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6話 魔女様は王家へ向かう

 それから一週間、シリア様は自身の体として私の体を扱うようになり、猫の私はエミリに抱かれていることが多くなっていました。

 会食用のドレスなどもシリア様のセンスで仕立てられ、白と赤で彩られた薔薇のようなそれは、私では着ないような色鮮やかなものになりました。


 シリア様は久しぶりの人の体がやはり嬉しいようで、ドレスを試着した後に「どうじゃ? 似合うであろう?」と何度も私に披露したり、「妾の時代では会食には舞踏会が付き物じゃった」と主張しながらレナさんの手を取ってダンスの練習をしたりしていて。


「シルヴィさん、お料理もできるしダンスもできるなんて凄いわ! ね、エルちゃん!」


「……そうね」


 事情を知らずに嬉しそうにするミーシアさんでしたが、後程正体を明かした際にあり得ないものを見るような顔をしていたのが、とても印象的でした。





 そして遂に迎えてしまった、王家へ招待された日の前日の夕方。

 給仕の女性から迎えが来たとの報せを受けた私達は、正面玄関へと向かいます。


 ネイヴァール家に勤めている方々のお見送りを一斉に受けながら庭を進むと、庭門の前にかなり豪奢な馬車が止まっていて、私達の姿を見るなり深々とお辞儀をする、スーツ姿の女性の姿がありました。


「この度、グランディア王城までご案内を務めさせていただきますライカと申します。道中でのご入用の際には、何なりとお申し付けくださいませ」


「よろしくお願いしますね」


 ミーシアさんは慣れた口調で柔らかく返し、先陣を切って馬車へと向かって行きます。それに合わせるようにライカさんが扉を開くと、ミーシアさんの手を取り、支えとなるように彼女を乗車させます。


 なんだか、シングレイ城下町でコレットさんにやってもらった時に似ていますねと懐かしんでいると、エミリと私を見つけたライカさんが声を上げました。


「女侯爵様、こちらの獣人族の少女もご一緒でしょうか」


「えぇ。何か問題でも?」


「……いえ、失礼いたしました。お手をどうぞ」


 不思議そうな顔を浮かべるエミリの手を取り、馬車の中へと案内された私達へ、シリア様が小声で話しかけてきます。


「どうやら、二千年経ったこの世でも獣人は人族とは同列に扱われておらんようじゃな。エミリは妾の助手として扱うが故、エミリは不要な口出しをせぬように。できるな?」


「うん……」


「やや不快な視線にさらされるやも知れぬが、今日だけの辛抱じゃ。辛かったらシルヴィを抱くがよい」


 シリア様の言葉を受けたエミリは、即座に私をぎゅっと抱きしめます。

 先程、ライカさんからエミリに向けられたあの目。まるで薄汚いものを見るかのような、見下した目でした。あれと同じような視線を王家でも向けられると思うと、エミリは連れて行かない方が良かったのではと思ってしまいます。


 馬車を動かしますと声を掛けられ、小さく揺れながら動き出した車内で各々が談笑を始める中、出だしから少し暗い気持ちになってしまった私達へシリア様が補足説明をくださいます。


「当時のままであれば、貴族という身分の人間は庶民を同じように見下してくるはずじゃ。此度はネイヴァール家の名を借りておるが故に丁重に扱われるが、それでも魔女となるとどう見られるかは分からぬ」


『魔女は魔法が使えるから、街の人からありがたがられていたのでは無いのでしょうか?』


「それは昔の話じゃ。丁度良いし、お主にそろそろ話しておくかの」


 シリア様は変わらずに私達だけに聞こえるような声量で、魔女について語り始めました。


「今でこそ魔導連合が設立されて魔女が増えたが、妾が生きておった頃には魔女という存在はほぼいなかった。それこそ、妾を含めても片手で数えられる程度しかおらん。して、魔法を扱える者は皆“魔法使い”と呼ばれ、妾達とは一線を引いて分類されておった」


『それほど、実力差があったと言うことでしょうか』


「うむ。妾達魔女は、ひとりで国を滅ぼせるほど魔法に長けておった。そしてその力は当然、人と魔族との戦争にも利用された。魔王を討ちに行った妾や、越境を阻むために日がな一日魔族を焼き払う者などな。して、大戦が終わった後に設立した魔導連合に他の魔女を集わせ、妾は協定を結ばせた。余程の事が無い限り、人にこの力を向けてはならぬとな」


『余程のこと……。以前お話しされていた、魔女狩りの件でしょうか』


「あれは最たるものじゃがな。まぁ、強大過ぎる力に人は怯え、魔女であるかそうでは無いかで、まずは判断するようになった。魔女であれば余計な詮索はせず、事を荒立てずに用を済ませよう。魔法使いならば、そんじょそこらの冒険者と変わらずに対応しても良いとな」


「シリアちゃんは、怖がられてたの?」


「妾も魔女故、怖がるものは多かった。じゃが、妾は常に人の力たらんと魔法を振るい続けておったが故に、妾にのみ気を許す者も多かったのも事実じゃ。妾は王族でもあったという点も、その後押しとなっていたのやも知れぬがの」


 こうして遊んでやることも多かったぞ? と付け足したシリア様は、指先でエミリの頭をちょんと突くと、エミリの頭の上に綺麗な花飾りが現れました。それに喜ぶエミリに微笑み、シリア様は私へ言います。


「今の世での魔女の立ち位置は、人とはほぼ無干渉と聞いておる。故に、お主を幽閉した阿保共が不遜な態度を取って来るやも知れぬが、その時は妾に任せるが良い。魔女とは何かを思い知らせてやろう」


 意地悪そうに笑うシリア様を見て、安堵と不安が半々となった私は、ぎこちない笑みを浮かべるしかできませんでした。

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