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15話 勇者一行は情報を共有する

 食事を終え、お腹も膨れて満足そうな彼らを二階へ引き連れ、食後のお茶を出します。


「はぁ~……。とっても美味しいです、ありがとうございます。シルヴィさん」


「いえいえ。人間領のお茶とは異なるので舌に合わないかと心配でしたが、大丈夫そうで良かったです」


「このお茶、苦みが少なくて爽やかな味なのでとても飲みやすいです」


「森のハイエルフの皆さんが育ててくださっているのですよ」


「そうなんですか!? 凄いなぁ……」


 修道女にしては少し華美なドレス姿の女性――サーヤさんと意気投合した私がお茶話に華を咲かせている隣で、シリア様が本題について勇者のセイジさんに切り出します。


『して、街で情報は得られたか?』


「はい。その件なんですが、俺達の方で出来る限り調べた結果がこれです」


『ふむ……』


 差し出されたメモ書きに一通り目を通し、シリア様が感想を零します。


『やはり、依頼主は不明か。巧妙に隠されているようじゃな』


「ごめんなさい。でも、ひとつだけ分かったことがあるの」


 魔法使いの女性――メノウさんが、やや声を潜めました。


「この件、街の領主が絡んでいるみたいなの。私達が調べていた時に領主に呼び出されて、余計な詮索をする暇があれば魔女を討伐してこいと言われたわ」


『領主、か。レヒティンの領主とやらはどんな人物なのじゃ?』


「あまり大きな声では言えないんだけど、いつも黒い噂が付いて回っている人よ。脱税をしているとか、奴隷商と繋がっているとか、機嫌を損ねた人が帰ってこないとか……」


『それは問題じゃろう。何故行政が動かぬ?』


「それが、証拠が出てこないらしいの。何回か家宅捜索が行われたり、噓探知の魔法を掛けて聴取は行っていたそうだけど、証拠となるような発言や帳簿が見つからずに不問になっていて」


『ふーむ……。それだけ黒い噂がありながらも嘘探知に掛からず、証拠は消される。か』


 腕を組んで考えこむシリア様に、横で聞いていたメイナードが尋ねます。


『シリア様。先日魔導連合の方でお調べになられていた内容と、関連性はあるものですか?』


『そうじゃなぁ……。まだ確証は持てぬが、魔導連合で把握しておった動きと合致する部分は無くは無い』


「あぁ、そう言えばシリアが調べてたそれって何なの? 総長さん達と籠りっきりで調べてたらしいけど」


『うむ、魔導連合は所謂魔女が加盟する大御所なのじゃが、それに対を成す組織があっての。その名を<魔術結社>と言うらしい』


「魔術結社ぁ? 何か名前だけ聞くと、いかにも悪役がいそうな組織ね」


 怪訝な声を上げるレナさんに、フローリア様が補足で説明を入れます。


「魔術結社って言うのはね~レナちゃん。魔法が使えない人が、それに対抗するために生み出した錬金術の応用――魔術を使う人達が加盟している組織なの」


「魔法と魔術って何が違うの?」


『魔法とは、己の体内にある魔力であったり、自然界にある魔素を用いて実行するイメージの具現化じゃ。具現化に伴い消費する魔力が多く、強固なイメージを持っていれば相応の強大な魔法を行使することができる。まぁ、適性が無ければどれだけイメージがあってもただの絵空事にしかならんがの』


 昔、塔の中で読んだ文献の中にも同じような記述があった気がします。そのため、日々自身の願いを具体的に思い浮かべるように修練を積むようにと、初歩魔法の魔導書にも書かれていました。


『して、これに相成す力が“魔術”と呼ばれるものじゃ。魔術とは、魔法適性が無い人間であったとしても、魔法に限りなく近い効力を発する奇跡の技と言われておる』


「じゃあ、厳密には違うけどだいたい同じってこと?」


『まぁその認識でもよかろ。魔術は組み上げられた式の上でしか術が発動しない、論理的な力じゃ。魔法にも基礎こそあるものの、それを己の好きなように応用し極めて行ける魔法とは異なり、既定の式を組み合わせることでしか力が出せぬのが大きな違いじゃな』


「レナちゃん達にも分かるように説明すると、カレーを作ってくださいっていう注文に対して、自分の好きな素材と好きな調味料で味付けして作るのが魔法で、レシピに書かれている通りにきっちり作るのが魔術ってところね!」


「あ、それすっごい分かりやすいわ」


 フローリア様の説明で理解を得たようですが、“カレー”が分からない私としては何とも言えない説明でした。


『じゃから、仮に魔術で探知無効の術を使っていたならば、違う力である魔法ではそれを見破ることは敵わぬ。魔術は魔法を敵視して生み出された術であるが故に、対魔法に関してはぐんと長けておる』


「へぇー、シルヴィ知ってた?」


「いえ、魔法の件は知っていましたが、魔術という言葉は初めて知りました」


「じゃあ、魔法の方が認知度は高いのね」


『うむ。魔術師という存在は、魔法を扱う事の出来ぬ者達が長年かけて編み出したそれを、代々ひっそりと継承させておるのが一般的じゃ。表舞台に出てくることはあまり無い』


「だからこそ、もしかしたらその領主さんが魔術師と繋がってるんじゃないの~? っていうのがシリアの見解ってことね!」


「え、なんか今日のフローリアどうしたの? めちゃめちゃ話が分かるっていうか、しっかりしてるって言うか」


「えぇ~! たまにはいいじゃない! シルヴィちゃんもそんな顔で見るなんてひどぉい!」


 プリプリと可愛く怒ってみせるフローリア様ですが、流石に私もレナさん同様に驚きを隠すことができません。いつもはエミリの相手をしながら話半分で聞いていた印象が強いので、こうして纏めてくださることは有難いのですが、どうにも違和感を感じてしまいます。


『くふふ! 貴様が普段、どれだけ当てにされてないかよ~く分かったな!』


「もっと頼ってよぉ! レナちゃぁん!!」


「あーもう! 勇者達が来てるんだからくっ付かないでよ!」


「そんなこと言って、人前だからって言うのが恥ずかしいのね!? もぅ、可愛いんだからぁレナちゃん!」


「違うわよ馬鹿! シールヴィー!!」


「あはは……。フローリア様、今はお客様も見えてますので、夜のお楽しみにしてください」


「あ、そうね! そうするわ!」


「あたし良くないんだけど!?」


「な、なんか俺達、すげぇ邪魔そうだな……」


「そうね……」


『貴様らは気にせんでよい。こ奴らはこれが日常じゃ』


「変なこと言わないでよシリア!!」


「えぇ~? いつものことでしょレナちゃん!」


「だああああああ! もう! 話が進まないから黙ってて! はいこれ!」


「むぐぅ!? ん~~! 美味しい!」


 遂にレナさんは我慢の限界に到達し、自分のお菓子をフローリア様の口に詰めるという暴挙に出ました。

 ぜぇぜぇと荒い息を吐くレナさんを見ながら、シリア様は溜息を吐き。


『こ奴らは客人の前で静かに出来んのか……』


 と愚痴を零していました。

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