34話 魔導連合の長は焦る
『魔導連合に所属する魔女、魔法使いの諸君へ』
『緊急連絡だ。ここ最近の人間領の動きに不審な点があったため裏で調査を行っていたのだが、どうも特定の魔女に対し、討伐依頼が出ているらしい。まだ詳細な内容は把握できていないが、報告によると“森に住む魔女”を対象とした依頼が出回っているとのことだ』
『何故突然討伐依頼が出回るようになったのか、また誰が対象とされているかは現状不明だ。魔女であるため、人目を忍んで各地の森に姿を潜めている者も魔導連合には多いが、各自、拠点としている周囲の警戒を強め、有事の際は交戦になり得る可能性も考慮して欲しい。無論、当面の間は魔導連合に身を寄せることも許可する』
送られてきた連絡を読み、私はレナさんやエルフォニアさんへ顔を向けます。レナさんも理解が出来ていないという顔を浮かべていましたが、エルフォニアさんは顎に手を当てて考えるような素振りを見せています。
私が今の文面について尋ねようとした瞬間、手にしていたウィズナビが着信を告げる子猫の泣き声を上げました。慌てて画面を見ると、連絡を掛けてきたのはアーデルハイトさんでした。
「はい、シルヴィです」
『急にすまない、【慈愛の魔女】。先ほど送ったメッセージは読んだか?』
「はい。何故か森に住む魔女を対象に、討伐依頼が出ているのだとか何とか……」
『あぁ。概ね先ほど送った内容が全てなのだが、あれには続きがあってだな』
そこでアーデルハイトさんは一度言葉を切り、たっぷりと間をおいてから続けました。
『全体に周知するために“森の魔女”と漠然とした情報を流したのだが、正確には“カースド・イーグルとそれに引けを取らない大きさの狼の魔獣を従えた、白銀の髪の魔女”と書かれていた。私が知る限りでは、カースド・イーグルを従えている魔女は魔導連合の中でも一人しかいない』
私は、アーデルハイトさんが何を言おうとしているのか察してしまい、違って欲しいと淡い期待を込めながら続きを促します。
「それって……」
しかし、いつだって現実は残酷で、あまりにも無情なのでした。
『カースド・イーグルを従え、森に住む白銀の髪の魔女……。それは【慈愛の魔女】、お前の事だ』
アーデルハイトさんの告げる事実に、気が遠くなりそうになります。
いつかは王国の人達から追われる身だとは塔を出た時から覚悟はしていましたが、こうも早く見つかって、更に命を狙われることになるとは思ってはいませんでした。
『…………! ……しろ、【慈愛の魔女】!!』
「えっ、あぁ、すみません!」
『受け入れがたい事実であるとは理解はしている。そもそも、あの森にはお前が放つ魔力に耐性のない人間は立ち入ることすら困難なはずだが、何故入れたのかすら謎なのだ。それこそ、お前が森を不在にしない限りは、お前の持つ魔力に本能的に怯えて森に近づこうとすらしないのだが……何か心当たりは無いか?』
心当たりは勿論あります。クローダスさんによって魔王城へと連れていかれ、魔族領を観光していた三日間の時でしょう。
「実は、一カ月くらい前に魔族領にある魔王城へお邪魔していまして、三日間だけでしたがそれだと思います」
『魔王城だと!?』
ウィズナビ越しに、アーデルハイトさんが勢いよくテーブルを叩いて立ち上がり、書類がドサドサと落ちる音が聞こえてきました。
アーデルハイトさんは非常に焦った様子で、私に問いかけます。
『何故お前のような新米魔女が、魔王と謁見している!? いや、問題はそこではない。無事なのか!?』
「え、えぇ。魔王であるレオノーラとも仲良くなれましたし、今は彼女の招待で魔族領の海へ遊びに来ていまして」
『待て、魔王を呼び捨てなのか!? 何があった!? 何かあれば報告しろと言っていただろう!』
そ、そう言えばレオノーラの一件があってからと言うもの、森に結界を作ったり、魔族領の魔素を浄化したりと忙しくしていたので報告をするのを失念してしまっていました。
少し困り顔の私に気が付いたシリア様が、テーブルの上から私へ尋ねます。
『どうしたシルヴィ? トゥナが何か言ってきたか?』
「ええと、レオノーラの事をアーデルハイトさんへ報告していなかったのを指摘されてまして……」
『おぉ、そう言えばバタついておったし、時間も取れなかったのぅ。どれ、妾に代わるが良い』
ウィズナビを周囲にも聞こえる設定に変更し、シリア様の足元に置くと、私の代わりにシリア様が説明を始めました。
『聞こえておるかトゥナよ。妾じゃ』
『シリア先生!? お忙しいところすみません』
『構わん。お主に説明するにはシルヴィでは足りぬじゃろうと思うてな』
『すみません。どういう状況か教えていただけないでしょうか? この一カ月で何があったのですか?』
『うむ。まずは妾達の森の件から話すかの……』
シリア様はこの一カ月と少しで私達に起きた出来事を、かいつまんで説明し始めました。




