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11話 ご先祖様は窘められる 【フローリア視点】

 久々に天界に戻ると、大神様の近くで跪きながら声を荒げているシリアがいた。


「大神様、あれはどういう事でしょうか!? 何故ソラリアが妾になり替わっているのですか!?」


「少し落ち着きなさいシリア。そう大声を出すものではありません」


「あれを見て落ち着いてなどいられません! 大神様は妾が現界する時には気づいていたのでしょう!? 何故教えてくださらなかったのですか!!」


 今日は男性の姿になっている大神様は、半ば怒鳴るように声を上げるシリアに介せず、優雅にお茶を啜っている。ホント、お茶を飲むだけでも絵になる人ね~。


 大神様は帰って来た私に気づき、柔らかく微笑んでくれた。


「おかえりなさいフローリア。お前も私に聞きたいことがあるのですか?」


「ただいま大神様っ! 私は特に無いけど、天界に戻ったシリアじゃないとできない事があるから一緒に来た感じよ」


「……あぁ、レナのことですね。ならシリア、先にそっちを済ませなさい。あれはお前の設定漏れによるものですからね」


「何の話でしょうか。妾の魔法の制定に誤りがあったと?」


「えぇ。詳しい話はフローリアから聞きなさい」


 立ち上がったシリアは私へと歩み寄り、不快そうな声色で尋ねてくる。


「どういうことじゃフローリア。さっさと仔細説明せよ」


「私に八つ当たりしないでよ~。王城で何を見たか知らないけど、私関係ないでしょ~?」


「……すまぬ。して、レナが絡んでおるとはどういうことじゃ」


「ほら、シリアが座に就いてすぐに魔法の制定してたじゃない? その時に負の感情をトリガーにして、生命力を代償に莫大な攻撃力を得る魔法もあったでしょ?」


「む? おぉ、あの呪いとも呼べる転化魔法か。あれがどうかしたのか?」


「うん、あれをレナちゃんが使っちゃって」


「なんじゃと!?」


 やっぱりシリアはあれを使える人はいないと思ってたのね。まぁ無理もないわよね。


「私の記憶違いじゃなければ、あの時制定したルールって“この世界に生きる人に使わせない”って言ってたと思うんだけど、レナちゃんは私が連れて来た“別世界で生きていた人”でしょ? だから例外枠で使えちゃったんじゃないの? って思って」


「そういうことか……。確かに、レナを見るまでは異世界があるなぞ知らぬ上に、その世界から人間が来る可能性があるなぞ考えたことも無かったのぅ」


 シリアは顎を摘まむようにしながら悩み。


「……じゃが、貴様が連れてこなければ例外なぞ生まれることも無かったのじゃろうが!! このたわけ!!」


「ぁ痛っ!!」


 私の太ももをキックしてきた!!


「いった、いったぁい!! 太ももぉ~!!」


「このボンクラが! ほんに余計なことしかせんな貴様は!!」


「ごめ、ごめんって~! 痛い痛い、助けて大神様ぁ~!」


 しゃがみ込む私をゲシゲシと蹴り続けるシリアに大神様は苦笑し、シリアへ魔法を掛けてくれた。すると、シリアの体がふわりと浮かび上がって遠ざけられていった。


「全く。お前の言うことは正論ですが、すぐに力に訴えるのは良くない癖ですよシリア」


「くっ……。申し訳、ありません」


「フローリアを庇う訳では無いですが、レナを連れて来た件はもう不問にしています。それは許してやりなさい」


 少し不満そうにしながらも、シリアは頷いた。やっぱりシリアでも大神様には逆らえないから、大人しくなって助かるわ~。


「さてシリア。レナもそうですが、この世界には他にも何人か何らかの事情があり、異世界から訪れている人間がいます。そのため、お前が制定した禁止魔法の例外に当てはまり、今回のように行使される可能性もあるでしょう」


「妾が禁止とした魔法は、いずれも世の均衡を容易く崩しかねない危険な物が多い。今すぐ修正しましょう」


 シリアは杖を取り出すと、無数のマジックウィンドウを表示させながらテキパキと作業を始める。

 今邪魔するとものすごく怒られるから、私は大神様とお話してようかな。


 そう思った矢先、大神様の方から私へ話しかけてくれた。


「フローリア。地上での生活はどうですか?」


「え? それはもう毎日楽しくしてるわ!」


「私はそういう事を聞きたい訳ではありません。お前が神として、ちゃんと意識を改めながら過ごしているのかと言うことです」


「あ、あぁ~! そっちね、そっちは勿論ばっちり! この前もバジリスクもどきが人間の街を壊しちゃって、それをシリアと一緒に直したのよ!」


「えぇ、それは見ていました。人の世を正す、善い行いでしたね。褒めてあげましょう」


 大神様に頭を撫でて貰えるなんて滅多にないから、嬉しくて幸せになっちゃうわ~!

 大きな手に撫でられながら顔を緩ませていると、作業をしながらシリアが聞いてきた。


「じゃがフローリアよ、貴様の話が本当ならばレナは何故無事なのじゃ? 事が終わってからもう一週間は経っておるじゃろう」


「そこは私の力で時間を巻き戻していたのよ~。体の状態だけ毎日一日前に巻き戻し続けてたんだけど、そろそろ神力の回復も追い付かないからシリアに制定し直して欲しかったの」


「何故すぐに言わん……」


「だってシリア、当日と翌日は目を覚まさないシルヴィちゃんに付きっきりだったでしょ? で、そこからずっとシルヴィちゃんと入れ替わってたから手が空かなかったし」


「む、それはそうじゃな。すまんかった」


「いいのよ~、気にしないで! 私達の仲じゃない!」


 笑顔を向けると、シリアは少しだけ顔を緩めさせて微笑み返し、また顔を戻して作業に注力する。

 真面目なシリアの事だから、きっちり終わらせるまでは帰らないとか言いそうだし、ちょっと手伝ってあげようかしら。


「大神様、少し神力の提供を貰えないかしら?」


「構いませんが、どうするつもりですか?」


「シリア、夜会までには帰るって言っちゃったんだけど、あの様子じゃ終わるまで帰らなさそうでしょ? だからシリア以外の時間の流れを遅らせてあげようかなって」


「……ふふ。お前もそういう配慮ができるようになったのですね」


「えぇ~? 私最初から女の子思いの優しい神様よ?」


「可能な限り男子にも同様に接するように。では、神力の供給を行いますよ」


「は~い♪」


 シリアから少し離れた後方に立ち、魔法陣を展開させる。それと同時に大神様の強大な神力が私の中に流れ込み始め、陣が金色に輝き始める。


「権能、解放――。世界の時の流れ(クロノス・コスモ)よ、遅延せよ(シュペート)


 権能を解放すると、私を中心に光の波紋が急速に広がっていく。

 それはやがて世界の景色を染め上げ、歪んだ時計が薄っすらと空に浮かび上がり始めた。


「ふぅ。ねぇ大神様、毎回思うんだけどこの空模様、もうちょっと可愛くならないかしら」


「そもそも神に可愛さを求める時点で何かが間違っていますよ、フローリア。それにこの景色は地上の者には視認できないので、気にしても仕方ありません」


「でもぉ~」


「……では、こうしたいと言うことですか?」


 そう言うと大神様は、私に力を通して権能の一部を改変させる。

 それは徐々に景色を塗り替えていき、時計がハートの形になった。


「う~ん……やっぱり前ので!」


「だから言ったでしょう」


 大神様に苦笑されながら元に戻してもらうと、妙にしっくり来た。

 やっぱり普通が一番ね!

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