」


「あらぁ~! シルヴィちゃん大出世ね! ん? でもシルヴィちゃんは元々王女――むぐぐ!!」


「フローリア様、そのような冗談は軽率に口にしてはいけませんよ?」


 咄嗟にフローリア様の口を押えたシリア様は、小声で「余計なことを言うでないわ、このたわけ!!」と罵りながら、人に見えない角度で彼女の太ももに蹴りを入れています。それを涙目ながらに痛い痛いと訴えるフローリア様の隣で、現ネイヴァール領主であるミーシアさんとエルフォニアさんが眉根を寄せながら難しい顔をしていました。


「これは、そういうことだよねエルちゃん」


「そうね。間違いないと思うわ」


「陛下もやり方が汚いなぁ」


「シルヴィの力は人間から見たら十分すぎるほど脅威よ。手元で押さえておきたくなるのも無理はないのではないかしら」


 その言葉で、陛下の目論見を察してしまいました。

 表向きとしては、フェティルアを含めたレヒティン領を救った英雄として、汚職を隠していた前領主様から挿げ替えという名目での爵位譲渡ですが、本当の目的としては、一番魔族領に近いレヒティン領に私を配置することで、魔族領に対する抑止力としたいのでしょう。


 個人的には魔族と人間のどちらに就くつもりもありませんが、レオノーラの口ぶりでは人間領から毎度仕掛けているようですし、私と言う盾を手に入れた人間側が何をするつもりかは、火を見るよりも明らかに思えます。


『シリア様……』


「分かっておる。妾達の答えはひとつしか残されておらん」


 最後にダメ押しと言わんばかりにフローリア様のおでこを指ではじいたシリア様は、私を肩に乗せて中央へと向かって歩み始めます。

 その歩みを遮らないようにと、海を割るように人が避けていき、やがて陛下の眼下の開けた場所に辿り着きました。


 それに併せて陛下も階段を下り、私達の数歩先で足を止め。


「どうか、今後もその力で我々を導き、護ってはくれまいか。シルヴィ殿」


 と、肉付きのいい右手を差し出してきました。


 シリア様はその手を数秒見つめると、小さく嘆息して小声で言いました。


「すまんの、シルヴィ」


『私はどんな時でも、シリア様の決断に従います。それが例え、王家に杖を向けることになってもです』


「くふふ。お主はそういう娘じゃったな」


 私とのやり取りを終えたシリア様は、私を足元へと降ろし、陛下へと優雅に一礼した状態で言葉を紡ぎ始めました。


「私のような、出自も定かではない一介の魔女へ、このような褒賞を戴けることを大変光栄に思います。私個人としても、魔法の力を以て人々を幸福へ導く魔導士を志しておりますので、この力で領土に安寧と繁栄をもたらせるのであれば、これ以上ない喜びです」


「おぉ、そうか。では――」


「ですが」


 シリア様が快諾してくれると判断した、陛下の嬉しそうな声をぴしゃりと止めさせると、険しい表情で言葉を続けます。


「私が人間に与すると言うことは、ひいては魔女という存在が人間に与すると言うことです。それは現在の世界情勢から見れば、魔族に対し、大規模な戦争を仕掛ける用意があると見られてもおかしくはありません」


「なっ――」


「そして、“魔導爵”という爵位を与え、辺境となるレヒティン領を治めよと言うことから、私は次のように推測いたしました。現在、魔族と度々争いが生まれている地域に最も近いレヒティン領に、私と言う魔女を配置することで、魔族側から手出しをさせないための抑止力として据えたいのでは無いか、と。違いますか?」


 淡々と表向きの話を剥がしながら核心に触れていくシリア様に、陛下が言葉を詰まらせ、表情を引きつらせます。そんな様子を気にすることも無く、シリア様は更に続けます。


「確かに私……いえ、魔女の在り方としては、“魔法の力を以て人々を幸福へ導く存在たれ”という理念は正しいものです。ですがそれは人間だけではなく、魔族も同等なのです。彼らもこの世界に生きる人であり、手を取り合うべき隣人であります。そんな彼らを突き放し、自分の身の周りの安全を確保しようという考えには賛同できかねます」


「それ、は……」


「それは違う、と思われるのであれば、失礼ながら私からいくつか質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」


 やや気圧されるように無言で頷いた陛下を見て、シリア様は問いかけます。


「では、まず一つ目。先日、国境地帯に住んでいた子どもが魔族に保護され、栄養失調であったが故に施しを受けたことに対し、魔族領からの人攫いだと、聞く耳を持たずに兵を出した理由を教えていただけますか?」


 そのような事が起きていたのですか? とシリア様を見上げると、シリア様は念話で答えをくださいました。


『レオノーラの奴から、いくつか現在の世界情勢について情報を仕入れておってな。丁度いいから奴に貸しでも作ってやろうかと思う』


『もしかして、私の体でネイヴァール家で休んでいた時に聞いていたのですか?』


『うむ。ほれ、時々妾が席を外し、散歩に出ると言っていた時があったじゃろう。あの時じゃ』


 言われてみれば確かに、あの一週間でシリア様は早朝から散歩に行くと言い残し、夕方過ぎぐらいまで戻らないことが度々ありました。その際にシリア様はあのペンダントを使ってレオノーラと話をしていたか、もしくはご自身が魔王城へと赴いていたりしていたのでしょう。


 影ながら暗躍していたシリア様に驚きを隠せずにいると、陛下がやや苦しそうに顔をしかめながら答えました。


「あれは、私の下には魔族の襲撃によって子どもが攫われたと伝達があったからだ」


「では、陛下は事の真偽を確認せずに兵を出兵させたということでよろしいでしょうか」


「そう、なるな……」


 苦し紛れな回答に、シリア様は嘆かわしいと言わんばかりに小さく嘆息し、問答を続けます。


「そうですか。では続いて、二千年前に成された魔王討伐を、現代でも再び目論んでおられる理由をお聞かせ願えますか?」

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