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10話 ご先祖様は疑問が絶えない

 続いて私達が向かった先は、王城の最上階にあるという大聖堂です。

 シリア様曰く、そこには自身の神像があるようで、王家の者は毎日、先祖であり神になられた後も王家を見守ってくださっているシリア様に、祈りを捧げているはずとのことでした。


 ですが――。


「な、何じゃ、これは…………」


 その神像を目の当たりにしたシリア様は、現実を受け入れられないと言いたげな顔を浮かべながら声を震わせます。

 ステンドグラスに差し込む夕日を一身に受け、神々しく輝いているその神像は、私が知る生前のシリア様のお姿ではなく、全く知らない軽装の騎士風の女性が優雅に槍を構えている物でした。


「そんなはずは……。妾の存在すら、消されていると言うのか……?」


 半ば茫然自失となってしまっているシリア様から少し離れ、その像を調べてみることにします。

 黄金の彫像のある台座には、『神祖ソラリア』と名前が彫られており、そのすぐ下には次のように説明書きが彫られていました。


『如何なる敵にも挫けぬ強く気高き精神と、その英知を以て勇者と共に魔王を討った、偉大なる我らが神祖。』


『天に昇り、神へと昇華せし我らが戦神へ、祈りを欠かすことなかれ。』


 神祖、ソラリア……。初めて聞いた名前です。

 いえ、それよりもこれはどういう事でしょうか。シリア様のお話では、魔王――レオノーラを討ったのはシリア様であったはずですし、レオノーラ自身も二千年前にシリア様に討たれたと悔しそうに話していたのを覚えています。


 それなのに、グランディア王家から私とその両親の存在が抹消されていたどころか、シリア様の存在さえも無かったことにされ、聞いたことの無い名前の神様が祀られているのです。

 私が今まで見聞きして来た世界の情報が揺らぎ、どちらが正しい情報なのか分からなくなってきます。


 もしも、今まで関わってきた人達が、私やシリア様の話を妄言だと知りつつ、あたかもそうであるかのように振舞っていたのだとしたら……?


 いえ、それはあり得ないはずです。

 魔導連合には確かにシリア様の名前と肖像画がありましたし、何よりシリア様の弟子であったアーデルハイトさんが証明になります。

 レオノーラにしても、シリア様を激昂させて戦いになってしまった時に「二千年経った今でも、見たくもない槍」と言っていました。ですので、過去にシリア様と対峙して“滅槍アラドヴァル”を放たれたことに間違いはないと思います。


 となると、やはりおかしいのは私達ではなく、王家であると考える方が正しいのでしょう。

 何故私達の存在が消されてしまっているのか、私の両親はどうなっているのかなど疑問は尽きませんが、私達は確かに存在しているのですから自分を信じることにした方が良さそうです。


 ひとつの確信を得た私がシリア様の方へと戻ろうと振り返ると、シリア様はどこか思いつめたような表情を浮かべていました。


『シリア様?』


「シルヴィよ、妾は少し天界で調べねばならぬことができた。夜会までには戻る」


『調べ物とは――』


 何でしょうかと尋ねようと口を開いた直後、体の主導権が私へ戻されました。

 シリア様は猫の体に戻るや否や、そのまま姿を消してしまいます。


 広い大聖堂にひとり置いて行かれた私は、とりあえず客間へ戻ることにしました。





 客間に戻って来て早々、私は再び困惑することになりました。


「ちょっとちょっとシルヴィさん! 恋をしたことがないって本当!?」


「え、えぇ……?」


 私の姿を見るや否や、ミーシアさんにそう詰め寄られ、状況が分からないまま捲し立てられます。


「シルヴィさんまだ十六歳なんでしょう!? 森の中に引っ込んでポーションばっかり作るのも悪いとは言わないけど、ちゃんと素敵な人見つけて恋愛しないと女の子の価値が下がっちゃうよ!?」


「あの、ミーシアさん……」


「そりゃあね? シルヴィさんは魔女だし、私なんかが口出ししていい世界じゃないのかもしれないよ? でも同じ女性として、こんなに可愛い子が恋も知らないまま年老いていくなんて見てられないよ!」


「あなただってまだ、男を見つけてないじゃない」


「エルちゃんには言ってない! 黙ってても男が寄ってくるエルちゃんと一緒にしないで!!」


「ふふ、酷い言われようね」


 冷静にツッコミを入れたエルフォニアさんに吠えたミーシアさんは、「とにかく!」と若干脱線させられていた話を戻します。


「夜会には色んな人がお見えになるから、きっと出会いもあるよ! それまでに私が、恋愛とは何かを教えてあげる!」


「お気持ちはありがたいのですが、私も話さないといけないことが……」


「恋愛より大事!?」


「か、どうかはちょっと分かりませんが……」


「なら後後! 今夜、シルヴィさんに素敵な巡り合わせがあるかもしれないんだから!」


 ミーシアさんはそう言うと、私の手を引いてソファへ座らせました。誰かに事情を聞こうと視線を巡らせるも、レナさん達は露骨に私から視線を逸らします。

 そんな中、私が帰って来たことに気が付いたエミリが私の膝の上に収まり、満面の笑みを浮かべながら口を開きました。


「おかえりお姉ちゃん! 今ね、レナちゃん達とれんあいけーけん? の話してたの!」


「ちょっ!?」


 私から説明を求める視線を受けたレナさんは、どこか気まずそうにしながらも弁明を始めます。


「そのー、あれよ。ちょっと恋愛の話に発展して、エルフォニアに彼氏がいないって話になってね? そしたらエルフォニアがあたしは男受けしないお子様だなんて言うから、売り言葉に買い言葉って言うか、シルヴィですら彼氏はいないわよって言っちゃって……」


「何故そこで私が引き合いに出されるのですか?」


「ごめんって! でもほら、森で獣人やハイエルフと暮らしてるあたし達は恋愛とは縁遠い訳じゃない!?」


「まぁ、それはそうですが」


「だからあたしだけじゃなくて、シルヴィだって同じだって言いたくて、その……ね?」


 ね? と言われてもイマイチ理解できません。

 何と答えるべきか迷っていた私へ、フローリア様が何かに気づいたように尋ねてきました。


「あら? シリアは一緒じゃないの?」


「シリア様は少し確認したいことがあると言って天界へ行ってしまいました。夜会までには戻られるそうです」


「あ! じゃあちょうどいいから私も行ってこよっと! そろそろ私だけの力でレナちゃん抑えるのも厳しかったしね」


「え、何の話?」


「ひ・み・つ♪」


 意味深な発言を残してフローリア様は立ち上がると、「シリアと一緒に戻って来るから!」と姿を消してしまいました。

 レナさんと顔を見合わせている私達へ、ミーシアさんがお茶を差し出しながらにっこりと笑いかけます。


「さてさて、それじゃあお話を続けよっか! 夜会で素敵な人を捕まえて帰るよー!」


 ミーシアさんはもっと大人しめな方だと思っていましたが、少し認識を改めないといけないのかもしれません。

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