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22話 捨て子の人狼種は家族になる

「お待たせしました。こいつがさっき話していた手すきの子です」


「え、えと、こんばんは魔女様……。お久しぶりです、エミリです……」


 あぁ、思い出しました。村に初めて来た日に、村長さんからお礼の宴を開きたいとの話を連絡してくれた子です。あの日以来姿を見ませんでしたが、狩りではなく内職のお手伝いをしていたようです。


「お? 魔女様と既に顔見知りだったのか?」


「はい。村長から魔女様を宴へお呼びするようお願いされた時に」


「お久しぶりですね。あまり村の中で見かけませんでしたが、元気でしたか?」


「覚えていて、いただけたのですか?」


「ええ。耳と尻尾の形が特徴的だったのでしっかりと覚えていますよ」


 私が微笑むと、何故かエミリさんは表情を曇らせてしまいました。何か気に障ることでも言いましたでしょうか……。

 私達の様子を見かねた獣人の方が、フォローを入れるように彼女の事情について説明を入れてくださいました。


「あー……。魔女様、その、ちょっと言いづらいんですが。魔女様から見ても違いが分かるように、こいつは俺達とは違う種族なんすよ」


「違う種族?」


「はい。俺達は獣人種っていう種族なんですが、こいつはたぶん“人狼種”っていう、また別の種族なんです」


 そう説明されると、俯きがちに小さく頷くエミリさん。同じ村に住んでいるのに、違う種族とはどういうことなのでしょうか。

 よく事情が呑み込めないでいると、隣のシリア様が溜め息を吐きながら納得したように口を開きました。


『なるほどのぅ……。()()()()()()じゃったか』


「シリア様、()()()()()()とは?」


「あぁ、お師匠さんは今ので理解されたんすね」


『まぁ特段珍しい話でもないしのぅ。シルヴィ、代わりに聞いて貰えるか。この話は村の者は全員知っておるのか?』


「ええっと、この話は皆さんご存じなのでしょうか?」


「そうっすね。みんなも知ってるんですが、まぁ()()()()()()でして……」


『やれやれ。どこも似たようなことばかりで嫌になるの』


「あの、シリア様。私まだよくわからな――」


『お主は黙っておれ、後で仔細話そう。して、少し体を借りるぞ』


 よく分かりませんが、この場はシリア様にお任せした方が良さそうです。

 私と交代したシリア様はエミリさんの目線に合わせるように屈みこみ、いつもより優しい声色で話しかけました。


「のぅ、エミリよ。お主、うちで働く気は無いか?」


「魔女様の診療所、ですか?」


「うむ。今はシルヴィしかおらんでな、どうにも手が回らんのじゃ。そこでお主には、細かな雑務を頼みたい」


「でも、わたしは」


「よいよい、皆まで言うな。お主と妾達は似た者同士なのじゃ。お主が感じていることは妾達にも分かる」


「魔女様達も、一緒……?」


「まぁここでは話せぬ内容じゃがな。して、どうじゃ? 部屋も余っておる故、お主さえ良ければ住み込みでも構わぬ。妾達を手伝ってくれぬか?」


 戸惑う表情を浮かべながらシリア様を見つめていたエミリさんですが、やがて許可を求めるように獣人の方を見上げました。

 彼はそれに笑い返し、両肩をぽんと叩きながらエミリさんに言います。


「魔女様達のところで働けるなんて光栄なことだぞー? しかも一緒に住んでもいいってまで言ってくださってるんだ。みんなには俺から伝えておくから、エミリの好きにしたらいいぞ」


「わたし、は……」


 今度は私達へ、伺うような顔を向けるエミリさん。シリア様に体を返していただいた私は、微笑み返してそっと手を差し出します。


「私達の診療所、手伝っていただけませんか? エミリさん」


「……はい!」


 小さな両手が、私の手をぎゅっと握り返します。彼女の表情からは迷いの色が消えていて、嬉しそうな笑顔をしていました。


『さて、今日はもう遅い。シルヴィよ、もう一人はまた次の機会としよう』


「分かりました。エミリさんはどうしますか? 今日からうちに来ます?」


「えっと」


 再びどうしたらよいかとエミリさんに見上げられた獣人の方が、頷いて答えます。


「荷物を軽く纏めたら、今日から魔女様達の下でお世話になるといい。みんなには言っておくよ」


「ありがとう……!」


「ということなので、すいません魔女様。もう少しだけ待っていただけますか」


「分かりました。ではここで待っていますね」


 私達に軽く頭を下げ、二人で一旦家へと向かって行く後ろ姿を見送っていると、シリア様が小さな声で話し始めました。


『先の件じゃがな。恐らくエミリはこの村に捨てられた子どもじゃ』


「そうなのですか!?」


『阿呆、声が大きいわ! ……話を続けるが、村の者の中でもやはりエミリを良く思っていない奴がいるらしい。他種族故か狩りができぬ故かは分からぬが、疎まれているのは確かなようじゃ。

 それに、エミリのあの怯え方はどこかおかしい。あんな幼子が他人の顔色を窺いながら怯えて過ごす、というのも見ていて気持ちのいいものではない』


「エミリさん、もしかして虐められているのでしょうか」


『分からぬ。じゃが、そんな環境下よりかは妾達の下に置いておいた方がエミリのためじゃろう。先の話で妾とあ奴で煙に巻いていた部分はそう言うことじゃよ。故に妾は何も聞かず引き取ることにした、という訳じゃ』


「そうだったのですね……。すみません、全く分かりませんでした」


『まぁお主は人の善も悪も感じられぬ場所におったからな、こうした内情には疎かろうよ。気にせんでもよい。じゃが、この話は決してエミリの前ではしてはならぬ。そして、エミリを変に気遣うな。普通に接してやるのがあ奴のためじゃ』


「分かりました」


 シリア様からの忠告を受け終えると同時に、荷物をまとめ終えたエミリさん達が戻ってきました。エミリさんの荷物は、背中のリュックサックのみです。


『これこれ、お主の荷物は全て持ち出せと言ったはずじゃろう』


「あの、エミリさん。荷物は遠慮しなくてよかったのですよ?」


「い、いえ。わたしはこれで全部なので……」


『ふむ……まぁよかろ。では帰るとするかの』


 シリア様は踵を返し、家へと続く道を先に進み始めます。私もその後に続こうとしましたが、エミリさんが立ち止まっていることに気が付きました。

 リュックサックの肩掛けを、きゅっと握りしめているその表情は何かを考えているようにも見えます。


 私が何も言わずに見守っていると、何かを決心したようで、獣人の方に振り返って声を上げました。


「い、今まで……ありがとう!」


 突然のお礼に獣人の方は面食らっていましたが、くしゃりと顔を歪ませて笑うと手を振りながら「おう! 頑張れよ!」と返していました。

 そしてエミリさんはパタパタと私の隣まで駆け寄り、改めて丁寧な挨拶をくれました。


「エミリです、十歳です。たぶん人狼種です。魔女様のお手伝いができるよう、精一杯頑張ります。よろしくお願いします」


「はい。これからよろしくお願いしますね、エミリさん」


 握手を求め、握り返された小さな手をそのまま繋ぎながら帰路につきます。

 少し先で私とエミリさんを待っていたシリア様が笑いながら駆け寄ってきて、エミリさんの肩に飛び乗りました。


『くふふっ、まるで姉妹が増えたようじゃな。ならば髪色もエミリに合わせるかの』


「髪色を変えるって、そんな簡単にできるものなのですか?」


『うむ。例えばこんな感じに、の』


 シリア様はくるりと私に向けて前足を振ります。すると私の銀色の髪が、毛先から徐々に薄紫色に変色していくではありませんか!


「な、ななな何で私で試すのですか!?」


『くっはははは! なんじゃお主、その色もなかなか似合っておるではないか! それに妾の体でやってもエミリには見えぬであろう?』


「あとで戻していただけるんですよね!? 大丈夫ですよねシリア様!?」


『それがなー、この魔法の難点での。色は変えられるが元の色には戻せぬのじゃよ』


 そんな……。私、自分の髪の色が結構気に入っていたのでかなりショックです……。


「魔女様とお揃いだぁ……! あっ、すみません……」


「いえいえ、謝ることはありませんよエミリさん。色が戻らないとはいえ、シリア様がエミリさんを喜ばせようとしたことですから……」


『そこまで落ち込むことなかろう、冗談に決まっておろうに。後で戻してやる故、家までそのままで楽しむがよい』


「よかったぁ…………!」


 心底安堵していると、私達のやり取りが面白かったのかエミリさんが笑い出しました。それにつられて、私達も思わず笑ってしまいます。

 シリア様のイタズラは後で文句を言いたいところですが、こうしていると本当に姉妹――いえ、家族が増えたようで、なんだか嬉しい気持ちになりました。

予定している第一章完結まであと二話です。

今日中に残りの二話も投稿する予定に変更しました!


21時半頃、22時半頃で更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 家族が増えたー( ‘ 0 ‘)ノ しかし、人の良さそうなあのマッスル獣たちの中でイジメられていたとは…うーん(;´Д`)
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