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33話 魔王様は別れを惜しむ

「はぁ~……。今日でシルヴィ達と別れるのが悲しくてなりませんわ」


 滞在最終日となる三日目のお昼を食べ終わり、食後のお茶を頂く私達へレオノーラが物憂げに呟きました。


「貴女達はいつも一緒で楽しそうにしていて羨ましいですわ……。(わたくし)はこれから、クローダスに押し付けていた仕事の最終チェックや、私がいないと進まない案件に忙殺されなければいけませんのに」


『お主は王じゃろう。ゴネてないで大人しく民のために身を粉にせい』


「私、これでも毎日民を想って行政を回しておりましてよ? もう少し労ってくださってもよろしいのではなくて?」


『王の座を選んだのはお主じゃろうが。遊びたいから働きとうないなぞ、子どもの言い草じゃぞ?』


「シ~ルヴィ~、シリアが虐めてきますの~」


「私に泣きつかれましても、ただの魔女である私にはどうにもできませんよレオノーラ」


 嘘泣きをしながら頬擦りをしてくるレオノーラを適当にあしらうと、彼女は頬を膨らませ大袈裟に拗ね始めました。


「グランディアの血は冷たいんですのね! きっと青色の血が通っているのですわ!」


『阿保言っとらんで、さっさとシルヴィに頼まれた魚介類の支度をせんか』


「もうとっくに終わってましてよ!」


 レオノーラがテーブルの呼び鈴を小さく鳴らすと、別室で控えていた宿の給仕の方が扉を開けてレオノーラに要件を伺いに来ました。その方へ「あれをお持ちなさい」とだけ告げると、恭しく一礼をして再びドアの向こうへと去っていきます。


 それから間もなく、冷気を纏う白い箱を一人三箱ほど持った大柄の給仕の方々が現れ、レオノーラの横にそれを並べます。


「これが、お願いした魚介類ですか?」


「えぇ。貴女が欲しいと頼んだものから、調理人に選ばせた新鮮な素材まで様々入れておりますわ。この箱に入れておけば冷凍保存状態が保てますから、このまま持ち帰ってくださいませ」


 私達へ見せるように箱の蓋を外すレオノーラ。調理担当である私がその中身を確認すると、小分けにされたマグロや下処理が済まされているイカやタコ、そして大粒の貝類などがゴロゴロと入っていました。どの箱にもそれぞれ下処理済みのものが入っているようで、すぐに調理に使えそうな状態です。


 食べ物に釣られたレナさんとエミリも私の横から箱を覗き込み、その数々を見てレナさんがぎょっとした顔をしながら声を上げました。


「うわっ!? 海の幸がこれでもかって詰まってるじゃない! こんなに貰っていいの!?」


「貴女にあげるとは言ってませんわ、あくまでもシルヴィにあげるのです。それに、シルヴィの希望でこれからはここ近辺で漁をしている業者との売買も行うことになりましたし、これは試供品の一種ですわ」


「わぁ~! お家でもお魚食べられるの!? ありがとう魔王様!」


「うふふっ! シルヴィに作っていただいて、お腹いっぱい食べてくださいましね」


 エミリに甘いレオノーラは、そう言いながら彼女の頭を愛おしそうに撫でます。エミリ自身もレオノーラの事が好きらしく、撫でられては顔をふにゃりと崩して尻尾をブンブンと振っていました。


 しかし、この量は少し……いえ、かなり荷物になってしまうかもしれません。

 どう持ち帰るべきか考え始めた私の顔から、考えていることを読み取ったレオノーラが「安心してくださいまし」と声を掛けて来ました。


「帰りも大型転移を使いますし、荷物共々一緒に転移させますわ。家の中に運び込む作業だけは貴女達にやっていただかなくてはいけませんけれども」


「ありがとうございます、レオノーラ。転移の魔力消費も激しいのに……」


「うふふっ! 疲れるのは私では無いので構いませんことよ!」


「えぇ!? また私の魔力を使うつもりなのですか!?」


「当然でしょう? 私はこれから魔王としての業務も残っておりますの。私よりも魔力内包量が多く、今日はもう帰って寝るだけのシルヴィが払うべきではなくて?」


「バカンスに誘ってくださったレオノーラが払うのが常識では無いのですか!?」


「あら!? 貴女が常識を語りますの!? 生意気なお口ですこと! そんなお口にはクッキーを詰めて差し上げますわ!!」


「や、やめてくださいー!」


 私に馬乗りになってクッキーを詰め込んで来ようとするレオノーラに抗っていると、私達のウィズナビから一斉に子猫の泣き声が数回聞こえてきました。


「今のは何の音でして? シリアが柄にもなく可愛い声でも出しましたの?」


『妾ではないわ! 今のはシルヴィ達のウィズナビの着信音じゃ』


 レオノーラにどいてもらい、ポケットからウィズナビを取り出して何が届いたのかを確認します。

 差出人は……アーデルハイトさんです。

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