21話 魔女様は聞き込みをする
「こんにちは……。いつもポーションを売ってくださってありがとうございます」
私が挨拶をすると、店主の男性はしばらく固まり。
「ははは! いやいやお嬢ちゃん、冗談はよくねぇって! どう見てもプリーストの女の子じゃないか!」
と、上手く変装できていることを褒めてくださいました。
私が愛想笑いをしていると、シリア様が私の足を尻尾で叩きながら指示を飛ばしてきました。
『この場でポーションを作ってみせる方が早かろう。一本作ってやれ』
「分かりました。すみません店主さん、空きのポーションの瓶とお水をいただけますでしょうか」
「空き瓶と水? 何に使うか知らないが、構わないぞ。ちょっと待ってな」
店主さんは裏手へ向かい、適当な瓶に水を入れて戻ってきました。彼からそれを受け取った私は、机の上にそれを置いて早速ポーションを作成します。
「なんだなんだ? 何を見せて――」
途中まで茶化すように笑っていた店主さんでしたが、私の魔力が溶け込み徐々に変色していく水を見て声を失っていました。それから間もなくポーションが完成し、栓を外して軽く匂いを嗅ぎ、いつもと変わらないものと判断した私はそれを手渡します。
「今のが、私がいつも作っている製造方法です。飲んで確かめて頂ければと」
「お、おう……」
店主さんは恐る恐る口に流し込み、訝しむような表情を一変させて驚愕の色に染めました。
「ま、間違いない……! こいつはいつもの森の魔女様のポーションだ!!」
ようやく確信を得た店主さんに、私は改めて自己紹介をします。
「改めまして、初めまして。森の魔女こと、シルヴィといいます。いつもお世話になっています」
「す、すみませんでした!! 森の魔女様がこんなにもお若いと思わず失礼を!!」
勢いよく地面に平伏する店主さんへ、慌てて顔を上げてもらうように言い、本題について切り出します。
「ええと、昨日このような紙が街に貼られていたとのお話をディアナさんに伺ったのですが、何か知っていることがあれば教えていただけないかと思いまして」
「あぁ、これですか。これは私達もどういうことか分からなくて、昨日の朝、いきなり街中に貼られてたんです。魔女様が街を滅ぼしただなんて噂、私達フェティルアの人間は誰一人として信じてはいないんですが、憲兵の前で庇おうとすると詰所に連れてかれてしまうんです」
「詰所に連れてかれるって、その後はどうなっちゃうの?」
「なんでも、人間に害を成す魔女を庇うとは国家反逆罪だとか言われて、そのまま投獄されるらしいんです。この前も冒険者の女の子達が街で魔女がどうとかって調べ物をしてるところを、憲兵に連れていかれてまして」
「その子達って、もしかして私と同い年くらいの子ではありませんでしたか? 魔法使いの子と、少し派手な僧侶の子と、シーフのネコ耳の女の子ではありませんでしたか?」
「私が見た訳では無いので何とも言えませんが、酒場で聞いた限りでは魔女っぽい見た目をしてた女の子が連れていかれて、それと一緒にいた子も連れていかれてたという内容でした。お力になれずすみません」
「いえいえ! その情報を頂けただけでもありがたいです。助かります」
シリア様に振り返り、他に聞くことが無いかと目配せすると、詰所の場所と領主の家の場所を教えてもらうように告げられました。
それをそのまま店主さんへお願いすると、彼は店の奥から街の地図を持ってきてくださり、詰所と領主の家がある場所を赤丸でマークしてくださいました。
「詰所は少し北東に進んだところにあるんですが、領主様の家は南西に位置しています。歩いて向かうには少し遠い距離ですね。良かったらこれ、持って行ってください」
「ありがとうございます」
彼から地図を受け取り礼を述べると、店主さんは頬を掻きながら何かを言うか躊躇っているようにも見えました。
「店主さん?」
「あ、すみません。その、もし魔女様さえ良ければなのですが、ひとつお願いと言うか依頼と言うか、頼みたいことがありまして……」
首を傾げる私へ、店主さんは言葉を続けます。
「先ほどもご覧になったかと思いますが、魔女様から卸していただいているポーションは毎日売れ残りが無いくらいに大人気でして、卸売りをさせていただいている私としても大変助かっています。それでその、実際にポーションを一本一本手間暇かけて作られているところを見た上で、こうしたお願いをしていいものか分からないのですが」
彼は私へ深く頭を下げ、頼みたい内容というものを告げました。
「もし可能であれば、もう少し本数を増やしていただけないでしょうか! 毎日危険と隣り合わせで死にかける冒険者を、少しでも減らしてやりたいんです!」
その願いはとても真剣で、店主さんを通して様々な冒険者がこの店を訪れる光景を思い浮かべさせられました。
昨日まで笑ってポーションを買い求めに来ていた冒険者が、翌日には大怪我を負って満身創痍でこの店を訪れる姿。
自力で買いに来られない人に代わって、命を繋ごうと列に並ぶ姿。
まだ見ぬ土地へ足を踏み入れる前準備として、仲間と話し合いながら買いに来る姿。
ディアナさんに頼まれて隙間を見つけてやっていたことでしたが、先ほどのように実際に買い求めに来ていた人を見ると、彼らにとってはあのポーションが一本あるか無いかで、命が大きく左右されるのだと思い知らされてしまいます。
そんな彼らを毎日傍で見送っている店主さんから見たら、必要な人へ行き届かないのが心苦しいのでしょう。
「分かりました。可能な限り時間を作って、ポーションの数を増やして卸します」
「本当ですか!? ありがとうございます……!!」
くしゃりと顔を歪ませて嬉しそうにする店主さんに握手を求められ、私は微笑んで握り返しました。




