1話 孤独な王女は夢を見る
お話の舞台は変わり、王女様が見ていた夢の内容へ。
ここでの彼女は間もなく16歳の“元”王女となっています。
月明りだけが差し込む部屋の中で、私は目が覚めました。
ゆっくりと体を起こすと、長時間机と向き合っていた全身から悲鳴が上がりました。辺りを見渡すと、目の前には明かりの消えた蝋燭と、山積みの本。そして書きかけの羊皮紙とペンが転がっています。
どうやら、いつの間にか寝てしまっていたようです。
魔法の研究をしている内に、体力が限界を迎えてしまっていたのでしょう。
寝跡が付いていないかと頬を撫でながら窓辺に向かうと、窓の外には明かりの灯った活気のある風景が広がっていました。
月の高さから、恐らくはまだ夕飯時から少ししたくらいでしょうか。
街中を楽しそうに肩を組みながら闊歩する男性や、カップルと思われる男女が仲睦まじくしている様子が見受けられ、ありふれた幸せを謳歌する人々に思わず溜め息が零れます。
私も、あの中に入ることが出来たなら……。
どれだけ願おうとも、叶うことのない小さな呟きは、すっと部屋の中に溶けて消えました。
グランディア王家の第一王女として生を受けた私は、物心つく前からこの塔に閉じ込められて十五年は経ちますが、誰もいない、この狭く小さな世界が私が生きている世界の全てなのです。
昔は悲しくて悲しくて、何故私がこんな目に遭わないといけないのか、本に出てくる王女様と私は何が違うのかと世界を呪ったりもしましたが、今はもうそれすらもしなくなりました。
私は誰の記憶にも残らないまま、ここで一生を終えるのでしょう。なぜなら私は忌み子で、生まれてはいけない存在なのですから。
そう言い聞かせるのも、これで何度目なのでしょうね。
長く伸びた銀色の髪を弄びながら、自分の置かれている状況に諦め混じりの感想を口にしても、それを拾う人もいません。
逆に拾われたら、それはそれで怖いものがありますけれども。
他人を羨むなど、忌み子の私が持ってはいけない感情。こうして生かしてもらえているだけでも、顔も分からない両親には感謝するべきなのです。
ふと、窓ガラスに自分の体が映っていることに気が付きました。水色の右目と、忌み子の証となる深紅色の左目を持った、生気の欠けている自分の顔を見て苦笑します。私は普段通り左目を前髪で隠し、自室を後にして食堂へと向かうことにしました。
薄暗く狭い食堂に魔法で明かりを灯し、そのまま奥の厨房へ入ります。
料理を作ってくれる人もいないので、当然のように私が全て自炊します。
夕飯の準備をしていると、私がまだ幼かった頃の記憶が頭の中に浮かんできました。
全身を真っ黒な服で覆い、仮面も付けていたため誰なのかすら分かりませんでしたが、それでも自分以外に誰かがいるというだけで嬉しいものでした。
話しかけても返事は無く、料理と家事だけを済ませてすぐに帰ってしまう人達でしたが、今ではそれすらも恋しく感じてしまいます。
私にも使い魔がいたら……。
出来上がった料理を食卓に並べながら、また一人呟いてしまいました。
召喚術。それはこの世界のどこかと結びつき、召喚に応じた相手に認められれば、自分の使い魔として使役することが出来る魔法です。術者の技量によって呼び出せる範囲は異なるらしく、私も以前何度か試したことがありました。ですが――。
『いや! 流石に貴女に仕えることはできません! 申し訳ございません!! それではっ!』
『申し訳ないが、他を当たってくれ。俺では荷が重すぎる』
『うわぁー! びっくりした、こんなことってあるの!? 無理無理、あたしじゃ絶対無理だって!』
と、全て向こうから断られてしまいました。低レベルな魔物くらいなら一般的な魔法使いは呼び出せるらしいので、知能の低い魔物を召喚してみようとすると、今度は塔の結界で弾かれてしまい失敗するという結末に……。
おかげで私は使い魔を従えることもできず、結局一人で過ごす他なかったのです。
これまでの失敗を思い返し、やや自虐気味に笑いながら食事を進め、食べ終えた食器を洗い場で洗って部屋へと戻ります。
研究を再開しようかとも考えましたが、今日はなんだがぐったりと疲れてしまっていたので、これ以上研究をする気も起きませんでした。
私は服を着替えてベッドの上に体を投げ出しました。そして、袖机に置いてあるカレンダーを手に取り今日のマスにチェックを入れると、あることに気が付きました。
明日は、私の十六回目の誕生日です。
私が生まれてしまった日。言わば、世界に呪われた日とも言えます。
窓から見える景色を見ながら、どうして私は独りぼっちなんだろうと、何度も何度も泣き腫らした日です。
カレンダーを置き直して、腕で目元を覆うように視界を塞ぎ、私は夢の世界へ逃げ出すことにしました。
せめて夢の中くらいでは、誰かと話したり食事を楽しみたいものですね。
美味しいお菓子も食べながら、人並みに笑って、楽しく過ごしたいです……。
夢くらいなら、ワガママを言っても許してもらえるでしょう。私は自分へのささやかな贈り物にと色々想像していると、疲労感からか次第に意識が薄れていき、まもなく眠りに落ちました。
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