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1話 暗影の魔女は実家に帰る

新章開幕です!

今回のお話は物語の核心へと迫る内容となり、普段のほのぼのとした展開が薄めになってしまっておりますが、ご容赦いただけますと幸いです!

 窓から差し込む朝日に、私は軽く身を捩ります。そして、腕の中にあるはずの最高の抱き枕と言っても過言ではないエミリを手探りで求めると、エミリでは無いものの、もこもこでありながらさらりとした毛並みの何かを見つけました。


「エミリ……?」


 薄く目を開き、自身の腕の中へと視線を移すと。


『エミリなら先に飯を食べておるぞ』


「ひゃああああ!? し、シリア様!?」


 私に毛並みを滅茶苦茶にされ、そこそこ不機嫌そうに顔をしかめておられるシリア様がいらっしゃいました。

 驚きのあまり布団を跳ね除けながら身を起こすと、シリア様は大きなあくびをした後、ぐぐっと体を伸ばして私へ顔を向けました。


『ようやくお目覚めかの。おはようシルヴィ』


「お、おはよう、ございます……。あれ?」


 はっきりしてきた頭で周囲の状況を確認するも、全く見覚えの無い家具と部屋の内装に困惑してしまいます。

 とても落ち着いた雰囲気の内装なのですが、ところどころに値の張りそうな家具などがあることから、街中の宿という訳では無さそうです。


『ここはエルフォニアの実家じゃよ』


「エルフォニアさんの実家、ですか?」


『うむ。順を追って話すかの』


 シリア様の説明によると、あの大蛇の拘束に成功して街を復興させた後、泥のように眠る私達をどうするかとシリア様とフローリア様、そしてエルフォニアさんとアーデルハイトさんとで話し合った結果。


「これだけ派手に暴れたのだから、王家の目に留まっていないはずがない」


 という結論に至り、呼び出しを受けるなら比較的近場であり、有事には名前も使えるエルフォニアさんの実家――ネイヴァール家に一旦移動する運びとなっていたそうです。

 そして、あの大蛇は神話上の生物から「バジリスク」と名付けられ、私の拘束を受けて魔獣のコアのみとなったそれをアーデルハイトさんが引き取り、魔導連合で厳重に管理することになりました。管理役にヘルガさんが抜擢され、ウィズナビ越しに大ブーイングを受けていたという話には苦笑せざるを得ませんでした。


『とまぁ、ざっとそんな経緯じゃな。ちなみにじゃが、お主は丸一日寝ておったぞ』


「丸一日ですか!?」


『うむ。肉体のダメージもそうじゃが、覚醒後にあんな化物を相手に神力を使ったのじゃ。体に莫大な負担が掛かるのも当然じゃろうて』


 小さく笑いながら事もなげに言うシリア様に、一日寝てしまったという事実に私は愕然としてしまいます。後でエルフォニアさんにしっかりとお礼をしに行きましょう。


 シリア様はベッドから飛び降りると、顔をこちらに向けて言いました。


『ほれ、もう昼食は始まっておる。早う身なりを整えんか』


「あ、はい!」


 急いで寝癖の付いている髪を梳かし、客人用のバスローブから魔女服に着替えようとしたところでシリア様に止められました。


『待てシルヴィ。エルフォニアの妹もお主らが魔女であることは知っておるが、どうもエルフォニアが妹には魔女や魔法という存在に近づいてもらいたくないようでな。この前フローリアに渡された服があるじゃろう、あれに着替えよ』


「分かりました」


 言われるがままに、フローリア様がレナさんの世界から持ち帰ってくださった服に着替えます。こちらの服の方がこちらの世界には無いものなので目立ってしまいそうな気がしまいますが、シリア様がこちらがいいと仰るので問題は無いのでしょう。


 着替えを終え、シリア様の後に続いて移動すると、既に私以外の面々が食卓を囲んでいました。


「あ、シルヴィ! やっと目が覚めたのね」


「おはようお姉ちゃん! 痛いところ無い? 大丈夫?」


「おはようございます。どこも異常は無いので大丈夫ですよ」


 私を見るなり、食事を中断してレナさんとエミリが駆け寄ってきてくれました。安心させようと二人に微笑む私に、エルフォニアさんが声を掛けて来ます。


「おはようシルヴィ。よく眠れたかしら」


「おはようございます、エルフォニアさん。一日も寝てしまっていたみたいですみません」


「別に構わないわ。神力の使用は体に負荷がかかると聞いたから、もう少し寝ているかと思っていたくらいよ」


 そう言うとエルフォニアさんは、視線を私から正面に座っている女性に移します。エルフォニアさんの視線を受けた女性は静かに立ち上がり、私に人当たりの良さそうな笑みを見せてくれました。


「おはようございます、シルヴィさん。私はミーシア。エルフォニアの妹で、現ネイヴァール領の領主を務めています」


 エルフォニアさんと同じく、艶やかな黒の髪を肩で切り揃えている彼女の第一印象は、とても品のある淑女と言った感じです。派手過ぎず、かと言って飾らない訳では無い紺色の服装に、青い薔薇が付いているカチューシャがワンポイントとなっていて、何となく私と歳が近いようにも感じます。


 そっと差し出された手を交わすために歩み寄り、彼女の手を取りながら自己紹介をします。


「おはようございます、ミーシアさん。挨拶もできないまま面倒を見ていただいていたようですみません」


「いえいえ、気にしないでください。エルちゃんの頼みですもの」


 ねっ、と顔を向けられたエルフォニアさんは、我関せずといった態度でお茶を啜っています。ミーシアさんは「つれないんだから」と苦笑し、私に向き直りました。


「お腹は空いていますか? もし食べられそうなら、すぐにお昼を用意させますよ?」


「では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか」


「えぇ、もちろんです」


 ミーシアさんは私の手を離し、近くで控えていた侍女の方に食事の用意をと告げると、侍女の方は一礼を返して部屋を出て行きました。その後姿を見送ったミーシアさんは、私に席に座るようにと勧めてきます。


 引かれた椅子に腰かけると、隣で食事を楽しんでいたフローリア様が私に気づき、フォークでラザニアをひと掬いしながら寄せてきました。


「はいシルヴィちゃん! あ~んっ」


『この阿保。これから同じものを出されるのじゃから、余計なことをせずに黙って食わぬか』


「えぇ~? もぅ、シリアの堅物~」


 ぷーっと膨れながら頬張るフローリア様を微笑ましく見ていた私へ、ミーシアさんが声を掛けて来ました。


「シルヴィさん、起きて早々で申し訳ないのだけど……ひとつ、伺ってもいいかしら?」


「はい、何でしょうか?」


 彼女はエルフォニアさんをちらりと見てから、私へ質問を投げかけます。


「エルちゃんとは、どんな関係なのかしら?」

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