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18話 ご先祖様はお酒を楽しみたかった

 二度目の飛行は思ったより怖くありませんでした。と言うのも、シリア様が私を気遣ってくださり速度を緩めて飛んでいただけたのです。ですが、やはり視界を遮るものは一切なく、こんなか細い箒の柄が折れてしまったらなどと考えてしまい、怖さが和らぐことは微々たるものでしかありませんでした。


 それでも徒歩よりは全然早い訳で、私達が村を発ってからものの数分でハイエルフの集落に到着です。


「あれ、魔女様だ――ってあっははははははは!! 何なのその長!! あっははははははは!!」


「どうしたの? ってやだ! 魔女様達が長の丸焼き届けてくれたわよー!!」


「まだ焼いてはおらん。食べごろではありそうじゃがの。くふふっ」


『こんばんはー……』


 私達をと言うより、吊り下げられたスピカさんをですが。ハイエルフの皆さんが大笑いしながら出迎えてくださいます。

 シリア様が箒から飛び降り、ロープを外すと地面に音を立てながらスピカさんが落ちました。結構激しく落ちたと思いましたが、スピカさんはその衝撃でも起きる気配がありませんでした。


 体を入れ替わった私達に、ハイエルフの方から質問が投げられます。


「え、なにこれ。なんで長こんなぐっすり寝てるの? しかもなんか顔赤いし」


「えっと、私達の部屋でシリア様とお酒を楽しまれていたようで、私が帰ってきた時には既に酷い有様でして」


「おさけ? おさけと言うものは、どういうものなのかしら」


『そうじゃろうと思うて、余った分を持ってきておる。シルヴィ、飲み物を入れるようなグラスを持ってこさせよ。それと酒の説明も簡単にする故、会話は任せるぞ』


「分かりました。今持ってきていますので、飲み物を入れるグラスがあればお見せできますよ」


「あ、ちょっと待っててー!」


 いつの間にか余ったお酒を収納していたらしいシリア様が、空中から瓶に入ったお酒を私の手元に渡してきました。

 見慣れない様子のハイエルフの方々が瓶をしげしげと見ていると、奥からグラスをいくつか手に持った方が戻ってきました。


「これでいいー?」


「はい。……こちらがハイエルフの皆さんが作ってくださっている果実を用いたお酒です。私達の地域では嗜好品として嗜まれているものでして、人によって合う合わないは分かれますが、気分を高揚させてくれる飲み物です」


「へぇー、透き通った色なのにいい匂い! いただきまーすっ」


「んく……。まぁ! 口の中で果実の香りがさらに広がるわ! これがおさけと言う飲み物なのね!」


「美味しいー! それになんだか、体がぽかぽかしてきたような気がする!」


「寒い地域ではこのお酒よりも強い物を飲んで寒さに耐える、という風習もあるのです。このお酒はかなり弱い方ですが、それでも多少は体が温まり楽しくなってくるかと思います」


「ええ、心なしか気持ちが明るくなってくるわ。不思議な飲み物ね……。まるで、魔女様の魔法みたい」


 ハイエルフの方々に、シリア様お手製のお酒は大変好評のようです。地面の上で気持ちよさそうに寝息を立てているスピカさんはすっかり忘れられているようですが、代わる代わるおかわりを求めては飲みながら感想を話し合っています。


「ねぇ魔女様! このおさけまだある? もしあるなら倉庫の果実と交換してほしいな!」


「すみません、今日はこれ一本しか持ってきていなくて……。今度時間がある時に用意しておきます」


「なら、今度魔女様達の家が出来上がったら、治療以外にもお酒を買いに寄らせてもらうわね!」


「はい、お待ちしています」


 どうやら、私の治療以外にも定期的な食糧調達のルートが出来上がりそうです。これで家に移り住んだとしても、食料問題には困ることは無さそうです。


 スピカさんを回収したハイエルフの方々と別れ、私達は村へと飛んで戻り、今度はちゃんと扉から入ろうとしたところを、村の方々に呼び止められました。


「な、なぁ魔女様! 部屋にあったあの瓶の飲み物ってまだありますか!?」


「俺も飲んでみたいっす! 魔女様!」


「魔女様、私達も頂きたいのですがいいかしら……?」


 恐らく、私達に用があったため部屋を叩いても返事がなく、抜け殻だったあの部屋に残されていたお酒を興味本位で口にしたのでしょう。何人かがスピカさん同様に、顔を赤らめている姿が見受けられます。


 ですが、私の腕の中にいる方が体を震わせながら一際顔を赤らめていました。これはお酒のせいではありません。


『貴様ら! 勝手に部屋に入るわ、妾が楽しみに残しておいた酒を飲むわ、その上たかるわと何様のつもりじゃ!! そこに直れたわけ共!!』


「うおわっ!? 何て言ってるか分かんないけど、お師匠さんがお怒りだぞ!! あれお師匠さんのだったんじゃねぇのか!?」


「だからお前逃げるの早いんだって! 待て――いっでぇぇ!!」


『絶対に逃がさんぞ貴様らー!!』


 鬼ごっこが始まり、取り残された私とご婦人組は苦笑しながらも、その様子を微笑ましく見ていました。

ハイエルフも森の獣人も、シリアの作るお酒が気に入ってしまったようです。

これがきっかけで、彼女達の家にも変化が……?


次回は明日のお昼頃更新です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 酒は命の水! スピカさん可愛いや〜♡ もうシルヴィちゃんと結婚したらいいのに…( ˘ω˘ ) でもまだキャラが増えるみたいだし、どうなるのかな?? うーん百合ップル楽しみ♪
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