19話 魔女様は自宅を手に入れる(前編)
ついにシルヴィ達のマイハウスが完成します!
診療所兼自宅となる新しい家はどのような出来上がりなのでしょうか・・・。
今日も前後半でお届けします!続きは夜に投稿予定です!
村ではすっかりシリア様も馴染んでいて、時折子ども達と一緒になって遊んであげたり、好評だったお酒造りに精を出したりと、毎日楽しんでいらっしゃいます。
私もいつも通り治療を引き受け、それぞれの過ごし方で日々を送っていると、気が付けば筋肉獣人の方々に家の建設をお願いしてから、二週間が経過しました。
そんなある朝。朝食を終えて部屋で準備していた私達へ、扉越しに声が掛けられました。
「魔女様! お待たせしました、魔女様の家が出来上がりましたよ!!」
『ほぉ! ようやく出来上がったか!』
シリア様に促されて扉を開けると、何故かポージングをして満面の笑みで筋肉を見せつけられました。どうやら、そのポーズのまま私達に声を掛けて待機していたようです。
「……。本当にご自身の筋肉がお好きなのですね」
「はい! 狩猟民族である俺達にとっては、体が最大の武器であり自慢ですからね!」
『そうかそうか、今日も立派な筋肉じゃな! どれ、ちょっとだけ借りるぞシルヴィ』
「えっ、今ですか!?」
言うや否や即座に入れ替わりを求められ、半実体になった私が何をするのかと様子を見ていたところ――。
「今日も良い筋肉じゃ! むんっ」
「魔女さマッチョいただきました!!」
「「ナイスマッチョ!!」」
『シリア様、悪ノリしないでください! お話が進みませんのでもう返してください』
「なんじゃ、冗談の通じぬやつじゃな……」
「……それで、お話を戻してもいいでしょうか?」
「くぅーっ、魔女様の塩対応が筋肉にしみる!」
どうしてこうも、この人達はいつも筋肉を見せびらかしてくるのでしょうか。確かに立派な筋肉だとは思いますが、シリア様のように筋肉への造詣が深くはない私にとっては、少し理解しづらい点です。
それよりも、家が完成したことの方が私としては重要な情報です。
「お楽しみのところ申し訳ないのですが、家を見に行っても大丈夫ですか?」
「ぜひぜひ! そのために魔女様達を呼びに来たんすから!」
「早く魔女様に見てもらいたくて、俺達モモ上げダッシュで帰ってきたんすよ!」
『お主ら、それは急いでないのではないか? まぁよい、シルヴィも心待ちにしておるし早速向かうとするかの』
「では早速、行くとしましょう。出来上がりがとても楽しみです」
「「ウッス!」」
筋肉獣人の方々がまたポーズを決めてから返事をすると、ようやく外へと向かって行ってくださいました。
悪い人達ではないのは分かっているのですが、どうも彼らが少し苦手です……。
私達の家へと向かう道も整備されていたようで、交易に使う荷車がすれ違えそうなくらいに横幅があり、土もしっかりと踏み固められていてとても歩きやすくなっていました。
道なりに進んでいくと、途中で右に折れる道がありました。どうやら直線ではなく、私達の家の手前で曲がるようになっているようです。そして曲がった先には、広い庭と二階建ての広い家。そしてその横にも家ほどは大きくはないものの、横に長い立派な建物が。
『ほぉー……! 随分と立派な家を建てたもんじゃの!!』
「これは……とても立派ですね」
「驚くのはまだ早いすよ! ささ、中へどうぞ!」
中へと迎え入れられた私達は、その内装にも驚かされました。
玄関をくぐると、カウンターテーブルと四人掛けくらいはできそうなソファがいくつか置かれていて、そのカウンターテーブルの少し横には、奥へ続くであろう入口から奥が見えないように、白いカーテンが設置されています。
「この部屋は一体……?」
「勝手ながら、魔女様の家の一階部分は治療に使えるようにと色々弄らせていただきました! ここは治療を待つ用の待合室っす。ほら、魔女様が村で診てくださってた時、待ってる場所は建物の外だったじゃないですか。だからせめて、座ってゆっくりできるようにしておきたいなと思いまして」
「なるほど。確かにいつも外で待っていただいていましたし、こう言った部屋があれば体を少しでも休めながら待つことが出来ますね」
「そうっす! では続けて、魔女様の診療用の部屋に移動しますね!」
カーテンの向こう側へ移動すると、ベッドが四つと、そのすぐ傍に簡単な椅子と袖机がセットで置かれていました。そして壁際には、何かを収納できそうなガラス窓の付いた棚がいくつか並んでいます。
「魔女様、いつもしゃがんだり膝立ちで診てくださってたんで、せめて座りながらできればと思って小さ目ですが椅子も用意してみました! あそこの棚は薬品とか取り扱うかもしれないと思って一応置いてみました!」
「凄くありがたいです。色々と気を使っていただいて、ありがとうございます」
「いえいえ! 俺達ができることなんてこれくらいしかないんで! 命に関わる傷も治してくださる魔女様には遠く及ばないっすよ!」
「そんなことありません。こうして私の負担を減らそうとあれこれ工夫してくださったのは、皆さんの優しさと技術があるからこそです。大切に使わせていただきますね」
「魔女様に褒めてもらえた! うおぉぉぉ感動!!」
「頑張ったかいがあったぜ!! ぬぅぅん!!」
……感動してもポーズは決めるのですね。本当に不思議な方達です。
それはさておき、とても使い勝手の良さそうな診療室だと思います。同時に四人は難しいですが、流れるように次に向かえるのは良いことですね。ありがたく使わせていただきましょう。
「とまぁ、魔女様向けの作りはこんな感じですが、もちろんお師匠さん向けにも作ってあるんすよ!」
『む? 妾は特に何か頼んだ覚えはないが……』
「シリア様用にも何かがあるのですか?」
「いやいや、これはむしろ俺達の勝手なお願いと言うか、ぜひ有効活用してほしいって言うか。まぁ見てくださいよ!」
そう言いながら彼らは一旦家の外へ出ると、家の裏手の方へと向かって行きます。私達もそれに倣って裏手へ向かうと、診療室への玄関とはまた違った入口が用意されていました。
先に入っていった後を追うように続けて中に入ると、そこは倉庫のような印象を受ける場所でした。ですが、倉庫と言うには少し横に広い感じがしますし、何かを上下で分けるような棚みたいな鉄の柵が気になります。
『ここはなんじゃ? 風通しはよいが、部屋として使うには勝手が悪そうじゃが』
「私も同感です。部屋、というより倉庫のような……」
「お察しがいいですね魔女様! ここはですね、部屋としてじゃなく倉庫として使ってほしいんです。それもただの倉庫じゃなく、お師匠さんが作る酒専用の倉庫です!」
『なんじゃと?』
何を言っているかわからないというようなシリア様に、筋肉獣人の方が照れ笑いしながら答えます。
「いやぁ、この前振舞っていただいた酒がめちゃくちゃウケたじゃないですか。それで、今後も良かったら飲ませて欲しいんですよ。で、たぶんそれは俺達だけじゃなく村の連中とハイエルフ達もだと思うんで、かなり量が必要になると思うんす。そこで、ここです!」
『はー……。お主ら、なかなかに策士じゃな。初めからそれが狙いでここを作りおったな?』
「シリア様が呆れてますよ。初めからそれ狙いだったのかと」
「うへへ」
『うへへーではないわ、このたわけ。まぁ気持ちは分からんでもないが、妾が断ることを考えておらんかったのか?』
「気持ちは分からなくはないそうです。ですが、シリア様に断られたらどうするおつもりだったのですか?」
「きっとお師匠さんなら作ってくださると思ってたんすよ! お願いします! また酒が飲みたいんす!」
「「お願いします!!」」
揃って頭を下げながら頼み込まれてしまいました。シリア様は頭を軽く掻きながら、深い溜め息と共に私に言葉を続けるよう指示しました。
「ワガママな方々ですね……。ですが、希望は聞いてくださるみたいですよ」
「ほ、本当ですか!?」
「お酒を作るのは構わないそうですが、上質なものを作るとなるとそれなりに時間が必要みたいです。そして一度に大量には作りづらいそうです。そのため、供給するにも制限を設けることにはなるみたいですが、それでも良ければやってあげてもいいと」
「ぜひ!! 俺達、美味い酒のためならいくらでも我慢できます!!」
「筋肉に誓えます!!」
「筋肉に誓うのは違うと思いますが……。それなら作ってくださるそうです、良かったですね」
「「ぃよっしゃあああああ!!」」
再び行われる、感動のポージング。もう私は何も言いません。
シリア様にも仕事が増えてしまい面倒ではないかと思いましたが、満更でもなさそうな顔をされているので、悪い気はされていないのでしょう。
私達は続けて、彼らの先導で二階へ続く階段を登っていくことにしました。




