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21話 魔女様は人手が欲しい

森の魔女として本格的に活動を開始することになったシルヴィ。

しかし、彼女が危惧していた懸念点は日に日に彼女を追い詰めていき……。


今日も2話投稿予定ですので、続きは夜をお楽しみに!

「いやぁー、いつもすいません魔女様! これ、今日のお代で受け取ってください!」


「あはは……ありがとうございます。またいつでもどうぞ」


 獣人の方から治療のお代にと、今日の狩りで獲ったと思われる兎のお肉を受け取り、表まで見送ります。

 今の方で今日は最後の患者さんですので、ようやく一日が終わりです。


「はぁ…………」


『今日も今日とて盛況じゃのぅ。ほれ、くいっと行くのじゃ』


「シリア様……。ありがとうございます、いただきます」


 シリア様からお手製の栄養ドリンクをいただき、小瓶のそれをぐいっと飲み干します。魔女の診療所が完成してからというもの、ここ数日ずっと患者さんの数が増え続けているせいで、全く休む暇がありません。

 そんな私を見かねてシリア様がこの栄養ドリンクを作ってくださったのですが、これが凄く体に良く効くものでして、溜まりに溜まっていた疲労感が一気に抜けるような感覚になります。実際、疲労回復を重視した特別な配合のようで、あまりこれに頼りすぎるなと釘を刺されてはいますが、これが無いととても乗り切ることはできません……。


『お主、無理をしすぎではないか? 顔色があまり良くなくなってきておるぞ』


「そう、でしょうか?」


『うむ。皆に頼られ張り切るのも悪くはないが、些か抱え込みすぎじゃ。何を困っておる? 言うてみよ』


 シリア様に指摘され、私は少しだけ相談してみることにしました。


「シリア様、少しご相談させていただいてもよろしいでしょうか」


『何を今更畏まっておる。何でも申すがよい』


「正直に言いますと……。シリア様の仰る通り、今の診療所の状態はちょっと無理がある気がしています。受付、診療、そしてお代の受け取りとそれの保管。全部一人でこなそうとすると、どこかで抜けが起きたり、患者さんを待たせてしまったりしているので、あまり良くない状態だと思うのです」


『ふむ……。ったく、お主はほんに真面目というかあれじゃな。人を頼るということを知らなさすぎる。それに加え、人前では問題ないかのように振舞うが故に、周囲もお主が困っていることに気づけぬ。不器用にもほどがあるぞ?』


「仰る通りです……。その、私を頼って皆さんがいらしているのに、その私が弱っているところを見せてはいけないと思ってしまって」


『それがダメなのじゃ。お主のみで荷が重い時は人を頼れ。何か悩んでおるならば相談せよ。何でもお主の力のみでこなそうとすると、いずれ潰れるぞ? ――と言っても、お主はこれまで頼るべき者がおらぬ人生じゃったからな。あまり強くは言わんよ』


 そこで一旦言葉を切ると、シリア様は空中に輝く文字を描きながら続けました。


『さて、ならば問題を抜き出していくとするかの。まずお主が一番困っておるのは、人手不足じゃな。診療はお主にしかできぬが、受付ならば誰でもできよう。して、診療の代金の受け取りもまぁ誰でもこなせよう』


『・受付 猫でもいい』

『・会計 猫でもいいが少し難しい』


 ――猫基準なのが少し可愛らしいですが、真面目に考えて頂けているので何も言いません。


『他は何が必要じゃ』


「ええっと、すぐ思い浮かぶのはそのくらいでしょうか」


『あい分かった。であれば、村にでも人材を募りに行くとするかの。ほれ、体を貸すのじゃ』


 そう言うとシリア様は私と入れ替わり、箒を取り出すとそのまま玄関を出て行ってしまいます。私は慌てて猫の姿で後を追いかけ、シリア様に抱き上げて頂きます。


「診療所の運営が落ち着いたら、お主も一人で飛ぶ練習じゃな」


『う、分かりました……』


「くふふ、何も恐れんでよい。手取り足取り教えてやろうぞ!」


 できれば飛びたくないのですが、と言おうとした言葉は、急上昇し速度を上げられた途端に悲鳴へ変わりました。





「あ、魔女様こんばんは! ってあれ、魔女様なんか顔色悪いっすけど大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です……。ちょっと色々あって……」


「そうっすか? まぁ無理しないでくださいよ」


 いつもより早い速度で移動したため、恐怖で顔を歪めていると心配されてしまいました。さすがに村の方の前で「空を飛ぶのが怖かったのです」なんて言えないので、早く立ち直らなくては……。


「ありがとう、ございます……。えっと、ちょっとお願いしたいことがあるのですが大丈夫ですか?」


「魔女様からのお願いだなんて珍しい! なんでもどうぞ!」


「あの、診療所のお手伝いをしてくださる方がいたらお願いできないかと思っていまして。村の中で、手の空いている方はいらっしゃいませんか?」


「それならぜひ俺が! って言いたいところですが、狩りに出たり内職する連中から選抜するのはなぁ……」


 確かに、日々の食料を確保する狩りは大事ですし、ハイエルフと取引をするためにも内職で物作りするのも欠かせません。

 彼らには彼らの生活がありますし、やはり難しいお願いでしょうと諦めようとしたところ、獣人の方が思い出したように声を上げました。


「あぁ、そう言えば一人いますね! 狩りが出来なくて内職の手伝いをしてるのが!」


「本当ですか! ぜひお願いしたいのですが、診療所にお手伝いとして来ていただくことはできますか?」


「今呼んできますよ、ちょっと待っててください!」


 そう言い残して村の小さな建物の中へと向かって行き、しばらくして小柄な女の子を連れて私達の元へと戻ってきました。


 癖っ毛の薄紫色の髪に、他の獣人の方々とは異なる、人の体に動物の耳と尻尾が生えている女の子です。あの子、どこかで見覚えがあるような……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫基準……実に、ほほえま。
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