7話 魔女様は王城に到着する
夜通しの旅程を終え、翌日のお昼頃に王城の正門前に辿り着いた私達は、お城の大きさに開いた口が塞がりませんでした。
魔導連合、魔王城とお城は見る機会があったはずですが、その中でも一際存在感を放つ立派な外見に、馬車から降りた場所でそのまま立ち尽くしてしまいます。
そんな私達を小さく笑ったミーシアさんが、「お邪魔になりますから進みましょう」と促すまでそれが続き、先に向かい始めたミーシアさんやエルフォニアさん、シリア様の後を慌てて追いかけます。
ライカさんの案内で進む城内は、外見通りに中もとにかく広く、全体を回るだけで一日が終わってしまいそうな気がしてしまいます。
「流石、王様が住む城って感じね……。どこも煌びやかで目が痛いわ」
「魔王ちゃんのとことは大違いね~」
「あっちは何て言うの? 厳かなって言うか、ちょっと圧のある感じだったけど、こっちはもう華々しさ全開で贅の限りを尽くしてる感じ」
レナさん達の会話を聞きながら城内を歩き続け、いくつか階段を登った先でひとつの部屋に案内されました。
「こちらでしばらくお待ちくださいませ。陛下へ皆様の到着をご報告に参ります」
「えぇ。案内ありがとうございます」
ミーシアさんに深々と頭を下げたライカさんが部屋を去り、絵画や豪華な装飾の施された家具が配置されている部屋に残されました。いつもなら我先にとソファなどに腰を掛けようとするフローリア様でさえ、ソファが放つ高級感に気圧されて居心地が良くなさそうにしています。
しかし、それを気にも留めずにシリア様がぽすんとその上に腰を下ろしました。
「し、シリ――シルヴィちゃん~! そんな風に座っちゃっていいのそこ!?」
「大丈夫ですよフローリア……様。ここは客室ですので、ある程度は私達のような来賓向けの家具に調整されています。見た目ほど高くはありません」
「ふふ、シルヴィさんはこういう目利きもできるのですね。私なんて初めてここに通された時、もうドキドキしっぱなしだったのに」
「魔女なので、こういう豪奢な部屋に通される機会は度々ありますから」
「聞いたエルちゃん? エルちゃんももう慣れてるの?」
「私は人前にあまり出ない魔女だから、そこまで慣れては無いわ。家にあったもの程度なら、それなりには分かるつもりだけれど」
「だよねぇ。私も失礼させていただこうっと」
ドレスに皺を付けないように手慣れた仕草で整えながらミーシアさんも座り、その横にエルフォニアさんも同じようにして座ります。
「エミリ、こちらへどうぞ」
「う、うん」
シリア様から発せられる私の口調に困惑しながらも、エミリがシリア様の横にちょこんと座りました。その様子を見ていたレナさんが、まだ少し歩き辛そうにしながらも横に座ろうとした時、部屋の扉からノック音が聞こえてきました。
フローリア様がその扉を開けて迎え入れると。
「あぁ! 先日ぶりです!」
「あら、勇者ちゃん!」
こちらも会食用にと衣装を変えていた勇者一行がいました。彼らはフローリア様に軽く頭を下げながら部屋の中へと足を踏み入れ、ミーシアさんへ話しかけます。
「遠路はるばる足を運んでいただいてすみません、ネイヴァール女侯爵様」
「いえいえ、私までお招きいただいてありがとうございます。セイジ王子」
「とんでもないです! 森の魔女――じゃなかった、シルヴィさん達の療養と寝床の提供、ありがとうございました。あとで父からも謝礼があるかと思いますが、俺からもお世話になったお礼を言いたくて」
「セイジ王子は真面目ですね。私なんかで良ければ、またいつでもお力になりますから気兼ねなくお声掛けください」
「ありがとうございます。その時はぜひ、また」
社交辞令を交わすお二人に、隣に座っていたシリア様が小さく「これだから貴族は堅苦しくて敵わん」と愚痴を零しました。王族に嫁いだとはいえ、シリア様自身はこういったやり取りはあまりお好きではなさそうです。
そんなシリア様へ、セイジさんが続けて話を振ります。
「シルヴィさんも、そのご家族も、王城まで来てくださってありがとうございます。フェティルアを、いや、人間領に潜んでいた悪徳な魔術師から我が国を救ってくれた者に礼がしたいと両親が聞かなくて」
「国王陛下からお礼を賜るほどのことはしていませんが、辞退するのも違うかと思いまして。それに、私個人としても国王陛下には一目お目通し願いたいと思っていましたので、お礼をするのは私の方です」
「そうなのですか? てっきり魔女は人間とは関わりたくないのだと……」
「あくまでも、私個人としてです。他の魔女はそうかもしれませんが、私は人間と敵対するつもりはありませんので」
柔和な表情を浮かべながらシリア様が紡いだ言葉に、セイジさん達はどこかほっとした様子を見せました。
しかし、シリア様はそこで言葉を止めず。
「今はまだ、ですけどね」
と付け加えてしまったものですから、安堵の表情が急変して強張ったものへと変わります。
シリア様はそんな彼らの様子を楽しんでいたようで、くすくすと笑いながら「冗談です」と訂正して見せましたが、セイジさん達は本音がどちらか分からなくなってしまったようで、ぎこちない笑みを浮かべていました。




