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39話 魔女様は街を護る(中編)

『……ほぅ』


 シリア様がどこか感心したような声を漏らし、頭を小さく振ります。

 そして、助けに向かってきているフローリア様達へ言いました。


『こっちはこ奴らで対処する! お主らは攻撃を続けよ!!』


「えっ、でも」


『早う戻らんか! お主らの手が緩めばその分、シルヴィの負担が増えるぞ!!』


「わ、分かったわ!」


『仰せのままに』


 フローリア様達を追い返したシリア様は、私の肩から飛び降りてセイジさん達の元へと向かって行きます。


『セイジよ』


「な、何ですか!?」


『貴様の覚悟、しかと見届けた。真なる勇者の器たる可能性を持つ貴様に、魔の女神たる妾から神の祝福をくれてやろう』


「祝福?」


 シリア様は小声で何かを詠唱し、自身を中心に魔法陣を展開させます。そして詠唱が完了したと同時に、足元をポンポンといつものように叩き。


『大サービスじゃ。受け取るが良い!』


「うわっ!!」


 魔法陣から放たれた光の玉がセイジさんに触れると、彼の体を眩く包みました。

 やがて光が収まったかと思うと、彼の姿は見違えるほどに代わっていました。


「な、なんだこれ……! すげー力が溢れてくる!!」


 彼が身に纏っていた装備は、ところどころ強力な魔力の籠められた軽鎧がついた物になり、砕ける寸前であった聖剣は、ヒビひとつ無い神々しい剣へと変貌しています。


『かつて、妾が勇者と共にしていた頃の勇者の装備を模した物じゃ。レプリカではあるが、その実力は一段下程度の代物じゃよ。流石に聖剣は作れぬが故、当時壊された聖剣を妾の神力で復元させた物じゃがな!』


 折れた剣を回収しておいて良かったのぅと笑うシリア様に、私は呆然としてしまいます。以前、『創造魔法は妾の得意分野』と仰っていたのは聞いていましたが、まさか伝説上の装備まで再現してしまうとは……。


『何を呆けておる。よもや、妾が伝説上の装備を作れるとは思っていなかったと考えておるのではあるまいな』


 図星過ぎて何も言うことができません。


『はぁ……。そもそも、お主のその魔女服も妾が着ておった物とほぼ同じぞ? 今更じゃろう』


「言われてみれば、確かにそうでした」


 私にこの服をくださった時も、『妾のお下がりじゃ』と仰っていましたし、ある意味これも伝説上の装備のレプリカなのでした。

 この装備にいつも助けてもらっていることも含め、シリア様に改めて感謝を送りながら拘束の力を強めます。さらに力を強められた大蛇は、苦しそうにもがきながらもセイジさん達へ放っている光線を止めることはしません。


「ぐっ、でもめっちゃ痛ぇ……! 耐えろ、耐えろ俺ぇ!! 」


「頑張りなさい! あんたがやられたら、私達じゃ防げないのよ!?」


「セイジ、根性で耐えて!」


「無茶苦茶言うなお前ら!?」


「セイジくん! 私も頑張って支援するから耐えて!」


「分かってる! うおおおおおおおおおおお!!」


 剣に彼らの想いが乗り、光線に抗う力がさらに増します。

 遠くではフローリア様が踊るように巨体に雷撃を落とし続けていて、その少し横ではアーデルハイトさんも業火の虎を繰り出し続け、エルフォニアさんも影の剣で大蛇を幾度も突き刺し切り刻んでいるようです。


 このまま行けば何とか……と考えていた矢先、光線が有効打ではないと判断した大蛇は、今度は横薙ぎに尻尾を振り、私達ごと吹き飛ばそうとしてきました!


『いかん! セイジ、あれを食い止めよ!!』


「こ、これはやべぇって!!」


「サーヤ、結界を!」


「間に合わないよ~!!」


「来る……!」


 慌てて結界を展開しながら食い止めようと構えますが、大蛇の攻撃にサーヤさんの結界が間に合いそうにありません。


『イチかバチか、やるしかあるまい!!』


 シリア様は私達の前へ身を躍らせ、前足で屋根を二度叩きます。それに呼応するように屋根と地面が勢いよくせり上がり、私達を庇う重厚な土の壁となりました。


 大蛇の尻尾が激しく叩きつけられた壁は一瞬だけ食い止めることに成功しましたが、直後にバキバキと音を立てながらヒビが入ってしまっています。


『ぐっ……! これ以上は、持たん!! 皆の者、下へ飛び降りよ!!』


 苦しそうに指示を飛ばすシリア様に、私達は屋根から逃げ出します。そんな私達と入れ替わるように、小さな影が私の頭上を通り過ぎ。


「うおりゃああああああああああ!!!」


『レナか! 最高のタイミングじゃ!!』


 目を覚ましたレナさんは放たれた弓矢のごとく、凄まじい速度で壁を砕きながら大蛇の尻尾を殴りつけました。相反する双方向の力の衝突によって大蛇の攻撃が止まりましたが、妨害してきたレナさんを叩き潰そうと上から叩きつけられます。


「あぐっ!!」


「レナさん!!」


『レナ!!』


「だ、大丈夫! あたしがこのまま耐えるから、シルヴィはそれ続けて!!」


 地面と尻尾の間で踏ん張るレナさんに頷き、拘束に意識を再度集中させます。


「俺達もいくぞ!!」


「ええ!」


「うん!」


「サポートは任せて!」


 セイジさん達もここぞと突撃し、大蛇へ攻撃を仕掛け始めました。

 全方向から襲い掛かる攻撃に身をよじりながらも、未だ拘束に抗おうとする大蛇からの力に、額から汗が流れます。それを再び肩に飛び乗ったシリア様が小さな前足で拭ってくださり、優しく応援してくださいました。


『あと一息じゃ。お主ならできる、負けるでないぞシルヴィ』


「……はい!」


 シリア様の応援に、さらに身が引き締まりました。

 これ以上、魔術師の方々のせいで街を破壊させないためにも、私が終わらせなくてはなりません。


 すぅっと大きく息を吸い込み、神力を発動させます。

 私は、あの空間の中で大神様と約束したのです。この力は、私の家族と私に関わってくれた人の幸せを護るために使うと!!

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