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9話 女神様は魔女様を試す

 翌日の診療が終わってから早速、私の神力を引き出すトレーニングが始まりました。

 シリア様が記してくださった重厚な本――もとい魔導書は非常に分かりやすく、ところどころ猫のイラストを用いて図解されているのが可愛らしいもので、比較的すんなり頭に入れることができました。


 ですが、理屈を理解するのとそれを実践するのはまた違うお話であり。


「ほらほらぁ! 全然神力使えてないわよシルヴィちゃーん!」


「ま、待ってくださ――ひゃあああ!?」


 神力により強化されたフローリア様の雷撃は、私の結界をいとも容易く貫きながら私に襲い掛かってきます。今まで防げていたはずのそれに戸惑いが隠せず、集中するどころでは無くなってしまっていました。


 逃げながら結界を展開しては即座に砕かれ、貫通して襲い掛かる雷撃から再び逃げ出し……と繰り返している私へ、シリア様の叱咤が飛ばされます。


『何を逃げておる! ちっとは神力を引き出して防がんか!!』


「頭では分かってますが! いざやろうとするとできなくて!!」


 神力と言うものは、体内に巡っている魔力の流れの更に奥底に眠っているらしく、何かしらのきっかけがあって初めて呼び覚ますことができるのだそうです。

 ですが、そのきっかけという物が人によって異なるようで、魔法を使っているはずが神力だったという人や、命の危機に反応して使えるようになったという人もいるため、私のきっかけが何かが不明な以上、手探りで探すしかないという現状です。


 正確には、人ではなく神様やそれに準ずる人物らしいのですが、期限を設けられている私としてはそこを気にしていられる余裕が無かったため、そういう物なのですねと流し読みするしかありませんでした。


 ちなみになのですが、シリア様曰く『お主が発現させた二回に共通しておるのは、何かを護りたいという思いのはずじゃ』とのことだったので、今は私の身を護りたいと必死に考えながら結界を張ってはいるのですが……。


「またダメ……! きゃあああああ!!」


「こらシルヴィちゃん! 逃げない逃げない!」


「無理ですフローリア様!! こんなの防げません!!」


「当たっても痛くないわよぉ! 一日くらいは動けなくなるかもだけど♪」


「それ絶対痛い――やああああ!?」


 私の顔の数センチ横を雷撃が掠め、髪が数本空に舞いました!

 結界が割られ続け、走り回っているだけでもどんどん体力が消耗していっています。今はフローリア様も直撃しないように加減をしてくださっていていますが、このままではジリ貧になるだけですし、どこかで神力を引き出せるようにならないと本当に当てられてしまうかもしれません。


 逃げようとした私を止めるように、右斜め前方に雷撃が打ち込まれ、慌てて左へと方向転換をします。そんな私へ、フローリア様は楽しそうに再度雷撃を放つ構えを取っていました。


「ほらほらぁ、次は逃がさないわよぉ~!」


 彼女の言葉通り、放たれた雷撃は寸分狂いなく私へと迫ってきます。


「ま、護って!!」


 内心で強く思いながら言葉にも出し、結界を展開してみます。

 が、それは今まで通り雷撃を一瞬食い止めただけで、結界をあっさりと割ったフローリア様の雷撃が私に襲い掛かってきました。


 これは避けられません。当たってしまいます……!!


 私が固く目を瞑って雷撃のダメージに備えて体を強張らせた直後、私の眼前で何かが雷撃と激しくぶつかった音が響き、それによって発生したらしい衝撃が私の体を後方へと吹き飛ばしました。


「きゃあああああ!?」


 吹き飛ばされ、地面を転がりながら悲鳴を上げる私に、フローリア様が駆け寄りながら叫びます。


「わわっ! シルヴィちゃん大丈夫~!?」


「いたた……。だい、じょうぶです。ちょっと体を打っただけです」


「ごめんね~? 加減はしてたつもりなんだけど……ってあれ? シルヴィちゃん、私の攻撃当たった割には体綺麗ね?」


 私を立ち上がらせて土埃を払いながらそう言うフローリア様に、私も自分の体を見渡します。

 確かに、フローリア様が放った雷撃に飛ばされたと思いましたが、雷魔法特有の体の痺れなどは無く、地面に打ち付けられた時の痛みしかありません。それなりの防御力を持つという私の服も焦げ跡や破れた跡は無く、土埃しかついていませんでした。


 二人で首を傾げているところへ、こちらへ歩み寄ってきたシリア様が言いました。


『恐らくじゃが、【制約】の力が働いたんじゃろ。魔法的なダメージは殺せたが、神力は流石に殺しきれなかったといったところか』


「あら! じゃあ防げなくても吹き飛ばされるだけなら、思いっきり打ち込んでも大丈夫なのね!?」


『妾の推測が正しければ、じゃがな。もしくはシルヴィが、無意識的に何らかの魔法を行使していた可能性もあるが……その顔を見るからに、恐らくこっちは無さそうじゃな』


 話を聞きながら魔法を使った感触は無かったようなと考えていた私に、シリア様がふっと小さく笑いました。

 考えを読まれて少しだけ恥ずかしくなっている私を他所に、何故かフローリア様が楽しそうに足を弾ませながら離れていきます。そこそこ距離を離して振り返った彼女は、突然とてつもない魔力を放ち始めました。


「あの、フローリア様?」


「ん~?」


「何故、そんなに魔力を高めていらっしゃるのですか?」


「魔法を撃つためよ?」


「いえ、それは分かるのですが……」


 私が聞きたいのはそう言うことでは無く、と言いたい私の意図に気が付いたらしいフローリア様は、「あぁ~!」と声を上げ。


「シルヴィちゃんには手加減いらないって分かっちゃったから、とりあえず全力の一発を試してみよっかな~って思ったの♪」


 と、理解の追い付かない発言をすると、ふわりと体を少し浮かせて魔力操作に集中し始めました。

 胸の前で魔力をこねるように両手を動かしながら、真剣な表情を浮かべる彼女は今まで見たことの無いような本気な様子です――ではなく!


「し、シリア様! フローリア様を止めさせてください! あんなとてつもない魔力量、私じゃ防げません!!」


 彼女を中心に束ねられていく魔力はやがて形を取り始め、まるで雷で出来た龍のようにうねりながら周囲に激しく火花を散らしています。

 それを観察していたシリア様は、トコトコと私から離れながら言いました。


『今のお主で作り出せる、最高の結界を展開せねば即座にやられるぞ。吹き飛ぶで済めば良いかもしれぬなぁ』


「そ、そんな……!!」


『何をモタモタしておる。痛いのが嫌ならば、さっさと神力を込めて結界を張らんか』


 もう、何を言ってもお二人とも止めてくださる気配はありません。肌がひりつくほどの暴力的な魔力に焦りを感じながらも、言われるがままに全魔力を込めて結界を編み上げます。


 私が準備している間にも次第に強まっていく雷の龍は、メイナードなんて比較にもならないほどの大きさになり、その首を私へと向けました。紫色の体に映える真っ赤な瞳は、それだけで体が竦みそうなほど恐怖を振りまいています。


 フローリア様は私の様子を見つめながらも準備を終えていて、私の準備が出来次第撃ち込む姿勢に入っていました。


「うふふ! じゃあ、そろそろ撃っちゃおうかなぁ?」


 ゆっくりと右の手の平を私へ向け、左手で右腕を支えるように構えたフローリア様は、にっこりと笑いながら言い放ちました。


「それじゃシルヴィちゃん、本気で防がないととんでもなく痛いからね~? ――天翔ける(フルグラトル・)紫電の神龍(ドラゴディウス)!!」


 彼女の言葉と共に、雷の龍が大口を開けて私を噛み殺さんと向かってきました!

 持てる魔力を全て込めた結界に龍は正面から激突し、一番上に構えていた強固な結界が割れたことで生じたフィードバックが体を襲い、今まで感じたことの無いような衝撃に体が悲鳴を上げます。


 それでも、流石に渾身の結界なら少しは抑えられますね……と思ったのも束の間、雷の龍はガラスを砕くような音を立てながら、私の結界をどんどん食い破って進み始めました。


 エルフォニアさんの時の剣なんて比にならないくらいの威力、そしてレナさんのあの大技ですら子どもの遊びにしか過ぎないと感じさせるほどの強大な魔法に、結界を砕かれるたびに私の踏ん張る足が後退させられます。


 そうこうしている内に、結界が残り三枚を切りそうになっていました。

 さらに魔力を込めて強化しますが、私の抵抗なんてまるで無いような勢いで進み続ける龍の口は、最早私の目と鼻の先にまで近づいています。


 必死に体の中にあるらしい神力に、私を護ってと訴え続けてはいますが、全く発現するような気配すら感じられません。【制約】の加護があるから死ぬことはありませんし、私にはできなかったと諦めるしかないのでしょうか……。


 そんな考えが脳裏をよぎった瞬間。


「だ、大丈夫!? シルヴィちゃん!?」


「っ!?」


 考えもしていなかった来客に、意識が引き戻され。

 嘘であって欲しいと願いながら後ろを振り向くと、そこにはペルラさんが兎人族の子達と不安そうに立ち尽くしていました。

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