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23話 魔女様は歓迎会をする

 家に帰ってきた私は、シリア様のご希望でエミリさんの歓迎会も兼ねて、少し贅沢なご飯を作ることにしました。シリア様はエミリさんを連れて、家の間取りや今後仕事をお願いすることになる診療室を案内してくださっています。


 キッチンに立ち、材料を並べながら考えます。人狼種であるエミリさんも獣人の方々のように肉食かどうかが分からないので、とりあえずレパートリーを増やして今後の参考にするべきでしょう。


 色々と考えているだけでは料理は出来上がらないので、とりあえず兎の肉を使ったトマト煮を作りながら他も考えることにします。

 軽く洗った兎の肉の水気を拭き取り、食べやすいようにぶつ切りに。そして玉ねぎやニンニクをみじん切りにして、深鍋で炒めて火が通ったら、お肉も入れて焼き色が付くまで再度炒めます。その後、ヘタを取り大きめにカットしたトマトとお肉を入れて、トマトの余分な水分が飛んで全体に染み込んだら完成です。


 続けて、ローストポークの準備にも取り掛かります。厳密には豚ではなくイノシシ肉なのですが、細かいことは気にしないことにしましょう。

 ブロック肉全体に塩、胡椒とハーブ、すりおろしたニンニクを擦り込み、しっかりと下味を付けます。満遍なく擦り込めたら、あとで使う用に鍋で水を沸騰させておきながら、フライパンに油をひいてお肉を全面こんがりと焼いていきます。

 焼き目が付いたら水魔法で薄くお肉を包み込み、密封状態を作ってさっきのお湯の中へ落とし込みます。あとはお湯が冷めて、熱が中に伝わりきればこちらも出来上がりです。


 主菜はこれくらいで問題ないでしょう。あとは副菜となるサラダ、スープ、デザートでしょうか。

 スープも野菜をふんだんに使った野菜スープにしましょう。まずは玉ねぎ、トマト、セロリ、カボチャを一口大に切り、玉ねぎを先に炒めます。火が通ったのを確認したら、トマトと塩を少々入れて蒸して水分を出させてから、他の野菜と水、香りづけのハーブを入れて柔らかくなるまでしっかりと煮込めば、優しい味付けのスープの完成です。


『ふーむ……。さすがシルヴィじゃな、この短時間でここまで仕込むとは』


「わひゃあ!? び、びっくりさせないでください、シリア様……」


 いつの間にか戻られていたシリア様が、私の肩に飛び乗り料理を見ながらそう言うものですから、手に取っていたトマトを落としそうになりました。

 シリア様は笑いながら煮込み中の鍋の蓋を開くよう私を促し、辺りに広がる食欲をそそる香りにうっとりとされています。


『実に良い香りじゃ。これは待ちきれぬのぅ』


「これから仕上げなので、もう少しだけお待ちください。ところで、エミリさんは一緒ではないのですか?」


『あ奴は下を探索しながら配置を覚えると言っておったよ。お主の手伝いを真剣に取り組みたいようじゃし、しばらく好きにさせようと思うてな』


「来て早々に無理をして欲しくはありませんが、覚えて頂けるとスムーズにお願いできてありがたいかもしれません」


『じゃろう? ところで、お主今日はデザートは何を作るのじゃ?』


「まだこれと言って思いついていません。何か希望はありますか?」


 シリア様はそうじゃなと少し考えこみ、何かを思い出したかのように手を打ちながら答えました。


『ならばあれが良い。ほれ、お主と初めて会った日にお主が作ったあれぞ』


「あれ……? もしかして、アイスベリーケーキですか?」


『うむ。あの凍った果実の感触がまたたまらなくてのぅ……』


 思い出しながら顔を緩ませるシリア様に、笑いながら了承します。

 そしてシリア様は、エミリさんの様子を見てくると言い残して再び一階へと降りていきました。


 では、デザートを作るためにも早く進めないといけませんね。サラダはスティックサラダを採用することにして、生クリームとチーズ、黒胡椒を少し使って手早くバーニャカウダーソースを作り、サラダを完成させデザート作りに移ります。


 とは言っても、長方形の型に生クリームと牛乳を流し込んでよく混ぜ、カットしたイチゴやブルーベリーをそこに入れて凍らせるだけなので、一番手間のかからない一品です。あの日もあれこれ作ろうと考えていた矢先にシリア様が現れたので、とにかく早く作れて美味しいものと考えた末のこれだったの思い出します。


 あれから約一カ月。あっという間でしたが、今までとは比べ物にならないくらい毎日が充実しています。

 そして今日から、新しくエミリさんが私達と一緒に生活をするのです。私とシリア様は家族として生活していましたが、エミリさんは受け入れてくれるでしょうか。


「家族が増えてくれたら、嬉しいですね」


 思わず零れてしまった期待に、はっと表情を引き締め直して出来上がった料理を食卓に並べます。

 兎肉のトマト煮込み、イノシシ肉のロースト、野菜盛りだくさんのスープに、スティックサラダとアイスベリーケーキ。我ながらとても美味しく出来上がりました。渾身の力作です。


 さぁ、下で待っているシリア様とエミリさんを呼びに行きましょう。お二人ともお腹を空かせていることでしょう。





 出来上がった料理を見た二人は、作り手冥利に尽きる反応を示してくれました。


「わぁぁ……! 魔女様、とっても美味しそうです!」


『ほぉー……。見事じゃシルヴィ! これは味も楽しみじゃのぅ!』


「エミリさんの好みが分からなかったので、色々と作ってみました。味の方も、美味しく出来たと思います」


 エミリさんに笑いかけると、きょとんとした顔で私を見返してきます。


「わたしですか?」


「はい。今日はエミリさんが主役ですので」


『うむ。エミリよ、今日からお主は妾達の家族と同義じゃ。故に、新たに家族となる者の歓迎会という訳じゃ』


「シリア様も、エミリさんは今日から私達の家族の一員と認めてくださっています。エミリさんさえ良ければ、私達と家族のように接していただければ嬉しいです。敬語もいらないので、気楽にして大丈夫ですよ」


 シリア様の言葉を代弁しながらも、家族という言葉に私の心も温かくなります。本当にいいのですか? とでも言いたげな顔を向けられた私達が同時に頷くと、ぽろぽろと涙を零し始めてしまいました。


「家族……。ありがとう、ございます。ありがとうございます魔女様……!」


『ええい、泣くでない。せっかくの料理が不味くなってしまうではないか! それと家族ならばその敬語と魔女様呼びもやめよ。他人行儀が過ぎるのもそうじゃが、お主には似合わぬ背伸びじゃ』


 とか言いながらも、エミリさんを優しく慰めているあたり、シリア様らしい愛情表現だと思います。私がシリア様の言葉を代わりに伝えると、シリア様を強く抱きしめながらさらに泣き出してしまいました。


 よく見ると、シリア様の首から肩のあたりが涙と鼻水でぐしょぐしょになってしまっています。


 ハンカチで涙などを拭き取ってあげていると、私に気が付いたシリア様がご自分の肩を見てぎょっとしていました。気持ちが悪いかもしれませんが、今だけは我慢してあげてください……。


「っぐす、ありがとうござ――ううん、ありがとう。えっと、お姉ちゃん……」


 その時、私に衝撃が走りました。お姉ちゃん。なんて胸に来る響きなのでしょうか! てっきり「シルヴィさん」と呼ばれるかと思っていたので、自分が姉の立場になるとは想像していませんでした。


 お姉ちゃん。そうですか、私はエミリさん――いえ、エミリのお姉ちゃんなのですね。


「えへ、えへへ……お姉ちゃん……。はい、お姉ちゃんですよエミリ!」


『……シルヴィ、顔が緩みまくっておるぞ。そんなに姉と呼ばれたのが嬉しかったか』


 シリア様の若干引くような声色で、現実に引き戻されます。いけません、また顔に出てしまっていたようです。

 努めていつも通りの笑みを浮かべ、何でもないかのように振舞いましたが、シリア様にはお見通しだったようで呆れた溜め息を吐かれてしまいました。


『やれやれ。ほれ、あまり話が長引くとせっかくの飯が冷めてしまうぞ』


「そ、そうですね。エミリ、落ち着いたらご飯にしましょうか」


「うん」


 声色はいつもと大差ありませんが、小さく笑顔を咲かせるエミリに、思わず胸がときめきます。可愛い。私の新しい妹はとても可愛いです!


『……お主もはよう席に着け』


「ふっぐぅ!? す、すみません……」


 脇腹を鋭く刺され、変な声が出てしまいました。恥ずかしさから赤くなった顔を伏せながら、そそくさと自分の席に着き、シリア様の合図で歓迎会が始まりました。


『では、エミリの歓迎会を始めるぞ! いただくのじゃ!』


「いただきます」


「い、いただきます!」


 あまり野菜料理を凝る時間はなかったのですが、人狼種も獣人種の方々と同様にお肉の方が好きだったようで、手始めにイノシシ肉のローストを口に運ぶと恍惚とした表情を浮かべていました。


「美味しい……!」


『ほぅ? どれどれ…………んむ、これは絶品じゃな! 村で出たソテーも悪くなかったが、やはりシルヴィの料理が一番じゃのぅ!』


「こんな美味しいの、今まで食べたことがない! お姉ちゃんは料理も上手ですごいね!」


「食べたいものがあったら言ってくださいね。お姉ちゃん、何でも作ってあげます!」


『くふふっ、良き姉じゃのぅ。ではこの煮込みも…………ん~む! 香るハーブとトマトの酸味が柔らかな肉と相まって絶品じゃ!』


 どうやら、腕に縒りをかけて作った料理は大好評のようです。少し多めに作ったつもりでしたが、あっという間に完食されてしまいました。

 そして頃合いになったので、アイスベリーケーキを奥から持ってきて切り分けると。


『おぉ! これじゃよシルヴィ! はむっ…………うむ! 美味い!!』


「甘くて、酸っぱくて、シャリシャリでとっても美味しい!」


 こちらも文句なしの大人気でした。無邪気な笑顔を浮かべるエミリに並んで、同じように笑うシリア様を見ていると、作り手冥利に尽きるというものです。


 時間のある時にエミリの好みを聞いておきましょう。と心の中で呟き、ケーキを口に運びます。甘酸っぱい果実の風味が、口の中を爽やかに彩りとてもさっぱりした口当たりです。


 私は食後のデザートとしては最高の出来に満足しながら、幸せそうに食べる二人を眺めました。これからも、二人が幸せになれるような料理を作っていきたいです。

次で1章最後となります!

また1時間後頃に投稿予定です!

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