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9話 魔女様は探索する

 その後、「ゼルシールという名は知らないか」「先代の王の名は」と立て続けに尋ねたものの、「知らない」「先代はヴァニスだ」という回答があり、私とシリア様は余計困惑することになりました。


 複雑な感情のまま会食を終え、夜会のダンスパーティーに誘われた私達は、約五時間ほどの自由時間をいただきました。

 部屋でゆっくりしていたいという面々を残し、私とシリア様とエルフォニアさんだけで王城を軽く見て回ることにして、入室の許可をいただいた部屋をまわり始めます。


「……その顔だと、求めていた答えでは無かったようね」


 書庫にある本を手に取りながら言うエルフォニアさんに、シリア様が答えます。


「うむ。お主も既に気づいておるかとは思うが、シルヴィは王家から亡き者として幽閉されておった王女じゃ。じゃが、シルヴィを幽閉した張本人が王家に名を残さずに消えておる」


「どういうことかしら」


 エルフォニアさんは脚立に腰掛けながら本を吟味する作業を中断し、私達へと顔を向けました。


「どうもこうも無い、言葉通りの意味じゃ。シルヴィの親の名が王家から消えておるのじゃよ。そして――シルヴィ自身の名もな」


「シルヴィを王家から亡き者として存在を消した、という点までは分からなくも無いわ。でも、先代の王とその王妃の存在も消すなんてできるのかしら」


「分からぬ。じゃが、現にその状況が発生しておるのは事実じゃ。して、現国王のノーランとその王妃であるマナ。あ奴らは両方とも妾の血を引いておらぬ、どこぞの馬の骨じゃ」


「王家の血じゃない人物が王を騙っている、と言う事かしら」


「今は何とも言えぬ。何らかの状況があった末にシルヴィの親の存在を消し、他所の人間を王に据えるしかなかったのやも知れぬが、如何せん情報が足りん」


 シリア様は「あまり考えとうは無いが」と付け足し、言葉を続けます。


「妾の血を引いた子孫が既に王家の者では無く、どこぞの庶民や貴族に身を墜とし、その中で生まれたシルヴィを塔に幽閉していただけ……という可能性すらもあり得る。あの者らが“グランディア”を名乗っておった以上は無いと思いたいのじゃがな」


「なんだか、想像以上に複雑な状況になって来たわね」


『私も、もしかしたら自分が王家に生まれてはいなかったのでは無いのでしょうか、と思ってしまうくらい混乱しています。何が正しくて何が間違っているのか、何一つ判断する材料がありません……』


 若干疑心暗鬼になりかけている私を、シリア様がすっと抱き上げました。


「良いかシルヴィ。確かに、今の状況は妾ですらどうなっておるのか分からぬ。じゃが、ひとつだけ確かなことがあるぞ」


 私の頬を優しく撫でながら、子どもを慈しむ母親のような表情でシリア様が言います。


「お主は間違いなく、このシリア=グランディアの血を引いた子孫じゃ。それだけは信じて良い」


 シリア様の言葉に、以前メイナードが言っていた言葉が重なります。


『主よ。人間の世界は、単純な力だけでは解決しない問題が多い。身分を偽り、敵を欺き、時には己すらも騙す。だが、いついかなる時でも我らの世界と共通点を持つ真実がある』


『己の体に流れる血だ。その血は自分を証明するものであり、親に偽られようと殺されようと、どのような状況であろうとも偽ることのできない魂の情報だ。だからこそ、契約に用いる物は血が対価と太古より相場が決まっている』


『主はシリア様の正当な血統なのだ。自分はシリア様の子孫なのだと誇れ。そして疑うな。この先に何があろうとも、それだけは主を裏切ることは無い。それだけは決して忘れるな』


 もしかしてメイナードは、こうなることを予期していたのでしょうか。

 人間の王は弱いから興味が湧かない、と着いてこなかった彼の心境を計り知ることはできませんが、あの日以降のメイナードは普段よりどこか優しいようにも感じられましたし、とても聡明なメイナードの事ですから何か察してはいたのでしょう。


 不器用なメイナードの優しさに思い出し笑いをしていると、シリア様に不思議そうな顔をされてしまいました。


「なんじゃシルヴィ。何かおかしかったか?」


『いえ。少し前に、メイナードにも似たようなことを言われたことを思い出していました』


「メイナードが? ……やれやれ、大事なことはキチンと口にせよと何度あ奴に言えば良いのか」


 呆れたように笑うシリア様は、私を床に降ろして部屋の扉へと向かい始めました。


「妾達は他の場所を見回ってくる。何か気になった物があれば後で教えよ」


「えぇ、分かったわ」


 脚立に腰を掛けたまま本のページを捲り始めたエルフォニアさんと別れ、私達は廊下を進み始めます。

 廊下の壁には誰が描かれているかが分からない絵画がいくつも飾られていて、中には国王陛下のものと思われる自画像も飾られていました。


「……む、これは」


 シリア様が足を止めて視線を向けた額縁の中には、私も見覚えのある人達が描かれていました。


『セイジさん達でしょうか』


「じゃろうな」


 中央で勇ましく剣を構えているのは、恐らくセイジさんです。その右横で長杖を構えている魔女のような女性はメノウさん。その反対側で祈りを捧げるように手を組んでいる修道服をモチーフとしたドレス姿の女性がサーヤさんでしょう。そして、そんな彼らの後方でダガーを両手に構えている猫のような耳のある女性がアンジュさんだと思われます。


『とても凛々しく描かれていますね』


「勇者一行と言えば、国を代表する最大戦力と言っても過言ではないからのぅ。じゃがしかし、ちと盛り過ぎでは無いか? あ奴らはまだ、尻の青い小童じゃろう!」


 くふふと笑いながら指摘するシリア様に、私は何とも答えることが出来ませんでした。

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