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10話 魔女様は踏ん張る

 私の結界を食い破ろうとする雷の龍が放つ細かな雷撃が、ペルラさん達の足元にも降り注ぎ、それに怯えた彼女達の悲鳴が上がりました。


 状況が一変し、最悪の展開となってしまいました。

 先程までは私一人が痛い思いをするかもしれないで済んでいましたが、ペルラさん達が後ろにいる状態では諦めるという選択肢が取れません。ですが、神力を引き出せない以上、どうしたら……!


「シルヴィちゃん……」


 怯え切った表情で、身を寄せ合いながら私の名前を呼ぶペルラさん。

 その声を聞いて、私の中で何かが大きく鼓動したような気がしました。


 それと同時に、体の奥底から温かく強力な魔力が溢れ出し、私の全身に力を滾らせます。杖を握る手にも力が入り、弱気になっていた心が徐々に持ち直しているのが分かります。


 これが、神力なのでしょうか。

 いえ、考えている場合ではありません。今は何としてでも、ペルラさん達に危害が加わらないようにしなければ!


「ペルラさん! 皆さん! 絶対に、そこから動かないでください!!」


「う、うん!」


 眼前に迫っていた雷の龍を真っ直ぐ見据え、結界に溢れる魔力を注ぎ込みます。

 すると、薄紫色の私の結界が金色に輝き出し、ひび割れていた箇所がみるみるうちに修復され、雷の龍を押し返し始めました。


 この感覚……確かに、これまでにも何度か感じたことがあります。エルフォニアさんと戦った時、絶対に負けたくないと強く思った時に感じたのを薄っすらと覚えています。

 そこで私は気が付きました。私の神力の発動条件はきっと、“譲れない何かを護るため”なのだと思います。


 レナさんと初めて会った時は、“よく分からない人に生活が壊されたくない”という感情でした。

 エルフォニアさんと戦った時は、“優勝して、私達を認めてもらいたい”という想いでした。


 だったら――!


「ペルラさん達は、私が護るべき大切な友達です!!」


 想いが力に変わった瞬間、私に襲い掛かっていた雷の龍は完全に弾き飛ばされ、天を仰ぎながら霧散していきました。

 肩で呼吸をしながら結界の先に見えるフローリア様の姿を見ると、彼女は先ほどの姿勢のまま驚きが隠せないというような表情を浮かべていました。


 役目を終えた結界が光の粒子となって消えゆく中、シリア様が笑います。


『くはは! 神力さえ引き出せれば防げるとは思っておったが、よもや無効化させてしまうとは! これでは神も立つ瀬無しじゃのぅ!!』


「シ~リ~ア~、笑い事じゃないわよ! 今のが無効化されちゃうんじゃあ私、シルヴィちゃんに絶対勝てないわよ~!」


『何を言っておる、当り前じゃろう! シルヴィは妾の子孫ぞ? 妾の力を引き出せるのならば貴様くらい相手にもならん!』


 ぷーっと膨れ顔を見せて怒るフローリア様と、愉快そうに笑うシリア様を見ていると、途端に体にとてつもない疲労感が襲ってきました。とても立っていられないほどのそれにぺたりと座り込み、まだ整わない荒い呼吸をなんとか整えようと試みます。


「し、シルヴィちゃん! 大丈夫!?」


「シルヴィちゃ~ん! 怖かったぁ~!!」


「だいじょ……ぐすっ、うわあぁぁぁん! シルヴィちゃ~ん!!」


 そんな私に、ペルラさん達が抱き付いて来ました。両腕と背後からしがみついてわんわんと泣く彼女達を何とかしたいのですが、今は指一本も動かせないくらいに体が疲れ切っているのでなされるがままになってしまいます。


 だいぶ呼吸も落ち着いてきた頃、フローリア様とのじゃれ合いを終えたらしいシリア様が私の元へやってきて尋ねてきました。


『神力を自力で引き出せた感想はどうじゃシルヴィ?』


「凄まじく、疲れました……」


『くふふ! そうじゃろうな。本来神力というものは、人の身では扱うことのできない力じゃ。それこそ、妾のような人でありながら神になった者の子孫か、神に認められた者くらいしか使うことは叶わん』


 神様になった人物の子孫か、神様に認めていただいた人物。

 どちらにせよ、本当にこの世界の中でもごく僅かな人しか使うことができないのだと実感します。


『如何にお主にも備わっているとは言え、それを無理やり自分の支配下に置こうとするのじゃから、莫大な体力が必要となるのは当然じゃろう』


 シリア様は私の膝の上に泣きついていたペルラさんの頭の上に乗ると、私に言います。


『まぁ、今日のところは神力を引き出せるようになったところで合格点じゃ。今のお主では日に使えて一度、と言ったところじゃし、可能な限り毎日神力を使って体に馴染ませていくこととするかの』


「分かりました」


『しかしまぁ、ほんにお主はこと護りに関しては追従を許さんな! お主が防いだフローリアのあれは、先日妾が勇者共に放った極大魔法を弱めておらんものとほぼ同等の威力じゃぞ!』


 そんな威力だったのですか!?

 運よく発動できた神力でしたが、それができなかった場合を想像してしまい、体がゾクッと震えました。


『雷系統最高峰の魔法に神力を加えたアレンジじゃったが、あれを防げるとなればもう防げぬものなぞ無かろう! くふふっ!』


「くふふ~じゃないわよぉ! く~や~し~い~!」


「わぷっ!」


 口では悔しいと言いながらも、顔は全然悔しくなさそうなフローリア様に押し倒されてしまいました。私とフローリア様の間でペルラさんとシリア様がもがいていますが、そんなことはお構いなしにフローリア様が私に頬擦りを続けます。


「もぅ、シルヴィちゃんどんどん強くなっちゃって~! これじゃあ女神のメンツ丸潰れよ~!」


「ふ、フローリア様、おっぱい苦しっ……」


『むぐぐ! ええい邪魔な脂肪の塊め! 離れよ!!』


「あー! なんてことを言うのシリア!? そんな猫はこうよ、こう!」


『やめっ、むお!? ほ、本当に息が出来んぞ阿保!!』


「むきゅ~……」


「フローリア様! ペルラさんが死んでしまいますから!!」


『妾の心配をせよシルヴィ!!』


「んふふ~! 美女と美少女のサンドイッチなんて幸せね~?」


『いらんわ、たわけ!!』


 フローリア様によるスキンシップはしばらく続き、白目を剥いてしまったペルラさんを救出しようと他の兎人族の子達が動き出すまで終わることはありませんでした。

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