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5話 女神様は秋服を持ち帰る

 食事の後片付けも終えたところで、フローリア様によるお披露目会が始まりました。


「ではでは~! お待ちかねの新しいお洋服をお披露目しちゃいま~す!」


「いえーい!!」


 レナさんに続いてパチパチと拍手を送ると、彼女は両手でピースを返してから続けます。


「お菓子も持って来ようとしたんだけど、そっちは全部取り上げられちゃった。ホントに食べ物には厳しいわね~大神様」


「まぁ食文化自体全く違うしね。あまり大きく変化させたくないんじゃない?」


「そんなこと言ったら料理本もダメな気がするけど、そっちは許してもらえたのよね~。よく分かんないわ……まぁいっか! それじゃあ気を取り直して、まずはレナちゃんのね!」


 フローリア様は紙袋からゴソゴソと服を取り出し、じゃじゃーんと効果音を言いながら私達に一着の服を見せます。それはゆったりとした深紅色のセーターと、黒を基調としたロング丈のスカートにさりげなく桜の絵があしらわれている落ち着いた物でした。


「うわぁー! 暖かそうだしシンプルで可愛いわ!!」


「えっへへ~! これにこのロングタイツでセットね!」


「ありがとフローリア! 石油王さんにも感謝しないとね!」


「あ、今日はセキユオーさんが買ってくれたんじゃないの。なんかファッションモデル? っていうのを探してた偉い人がぜひお願いしたいーって頼んできたから、妹達に服を買ってくれるならって条件で買ってもらったの」


「ファッションモデル!? あんたホントに、運の高さが異常よ……。たまたまスカウトマンに見つかるとか、狙ってできることじゃないわよ」


「えっへん! これでも私は女神だからね☆」


 さも当然のように返されてしまったレナさんは、苦笑しながら着替えに向かいました。それを見送ったフローリア様は、続けて別の服を取り出します。


「次はね~、エミリちゃん! エミリちゃんのは可愛いわよ~?」


 彼女が手に取ってみせるそれは、エミリと一緒に私まで感嘆してしまうものでした。

 襟から裾にかけて大振りなレースが付いているブラウスには、青色のリボンがさりげなく付けられていて、薄めのブラウンのチェックスカートと併せると、何ともお淑やかなお嬢様らしさが溢れ出るコーディネートです。


「わぁ~! ありがとうフローリアさん! わたしも着て来ていい!?」


「もちろんよ~!」


 エミリは買ってきていただいた服を手にすると、大喜びで部屋へと駆けていきます。そんな愛らしい後ろ姿に微笑んでいると、フローリア様がニコニコとしながら私をじっと見つめていました。……なんだかとても嫌な予感がします。


「シルヴィちゃん、前に私に言ってくれたわよね? フローリア様が選んでくださった服なら何でも嬉しいです~って」


「私、そんなこと言いましたか……?」


「酷ぉい! 忘れちゃったの~? ほら、水着を着た時になんだかんだ気に入ってくれてたじゃない?」


 私は彼女の言葉を受け、当時を振り返ります。

 確かにビーチバレーで楽しんでいた時、少し気恥ずかしさはあったものの、動きやすく涼しい服だったのでフローリア様にお礼を言ったのは覚えています。ですが、何でも嬉しいですとまでは言ってなかったような……?


 少し記憶が曖昧な私に構わず、フローリア様は言葉を続けます。


「そんなシルヴィちゃんに、この服を買ってきました!」


 彼女が取り出したのは、白猫の着ぐるみのような服でした。


「結構です」


「えぇ!? これすっごい暖かいのよ!? それにほら見て見て? ここの手のとこなんかね……ほら! 手を覆う肉球手袋が付いてるの! とっても可愛いでしょ!?」


「とても可愛いとは思いますが、私はいりません」


「お願い! これを着て『にゃ~ん』ってやってほしいの~!!」


「絶対にやりません。ご自分で着てください」


「これ着てくれたら、レナちゃんと一緒に寝ていいから~! ね?」


「ね? と言われましても、私にはエミリがいますので。それに、レナさんに許可なく勝手に特典にするのは良くないと思います」


「じゃあ私が一緒に――」


「もっと遠慮しておきます」


「なんでぇぇぇぇ!? 海に行った時はあんなに喜んでたのに! あれは遊びだったのね!?」


「な、何て語弊のある言い方をされるのですか!? あれはフローリア様がマッサージをしてくださっていたのが気持ち良かっただけです!!」


「じゃあじゃあ、今度は夜のマッサージをしてあげるから! レナちゃんに好評なのよ、私の腕!」


「いらないこと言ってんじゃないわよ馬鹿フローリア!!」


「きゃあん!!」


 服を着替えたレナさんが丁度戻ってきたらしく、鋭い膝蹴りがフローリア様の背中に突き刺さり、彼女の体がびたんと壁に叩きつけられました。

 顔を真っ赤にさせているレナさんは、慌てながら私に訂正してきます。


「ご、誤解だからねシルヴィ! あたし、そんないやらしいことしてないから!!」


「は、はい……」


 レナさんの部屋には特に強めの防音の魔法が掛けられているので、隣である私の部屋に音が漏れることはありませんが、起こしに行く時に二人とも服を着ていない時がたまにあるので何とも言えません。

 私があまり信じていないことを察したレナさんは、紙袋からやや乱暴に残っていた服を取り出して私へ押し付け、口早に捲し立てます。


「ほらこれシルヴィのでしょ! 早く着替えて来なさいよ!」


「わ、分かりました」


「ホントにあたし、フローリアとそういう関係じゃないからね!!」


 レナさん、そういうことはあまり大きな声で言わないでください。後でエミリに聞かれた時に何と説明したらいいか分からなくなります。

 私はぎこちない愛想笑いを浮かべながら部屋へ向かい、着替え終わって出てきたエミリを撫でまわしてから交代で着替え始めます。


 ベッドの上にレナさんから渡された服を広げて見てみると、ゆったりとしたベージュのニットに黒のフレアスカートといった組み合わせでした。フレアスカートは薔薇のレースで仕立てられていて、とてもシンプルながら落ち着いた私好みのデザインです。


 手早く服を着替え、私服用の黒のヒールを取り出して履き替えていると、唐突にシリア様の魔力を感じました。それから間もなく、私のベッドの上にシリア様がぽすんと着地して姿を現しました。


『ふぅ。ようやく一息入ったと思うたら、次から次へと……。む? 何じゃシルヴィ、その恰好は』


「シリア様!! おかえりなさい!」


『むぉっ!? な、何じゃ何じゃ!? やめよ、妾は疲れておるんじゃ! 抱き付くな! 離さんか、これっ、シルヴィ!!』


 久しぶりに再会できたシリア様に抱き付いてしまった私を、シリア様は鬱陶しそうにしながらもそれを受け入れてくださるのでした。

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