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41話 ご先祖様は復元する 【レナ視点】

 くたくたなあたし達の横をシルヴィが通り過ぎ、どこかに行こうとしているのを見つけた。


「どこ行くのシルヴィ?」


「何、後始末という奴じゃよ」


 いつの間にかシリアと入れ替わっていたみたいだった。

 シリアはぐだっているフローリアの腕をむんずと掴み、ずるずると引っ張っていく。


「ちょっとシリア~、私もう無理よ~」


「阿保。妾は貴様に大蛇の注意を惹けとしか言っておらんかったのに、貴様が大暴れしたのは貴様の勝手じゃろう。ほれ、早う立たんか」


「最後は攻撃してこいって言ったくせにぃ~」


「グダグダ抜かすでないわ。貴様の権能と妾の力を合わせなくては、この惨状を復旧させることが叶わんじゃろう」


「もぅ~、人使い荒すぎよぉ!」


 ぶーぶーと文句を言いながらもフローリアは立ち上がり、シリアの横に立ち並ぶ。

 確かフローリアの権能って、時を司る物よね。まさか街の時間を遡らせるのかしら。あーでも、そうすると町全体に効果が出るから、せっかく倒したアイツも復活しちゃうのかな。


 ちょっとした期待を持ちながら体を起こして見守ると、シリアはいつもシルヴィが使っている杖を宙に浮かせ、自分もふわりと浮かび上がっていく。それと一緒にフローリアも浮かび上がり、二人は一緒に詠唱を始めた。


「災禍に襲われ、苦境に喘ぐ人の子に、女神の祝福を」


「明日を生きる人の子の営みに、女神の祝福を」


「未来を紡ぐは神の手ならず、人の手也」


「神から与えるは、人の子を育む安寧也」


()は魔を統べる神。魔を以て人の子を導き、絶望に立ち向かう人の子らに知恵と力を授けん」


()は時を統べる神。不運の運命(さだめ)に落ちた人の子らを、正しき運命(さだめ)へ戻さん」


「「権能、解放――。舞い戻れ、健やか(フェルシディア)なる日々よ(・オヴニール)」」


 静かに紡がれた神々の詠唱は、優しい光の波紋となって街全体へと広がっていった。光の波紋が通り過ぎた場所から、瓦礫がひとりでに建物の形へと巻き戻っていき、破壊された街路樹や畑は新たに同じものが育っていく。


 あたし達がいる屋根も綺麗に修復され、みるみる内に復元されていく街を見ながら、あたしは感嘆の声を零した。


「神様、すっご……」


 別に今までのフローリアがポンコツだったからとか、偉そうにしながら時々変なことをしでかすシリアを見てたからとかで、神様を見下げてたって訳じゃないけど、こうして神としての力を目の当たりにすると、やっぱり別次元の存在なんだなって思わされる。


 修復しながら二人で何かを話している後ろ姿を見ていたあたしに、エルフォニアが声を掛けてきた。


「普段、あなたがどれだけおかしな環境で魔女として育てられているか、よく分かったんじゃないかしら」


「ホント、返す言葉も無いわ。こんなに凄い神様達の下で教鞭を振ってもらえるなんて、あたしってばかなり恵まれてるわね」


「全くだ。それに、生前のシリア先生は滅多に弟子を取らないお方だった。私を含めても、四人いたかいなかったかくらいだ」


「え、そんなに少ないの!?」


 総長さんの言葉に驚くあたしへ、総長さんは頷きながら答える。


「あぁ。もちろん始祖の魔導士であり、類稀なる才能を持つシリア先生に教授を仰ぐ者は多かったが、その中でも選りすぐりの魔女見習いを選んで弟子にしておられた。残りの者にも可能な限り教えようとして設立されたのが、魔導連合の始まりだ」


「へぇー……。なんか聞いてた感じだと、シリアの友達が集まって設立したとかそんな感じだったけど、そういう成り立ちだったのね」


「その話も一理あるがな。だが、それは魔導士を志す者が増えてきてから、シリア先生に好意を寄せる者も集まって来たのだ。……だが、その中にシリア先生を良く思わない者が紛れていてな」


「それが魔術師側の始祖、ってことかしら」


「そうだ。その者に魔法のなんたるかを教えてしまったが故に、離反したその者が組織した魔術師集団に、反魔法の魔術刻印を生み出させてしまうきっかけともなった。そこから今のようにかなり厳しい性格になられてしまったが、シリア先生はそのことをずっと悔やんでおられたよ」


 シリアの後ろ姿を見ながら、あたしが知る由もない当時の様子を思い浮かべる。

 きっとシリアの事だから、自分と同じように魔法で多くの人を助けてあげて欲しいと思って、魔導士育成に力を入れていたんだと思う。それなのに、その力を利用されて裏切られたとか、悔やみに悔やみきれないまま神様になったんでしょうね。


 あたし達に見せたことの無いシリアの一面を知り、勇者の仲間だったとか始祖の魔導士だとか華々しい人生だと受け取れる裏側で、人知れず流した涙も多かったんだろうなと思うと、なんだかシリアが少しだけ近くに感じられた。人間らしい、って言えばいいのかな。


 ふと振り返ると、勇者達は肩を寄せ合って川の字でぐっすりと眠っているし、エミリはシルヴィを抱いて丸まってる。そんな二人を風邪をひかないようにと、メイナードが寄り添ってあげているのがなんだか微笑ましかった。


 あたしと一緒にその様子を見ていた総長さんは立ち上がると、あたしとエルフォニアに向けて言った。


「私はアレの回収をしてくる。お前達は少しでも休んでおくと良い」


「そうさせてもらうわー。もう一歩も動けないっていうか、動きたくない……」


 脱力して体を大の字に投げ出すと、さらに疲労が襲い掛かってきた。いよいよ限界を迎えている体は、今すぐにでも寝させろと訴えてくる。

 あたしは重くなっていた瞼を閉じ、詰所で戦った時の事を思い出そうと、夢の中で振り返ることにした。

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