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7話 ご先祖様は情報を持ち帰る

『グランディア王国内レヒティン領ハルディビッツが、一人の魔女によって滅ぼされた。魔女は深夜に街に現れ、大規模爆破魔法を放ったと思われる。』

『その魔女は森を棲み処とし、かの悪名高い凶悪な魔獣カースド・イーグルと、それに引けを取らない巨体を持つ狼型の魔獣を従えている、強大な力を持つ白銀の髪の魔女である。』

『冒険者諸君には危険を承知で、かの魔女の討伐を依頼したい。討伐報酬は白金貨三百枚。』

『ハルディビッツの無念を、どうか晴らして欲しい。健闘を祈る。 冒険者ギルド管理組合』


「……だって。ていうか白金貨三百枚っていくら?」


 レナさんの問いかけに、フローリア様が顎に指を置きながら思い出すように答えます。


「うーん。確か地球の円換算にすると、こっちの金貨が一枚で一万円くらいだったから、それが十枚で白金貨一枚のはず……」


「ってことは、三千万!? 最早国家指名手配レベルじゃない!!」


 ぎょっとするレナさんに、シリア様が腕を組んで頷きました。


『破壊された規模が規模じゃからな。街がひとつの爆破魔法によって吹き飛ばされて負傷者は多数、復興しようにもシルヴィがおるせいで再び襲われるのではないかと恐れ、滞っておるようじゃ』


「街ひとつ吹き飛ぶって、どんだけやばい魔法ぶっ放したのよ……テロじゃないそれ」


『だからこそ、懸賞金の額も跳ね上がっておるのじゃろうて。そこらの小悪党なぞ比べようにもない』


 規模の大きさに驚きを隠せないレナさんの隣で聞いていたフローリア様が、両手で頬杖を突きながら言います。


「大体、シルヴィちゃんには【制約】があるから無理よねぇ」


『うむ、故にシルヴィの犯行では無いのは明らかじゃ。家屋を意図的に破壊しようと考えようものなら、その中にいる人間も殺すことになるからの。そもそも魔法が発動しなくなる人間に、どう街を滅ぼせと言うのじゃ』


 シリア様の説明に続けて、エミリも元気よく援護してくれます。


「お姉ちゃん、ずっとわたしと一緒に寝てたよ!」


『分かっておる。こやつが妾から遠く離れれば離れるほど、妾への魔力の供給が滞ることになる。ほれ、妾は魔王城へ向かう船旅の中、夜間は姿を消しておったじゃろう? あれはシルヴィから供給されておった魔力を温存するために実体を解除しておったのじゃよ』


「あー! そう言えば夜、おトイレに起きた時にシリアちゃんいなかった気がする!」


『じゃから、夜中にシルヴィが一人でどこかへ行ったという可能性もあり得ん』


 シリア様はその可能性はないと体現するかのように、割ったクッキーの欠片を口に放り込みました。


『……して、何故メイナードとエミリを従えている白銀の髪の魔女と知れ渡っていたかと言うことに話を移すが、どうもこの前に魔王城へ向かっておった際に、森の中に人間領の情報屋が潜り込んでおったようでな』


「え!? 全然気が付かなかった……!」


『上手い事隠れておったのじゃろうよ。そ奴らはメイナードが街へ投げ返したようじゃが、その時の情報が隠れ蓑として使われたのじゃろ』


「カースド・イーグルなんて超強力な魔獣を従えてる魔女、ってだけで魔女としての実力は折り紙付きってことよね~。良いように使われちゃったわね、シルヴィちゃん!」


 ふふっと楽しそうに言うフローリア様の気楽さが、とても羨ましく思ってしまいます。

 しかし、街を破壊したのが誰かが分からない以上は、私への疑いは晴れないままでしょう。今はまだ誰もこの森の中に入ろうとしている人はいませんが、この先また彼らのような人に狙われないとも限りません。


 やや重い空気が漂い始めた中、シリア様がくふふと笑いながら話を続けました。


『じゃが、しばらくはシルヴィを狙いに来る阿保は来ない。それは断言しても良いぞ』


「何故断言できるのですか?」


 私の問いかけに、シリア様は答えます。


『先日襲いに来た勇者共がおったじゃろ? あ奴らに依頼を取り下げさせ、依頼を出した人物を探らせておる』


 その後の説明を軽く聞いた限りでは、私達が眠っていた間に、シリア様は色々と事を進めていらっしゃったようです。

 勇者一行が襲撃に来た次の日には、シリア様はすぐに魔導連合へと向かわれてしまったので、今日まで進捗を伺うことができませんでしたが、討伐依頼が取り下げられたのならひとまずは安心しても大丈夫そうです。


 ほっと胸を撫でおろしていると、何かが気になったレナさんが声を上げました。


「そう言えばあいつら、勇者一行って言ってたんだっけ? 勇者って王家に選ばれたりーって言うのがゲームのセオリーだけどさ、あいつらもそうなの?」


『うむ。それも、ただ王家に選ばれただけではないらしくてな。あのパーティにおった勇者の小僧……あ奴が、現グランディア王家の第一王子として扱われておるようじゃ』


 シリア様が述べた事実に、私は驚きを隠すことができませんでした。

 私が疑問を口にするよりも早く、レナさんが私の代わりに質問を投げかけます。


「はぁ!? え、待ってよシリア! そんなのおかしいじゃん! 第一王女はシルヴィなんだから、第二王子になるんじゃないの!? ていうか、シルヴィの弟ってことになるの!? 全然似てなかったけど!」


『落ち着けレナ。それは妾も疑問を感じておるところじゃ』


 シリア様は気になっておられる点を、空中に書き記しながら続けます。


『妾の血を継いでいる割には妾の魔力を感じられぬこと、王家は代々魔法より武術への適性が高くなっておること、失われたはずの聖剣が復活し、勇者を選んでおること……。あ奴や現王家には謎が多すぎるのじゃ。軽く数えるだけでもおかしな点がいくつも見えてくる』


「どういうこと? あたしもシルヴィやシリアから聞いた程度だから、王家の事とか全然分からないんだけど」


『うむ。ちょうどいい頃合いじゃし、ここらで改めてグランディア王家の事について話すとするかの。良いなシルヴィ?』


「はい。私自身も書物でしか知識が無いので、当人であるシリア様から教えていただけるとありがたいです」


『当人、か。お主も当人のはずなんじゃがのぅ』


 シリア様に笑われてしまい、愛想笑いで返すしかありません。

 そんな私をひとしきり笑い、シリア様は『どこから話すか』と視線を宙で泳がせながらも、グランディア王家について語り始めました。

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