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8話 ご先祖様は歴史を語る

『まず、妾の話から始めるかの』


『妾がまだこの世の者だった二千年前、魔王を討伐し平和をもたらしたとして妾達は王家から直接表彰されてな。巨万の富や名誉を手にした者もいれば、苦しかった一族を貴族と扱ってもらえるよう頼む者もおった』


『その中でも魔王へトドメを刺したという実績から、妾は王家へ嫁ぐことになった。魔女の血を取り入れるという点において揉めに揉めたが、まぁここは説明せんでも良いか』


 頬杖を突いていたフローリア様が「シリアの話はいらな~い」と呟き、横にいたレナさんに頬を抓られて悲鳴を上げました。

 シリア様はその様子にくふふと笑い、話を続けます。


『して、王家の地位を得た妾は、王妃として(まつりごと)をこなす傍らで魔法の研究も進め、数多の魔法を極めた末に人類未踏の領域に到達し、“偉才の魔導士”の二つ名を手に入れた魔導の始祖となった』


『そして妾の魔法の才を学びたいと集まった者共を束ね、魔導連合を建立した。他には、レオノーラとの橋渡しとして和平を結んだのも妾の功績じゃな』


 改めて聞いても、本当にスケールの大きなお話です。魔王を倒し、王妃となり、戦争を終結させ、始祖の大魔導士となって魔導連合を設立した。これらを生前に成し遂げてしまうシリア様は、まさしく偉才の名が相応しいものだったのでしょう。


 シリア様は当時を振り返りながらも、腕を組み首を傾げながら続けます。


『して、グランディア王家は妾の血族ともなり、元々平凡であった王家の血はやがて、妾の血が色濃く出るようになった。故に、王家は武術ではなく魔法に優れた子が代々継いでいたはずなのじゃよ』


 そこで言葉を切ったシリア様は、私を見上げながら更に続けます。


『シルヴィも塔の書物を読み漁り、ちっとは知っておるやも知れぬが、王家には神話級の宝がいくつか保管されておってな』


『神の手によって作られた聖剣を始め、世界の歴史に干渉できる鏡や、大陸全土を狙い打てる弓、自身の命を対価に魔力を何十倍にも引き上げる杖など、個人で使うには影響が大きすぎる魔道具がいくつもあった』


「それでは、彼が使っていた聖剣も……?」


『これはあくまでも推測じゃが、あ奴が使っていた聖剣とやらにも多少は神力が付与されておったことから、妾が世を去った後にどこからか見つかった聖剣もどきが、新たな聖剣として扱われてる可能性が高い』


 その説明を受け、メイナードが口を開きました。


『はい。あの剣には神力があり、我の硬化を打ち砕く効果がありました。恐らくは、破魔の類でしょう』


『破魔か、魔女殺しとしては適任な加護じゃのぅ』


 どうやらメイナードが傷を負っていたのは、単純な実力差ではなく、聖剣に付与されていた効果のせいだったようです。

 流石に実力だけで勝てるのはレオノーラくらいですよねと安心していると、『ともかくじゃ』とシリア様が言葉を続けました。


『仮に破魔ならば、妾達はすこぶる相性が悪い。特にレナ、お主の身体能力を大きく引き上げておるのは大神様に鍛えられた魔力が根源じゃ。それを打ち消されたら、お主はそこらの小娘と同等の力しか出せぬじゃろう。もしあ奴と拳を交える時があった時は、一発も受けられないと覚えておくのじゃ』


「一発でも当たったらやばいってことね、おっけー……。あ、でもシリア。フローリアの加護はどうなるの? そっちも消される?」


『こ奴の加護は、単体では効果が薄い。お主の魔力に乗算することで力を発揮させることができるのじゃが、元となる魔力が消されれば同時に消える』


「うわぁ、あたし相性最悪じゃん。気を付けるわ」


『うむ。して、恐らくじゃがシルヴィの結界もあの剣の前には無力じゃ』


「そうなのですか?」


『メイナードほどの硬化魔法が打ち消されるならば、シルヴィの結界を切り裂くなぞ容易かろう。故に、シルヴィの結界を当てにはできん――と言いたいところじゃが』


 シリア様はそこで言葉を切り、前足でテーブルをポンポンと叩きます。すると、シリア様の前に黒いカバーの付けられた一冊の本が現れ、それに右前足を置きながら私へ言いました。


『シルヴィよ、お主のあの結界は未完成じゃ』


「そうなのですか?」


『お主のあれは基礎を省いた独学によるものが故、【制約】の力と妾より受け継いだ基礎魔力の高さでカバーしておるだけの、半ば力業による代物に過ぎん。そこで、奴らが妾達に報告を持ってくるまでにお主の結界を完成させようと思う』


「あら! じゃあ遂に、シルヴィちゃんに神力の使い方を覚えてもらうのね!?」


『うむ。ざっくりとじゃが、基礎となる部分はこの本に書き記した。それに、シルヴィは意図せずではあったが、これまでにも何度か妾の血の力を以て神力を発動させておる。神力を操る器としては十分じゃろう』


 もしかして、使うなと言われた拘束魔法のことでしょうか……と首を傾げていると、フローリア様が私に答えてくださいました。


「ほら! レナちゃんと初めて会った時に、本気のレナちゃんを結界で止めたでしょ? あの時、絶対破られそうだったのにいきなり楽にならなかった?」


「言われてみれば、何だか体の奥底から魔力が沸き上がってきた気がします」


「でしょでしょ? それに、エルフォニアちゃんと戦った時も同じじゃなかったかしら? あんな高密度の大剣が四本も突き立てられたのに、全部防ぎきってレナちゃんを治癒しちゃったでしょ?」


 そう言えば確かに、どちらの時も限界の状態でした。魔力が底を尽きそうだというのに、全身を温かい力が巡っていたような、不思議な感覚があったのを覚えています。


「あれ、実は神力を使っていたのよ~! シリアには時が来るまで言うなって言われてたけどね!」


『妾としても、もう少し遅くて良いかと思っておったが、流石にあれを前にして無力を晒す訳にはいかんからな』


「えっ、じゃあシルヴィってシリアやフローリアみたいな、桁違いの力が使えるの!?」


「そうよ~! と言っても、やっぱり人の子だから全部とはいかないけどね。ちなみにシルヴィちゃんが神力使うときは、両目がシリアみたいに赤く染まるのよ~」


「あぁ~、やっと分かったわ。技練祭の時に目が赤くなってたからヤバイんじゃって焦ったけど、そういう事だったのね」


「そういう事!」


 何故か自分のことのように自慢げなフローリア様の話をまとめると、次のような感じでした。


 フローリア様曰く、私の神力は“強化と再生”に特化してるとのことです。

 エルフォニアさんとの戦闘が分かりやすかった特に分かりやすかったらしく、壊れかけていた結界を強化して、完全な状態に再生させていたのが顕著な例であるそうでした。

 さらに、それと同時に神力を使った治癒をレナさんに施した結果、レナさんの傷を完治した上に、レナさんの身体能力をを大幅に強化してしまっていたのだとか。


「あ! やっぱりあの時の体の軽さって気のせいじゃなかったんだ!? どうも不思議だって思ってたのよー、やっとスッキリしたわ!」


 イマイチ理解が追い付かない私とは対照的に、今の説明でレナさんは心当たりがあったらしく、どこか腑に落ちたような顔を浮かべています。

 話に置いて行かれているエミリやツバキと共に同じ顔をしている私へ、シリア様が笑いました。


『くふふっ! まぁ当の本人は必死じゃったから分からんのも無理はない。じゃが、この一週間で神力の引き出し方を死ぬ気で会得せよ。さもなくば……』


 ニヤリと悪い顔を浮かべるシリア様に、私は嫌な予感しかしませんでした。


『お主の体を使って、妾主催の筋肉祭でも開催してやろうかの』


「本当に嫌なので絶対会得します!!」


 即答する私を、皆さんがおかしそうに笑います。

 たぶん冗談だとは思いますが、シリア様のことなので本当にやりかねません。この一週間で、何としてでも神力を扱えるようにならないといけなくなってしまいました……!

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